Beastmakerぶら下がり時間アンケート結果Part3

Part1、Part2からの続きです。今回は懸垂回数とグレードの関係を確認します。Part1、Part2を見ていない方は先にそちらを見ていただくと理解が早いと思います。

 

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全体の傾向

Part2と同様に、まず限界RPグレードとの関係を例に確認していきます。

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緩やかな右肩上がりで、概ね14mmエッジと似たような傾向に見えます、同一回数の懸垂ができる人の間でも大きくグレードがバラつく結果になりました。そして、統計的な観点で言うと、P値が0.3で有意水準5%を満たしませんでした。つまりデータからは、懸垂回数とRP限界グレードの間の相関があるとは言い切れない結果となっています。

目立つ点としては、グラフの丸で囲んだあたりで、ハイグレードの人の懸垂回数は15〜20回くらいにあり、それ以上の30回くらい懸垂ができるグループでも、グレードには直結していないように見える点です。仮説として、懸垂のような垂直方向の引き付け力は、一定以上の力があれば、それ以上はグレードに寄与しない可能性がありそうです。

ライミング嗜好でグループ分け

Part2と同じく、ボルダリングしか行わないグループ(A:回答数30)とそれ以外のグループ(B:回答数19)で分けて分析します。

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(A)ボルダリングしか行わないグループ

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(B)それ以外のグループ



14mmエッジのぶら下がり時間よりさらに傾向は顕著で、Aグループでは相関がほぼ見られない結果になった一方、Bグループでは相関係数の5%水準を満たしており、相関がありそうという結果になっています。AグループとBグループを合わせた全体のデータにて相関が見られなかったのは、Aグループの結果に引きずられている可能性が高いです。

全体ではこれも仮説ですが、ルートクライミングでは、上方向に引きつける動作を延々と繰り返すことが多いため、より強く相関が出ている可能性が考えられます。

相関関係と因果関係

今回、懸垂回数とグレードの相関を確認してきましたが、因果関係までは言及できていない事は注意が必要です。懸垂回数が多いから高グレードが登れるのか、高グレードが登れる人は懸垂回数が多いのかは、データからだけでは判断できません。これはPart2の14mmエッジぶら下がり時間についても同様です。

とはいえ、フィンガーボードや懸垂は数十年にわたり過去のクライマーが行なってきた基礎トレーニングですし、クライミング動作に近しい動きのフィジカル数値なので、経験則としては一定の因果関係があると考えていいでしょう。

終わりに

アンケート結果の分析は以上です。データから読み取れたのは、経験的にわかっている内容の裏打ちが多かったですが、具体的な数値で確認できたのは面白かったです。ご協力いただいた方々、どうもありがとうございました!

アンケート集計のデータは、生データのみ、googleスプレッドシートで公開してみますので、興味のある人は是非いじってみてください。管理人のスキルではわからないことも、統計スキルのある人が見たらわかることがあると思います。

 

https://docs.google.com/spreadsheets/d/e/2PACX-1vQWxUXxRCtcP1miTYpQT5OBZDVjqNycoxMV0qtotmGzog25tXcCuZqbuuGy3SaI5Zlaxj4lFLbcFVoT/pub?output=xlsx

 

以上

 

参考資料

オンサイト等のグレードとの相関

今回も参考として、RP限界グレード以外のグレード申告との関係グラフを載せておきます。全体的な傾向と概ね同じようです。

1日トライしてできたRPグレード

 

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フラッシュできた最高グレード

 

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コンスタントにフラッシュできるグレード

 

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相関検定の諸数値

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Beastmakerぶら下がり時間アンケート結果Part2

前回に引き続き、Beastmakerのぶら下がり時間とクライミンググレードの関係を調査したアンケートの結果をまとめていきます。前回のブログはこちらです。

takato77.hatenablog.com

前回は、アンケートの各項目について、回答の分布をまとめました。今回からはその回答をもとに、Beastmakerにぶら下がれる時間や懸垂の回数と、クライミングのグレードに相関が見られるか確認してみます。今回Part2はBeastmakerにぶら下がれる時間を分析し、次回Part3で懸垂回数を分析します。

管理人は統計は素人なので、誤ってることを書いているかもしれません。気づいたらご指摘お願いします。また、統計的な用語をごちゃごちゃ書いてますが、興味のない方は、グラフで自分がどのあたりに当てはまるか眺めるだけでも面白いと思います

一部データの除外

分析に入る前に、明らかにおかしいと思われるデータについては、除外をしておきます。

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表1.除外データ

前回のブログを公開したところ、「複数日トライしてRPできた最高グレード」の回答において、34という回答があるという指摘がありました。この34はVグレードだとV18、YDSだと5.16aくらいに当たり、世界的に見ても達成者のいない領域ですので、流石に入力誤りかなと考えられます。表1の黄色網掛けの部分になりますが、同一のデータにおける「1日でトライしてRPできた最高グレード」は21であることから、おそらく「複数日トライしてRPできた最高グレード」は24と入力したかったところ、誤って34と入力してしまったと想定されます。

また、もう一つ特異なデータとして、オレンジ網掛けのデータがありました。Beastmakerの14㎜エッジにぶら下がれる時間は2秒、懸垂は0回である一方、「複数日トライしてRPできた最高グレード」の回答は28で、これは四段相当となります。これは可能性としてゼロではないと思いますが、考えにくいことです。もしかしたら、片腕でトライした数値を投入いただいたのかもしれません。

今回の分析においては上記2点のデータは除外させていただきました。もし申告値に誤りが無かったら、わざわざ回答いただいたにも拘らず申し訳ありません。

 Beastmakerぶら下がり時間とクライミンググレードの関係

(例)複数日トライしてRPできた最高グレード

具体的な分析に入っていきます。まず、Beastmaker14mmエッジにぶら下がれる時間とクライミンググレードの関係を確認していきます。グレードは、レッドポイント、オンサイトなどいくつか申告いただきましたが、まず、「複数日トライしてRPできた最高グレード」について散布図を書いてみます。

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上のグラフの見方を説明します。例えば横軸が15秒のところで縦に点が6個並んでますが、これは15秒ぶら下がれると申告された方が6人いて、各人のRP限界グレードが17~23までばらついているということです。

このグラフを見ると、全体的に少しだけ右肩上がりに見えますが、かなりデータはバラついているのがわかると思います。例えば、上にあげた15秒のところを段級グレードで見ると、17は3級、23は二段です。別のところでいうと、60秒付近で、21(初段)と29(四段)に点があったりもします。

回帰分析

このデータのばらつき具合について、回帰直線を引いて確認してみます。回帰直線は、2つの変量(今回は”ぶら下がり時間”と”RP限界グレード”)の間に直線的な関係があるとした場合、最も確からしい直線となります。

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右上に決定係数R2=0.134というのがあります。決定係数は1以下の値をとり、簡単に言うと、1に近いほど、回帰直線の予測はよい精度ということになります。0.134というのはそれほど高い数値ではありません。どういうことかというと、例えば「Beastmakerの14mmエッジに15秒ぶら下がれるならば、その人のRP最高グレードは、回帰直線の横軸15に対する縦軸値22くらいだろう」と予測するのは無理がある、ということです。実際に散布図のデータ分布をみても、15秒のあたりは、グレードは17~28までバラついているので、直感的なイメージとも合いますね。

相関検定

回帰直線の予測精度はよくないですが、だから即ち、この2変量の間に相関は無いというわけではありません。詳細は省きますが、相関検定のP値は0.01(相関が無いという仮説が成立する確率は1%程度)となりますので、おそらく相関はありそうだという結論になります。本記事の文末に参考資料として相関検定の諸数値表を記載しておきます。

まとめると、Beastmakerの14mmエッジにぶら下がれる時間が長いほど、RP最高グレードが大きくなる関係性がありそうだが、その関係式はよくわからない、という感じです。もう少し言うと、単純な保持力のぶら下がりが同じであっても、RP最高グレードが上下する別の要因がかなりありそうだというこです。その要因は、テクニック・回復力・身長・リーチなど、クライマーに起因する要素もあれば、ジム間・岩場間のグレードばらつきに起因するものもあるでしょう(文字にすると、なんか当たり前のことですが)。

自身の立ち位置の確認

グレードがクライミングの全てではないですが、できるだけチャレンジングなルート・課題にトライしたいと考えるのはクライマーとして自然なことだと思います。上に上げた散布図のどこに位置するかによって、クライマーとして実力を向上させるための伸びしろを考えるヒントが得られそうです。

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グラフ下部グループの伸びしろ

グラフの下方に位置する人は、保持力の強さに比べて、比較的登れるグレードが低いと言えそうです。その原因は、もしかしたら体格などの遺伝要因の可能性もありますが、テクニック・メンタルなどのトレーニング可能な要因である可能性も十分あり、伸びしろに満ちていると考えられます。

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グラフ上部グループの伸びしろ

一方、グラフの上方に位置する人は、限られた保持力に対して、テクニック・メンタル面で様々な工夫をすることによって高グレードを達成している可能性があります。その場合、グラフの真上方向への伸びしろは少なそうです。先の検定で保持力とグレードに相関はありそうなので、地道な保持力トレもしっかり行い、少しでも右上方向にシフトできるように努力するのがよいでしょう。

ライミング嗜好でグループ分け

今回のアンケートでは、クライミングの嗜好(よく行うクライミング)も申告いただきました。ボルダリングしか行わないグループ(A:回答数30)と、それ以外のグループ(B:回答数19)で差異があるのか比較してみます。今回、複数回答可にしたので、スポーツクライミング・トラッドクライミングボルダリングを両方行うと回答した方もいますが、そのような場合は(B)に分類しました。

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(A)ボルダリングしか行わないグループ

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(B)それ以外のグループ

これらを見ると、(B)それ以外のグループ の方がデータのばらつきが少ないです。(A)ボルダリングしか行わないグループ は、統計的に見ても、決定係数が0に近いのに加え、P値も0.24で有意水準5%を満たしません。かみ砕いて言うと、ボルダラーのみのグループに限ると、単純なデッドハングのぶら下がり時間が長くても、それがクライミンググレードに影響を与えているとは言い切れない結果となっています

 なぜ上記のような結果となるのかは、仮説的に考察するしかないですが、以下のような要因が考えられるように思います。これらを検証するには、更なる調査が必要になりますが、面白いテーマです。

  • ルートクライミングは前腕の持久力が限界となって落ちることが多いのに対し、ボルダリングは前腕に力が残っているのに別の要因でムーブができずに落ちることが多い
  • ボルダラーのみのグループは、ジムのみで登る人が多く、ジム間のグレードのばらつきの影響を大きく受けている

 

以上

 

参考資料

オンサイト等のグレードとの相関

複数日トライしてRPできた最高グレードのほかに、以下のグレードについても回答いただきました。

  • 1日でRPできた最高グレード
  • OSできた最高グレード
  • コンスタントにOSできるグレード

全体的な傾向はあまり変わらないので、それぞれの散布図だけ参考として貼っておきます。詳細の説明は割愛しますが、特筆しておくべきことは以下あたりです。その他気づいた点があれば是非ご指摘お願いします!

  • (A)ボルダリングしか行わないグループ では、全てにおいて相関検定が有意水準5%を満たさない
  •  (B)それ以外のグループ では、コンスタントにOSできるグレードのみ、相関検定が有意水準5%を満たさない
 1日トライしてRPできた最高グレード

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フラッシュできた最高グレード

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コンスタントにフラッシュできるグレード

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相関検定の諸数値

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Beastmakerぶら下がり時間アンケート結果Part1

前々回のブログ記事

beastmakerぶら下がり時間とクライミンググレードの調査アンケート - May the friction be with you!で、英国のクライミングアプリメーカーによるアンケートを紹介しました。その後、もう少しライトな形で日本語圏のアンケートを行ってみるのも面白いと思い、googleフォームで項目を絞ったアンケートを作成しました。ツイッターで協力を呼び掛けたところ、管理人を含め51名の回答を得ることができました。感謝!

 

フィジカル数値に合わせて、レッドポイントやフラッシュのグレードも申告いただいたので、それらの関係性も確認したいのですが、それはPart2にまわして、今回は単純にアンケート回答の分布を公開します。

アンケート内容

アンケートはgoogleフォームで実施しました(現在は回答は〆切済)

docs.google.com

アンケート項目は、性別・年齢・体重などの基礎的な項目に加えて、クライミングのグレード(自己申告)と、フィジカル数値を確認しました。

ライミングのグレードは、最近6か月における実績値として、4項目を申告してもらいました。

  • 複数日トライしてRPできた最高グレード
  • 1日トライしてRPできた最高グレード
  • フラッシュ(一撃)できた最高グレード
  • コンスタントにフラッシュ(一撃)できるグレード

本当はジムと岩場のグレード乖離問題や、ジム毎のグレード乖離問題を考慮した方が、より正確な結果になると思いますが、回答しやすさを優先して割愛しています。

フィジカル数値は、元のアンケートではフロントレバーやハンギングニーレイズの項目がありましたが、今回はシンプルに以下二点にしました。

  1. Beastmakerの14mmエッジに限界までぶら下がれる時間
  2. ガバホールドもしくはバーで懸垂できる回数

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Beastmakerの14㎜エッジ

Beastmakerは1000も2000も14㎜エッジを備えているので、14㎜エッジに限界までぶら下がれる秒数を質問しています。

性別、年齢、体重

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性別は男性の割合が多かったです。女性のクライミング人口は増えている印象ですが、自宅にBeastmakerがあるという条件だとこのくらいかな?

 

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年齢層は30代がボリュームゾーン。10代の回答はありませんでした。

 

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体重は男性割合が多いからか、60kg代前半がボリュームゾーン

ライミングの嗜好

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本項目は複数回答可能としました。やはりボルダラーが多いです。

グレード申告

グレードについては、IRCRAが公開している、各国のクライミンググレード体系を変換するスケールに沿って回答してもらいました。

 

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IRCRAスケール

以下にグラフを貼っていきます青網掛けの数字で回答してもらいましたが、段級グレードやYDSに変換してみると実感が湧きやすいです。全体的には、想定通り、しっかり登り込んでいる人が多い印象でした。

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複数日のトライでRPできた最高グレードのボリュームゾーンは21。ボルダーで言うと初段易しめくらい、ルートだと5.12dくらい。

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1日でRPできた最高グレードのボリュームゾーンは20。1級くらい。

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フラッシュ(一撃)できた最高グレードは17と20にピークあり。17は3級、20は1級くらい。

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コンスタントにフラッシュ(一撃)できるグレードだと17にピーク。最高グレードでは20と答えた人が多かったのは、ジムや岩場のグレードのばらつきが影響してるかもしれません。

フィジカル数値

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Beastmakerの14mmエッジにぶら下がれる時間は、全くぶら下がれない人から1分以上ぶら下がれる人まで。15秒と30秒にピークがありました。

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懸垂できる回数は、10回以上できる人が多かったです。

 

冒頭に記載したとおり、次回は、フィジカル数値とグレードに関係性が見られるか、分析してみたいと思います。

極めて軽量な携帯型ハングボードi-VOU

携帯可能な国産ハングボード、i-VOU。ずっと欲しかったんですが、在庫がついに出たので、矢も楯もたまらず購入しました。

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i-VOUの仕様や基本的な使い方は、公式のyoutubeチャンネルが一番わかりやすいので、そちらを見ていただきながら、本記事ではインプレッションや使い方のバリエーションを紹介します。

 


i -VOU

 

インプレッション

  • 重量

最初に郵便受けに届いた箱を持ち上げて、その軽さに衝撃を受けました。製品重量は300g程度で、クライミングシューズの片足分より少し重い程度です。

同じように携帯性に優れた製品としては、tension climbingのフラッシュボードがあります。フラッシュボードはホールドの種類が多いですが、重さが907g近いです。岩場へ持ち運ぶことを考えると、ペットボトル1本分以上軽いのはかなりのメリットです。

  • 保持感

材質は朴(ほうのき)という木で、滑らかに仕上げられていますが、チョークを乗せるとしっかりとフリクションを感じられます。

保持面には少しアールがついています。アールは、Beastmaker2000と比べて少しシャープで、マイクロスと同じくらいですが、ぶら下がって痛さや不快感を感じるかとはありません。

  • エッジサイズ

エッジサイズは9mm、12mm、15mm、18mm。一番大きいエッジサイズは18㎜ですが、ウォームアップではハードに感じる人もいると思います。その場合、上下の36㎜の面を、ガバではなくエッジとして使用し、ハーフクリンプでぶら下がるのもいいと思います。

使用目的

使用目的としては、大きくウォームアップとトレーニングに分かれます。

ウォームアップ

ウォームアップとしては岩場での利用が主になるでしょう。リードクライミングを例にすると、目的のルートより低いグレードのルートを2本くらい登ってアップとする人が多いと思います。しかし、目的のルートの核心で出てくるような細かいカチやポケットに対して本当に充分なウォームアップと考えると、それでは不充分です。核心で必要となる力の80〜90%くらいの出力をしておきたいですが、それに適したルートを岩場で頑張って探すより、i-VOUにぶら下がった方が早いでしょう。指皮の節約にも最適です。

レーニン

自宅でのトレーニング目的にももちろん使用できます。固定型のハングボードのようにぶら下がるのが基本となりますが、携帯型ハングボードの利点として、足にスリングをかけて引っ張る事でも、指にトレーニング負荷をかける事ができます。

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上の写真のように立って行ってもいいし、下のyoutube動画では座って行っています。


CSTV: At Home Using the Tension Flash Board

最初に見た時、この足にかけるやり方は十分に指に負荷をかけることができるのか少し疑問に思ったのですが、実際のところは自身の限界ぎりぎりの負荷をしっかりかけることができます。少し余談になりますが、以下に解説します。

オーバーカミングアイソメトリックとイールディングアイソメトリック

i-VOUのような携帯型ハングボードに対し、ぶら下がる動きも、足にかけて引っ張る動きも、腕から指にかけての動きは、筋肉を一定の収縮状態で固定して力をこめるアイソメトリック(等尺性)運動となります。しかし、その運動の強度を決定する要素という観点では、2つの運動は少し異なります。

i-VOUにぶら下がる運動は、自分の体が重力に引っ張られて地面に落ちそうになるのに抵抗して、肩・肘・指などの関節を動かないように固定するアイソメトリックです。このような運動をイールディングアイソメトリック(Yielding isometric)と言います。イールディングアイソメトリックにおいては、負荷量は動こうとする物体の力に依存します(ぶら下がりの例では体重)。

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図1. イールディングアイソメトリック

一方、i-VOUのスリングを足にかけて指で引っ張るような運動は、動かない足を支点にして思い切り引っ張る運動です。こちらも、肩・肘・指などの関節が動かないのは一緒ですが、元々動かない物体に対して力をかけるので、負荷量は引っ張る人がどれだけ力を入れるかによって変化します。このような運動をオーバーカミングアイソメトリック(Overcoming isometric)と言います。

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図2. オーバーカミングアイソメトリック

 

どっちの運動が強い負荷を発生させることができるかというと、実は原理的には後者のオーバーカミングアイソメトリックになります。あるエッジにぶら下がる際に、ゆっくりと指先に力を入れていくような動作を考えてみます。

最初のうちは体重よりも小さい力しか指先に発生していないので、体は動きません。この状態は動かない物体を引っ張っているのでオーバーカミングアイソメトリックです。体重より少し大きい力が発生すると体が浮き、イールディングアイソメトリックに移行します。実際には体重以上の力を発生させる余力があっても、体が浮いてしまった以降は、体重以上の負荷は指にかからなくなります。

例えば300kgの重りを体に装着しておけば、アダム・オンドラでも体は浮かないでしょう。そうすると運動はずっとオーバーカミングアイソメトリックとなり、肩・肘・指の関節を固定させる筋肉が限界ぎりぎりの筋力を発生させる必要がある負荷をかけることができるのです。

アイソメトリックに関する一般的な話は以下の記事にも書いたので参考までに。

takato77.hatenablog.com

 

最後はマニアックな話になってしまいましたが、早く岩場でi-VOUを使いながら登りたいです。それまではデッドハングやBFRレーニングに活用して持ち感に慣れておく事にします。

東京粉末GARAGEチョークレビュー

少し時間が空いてしまいましたが、東京粉末の被験者クラブ・パブリックに申し込み、サンプル製品の「GARAGE」を使用して自宅トレを行っていました。他チョークとの比較実験を簡易に行ってみたので、使用感レビューと合わせて書いてみます。tokyopowder.com

「GARAGE」は、Covid-19対応としてのStay Homeが続く状況下において、自宅トレーニング時を想定し、手が白くなって粉が舞わないチョークとして研究中のサンプルです。本企画は、一般ユーザー100名強にサンプルが提供され、被験者として使用感を体験してもらうというものです。

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タレ瓶に入ったGARAGEチョークのサンプル


被験者クラブは元々、参加者が絞られたコミュニティで、東京粉末の開発中モデルの試作品や、チョークの性能や環境のテストをしていました。今回の企画はパブリックの募集であり、あっという間に予定数を上回る応募があったということで、自粛トレの盛り上がりが感じられます(大いに暇を持て余してるのがメインかもしれませんが。)

インプレッション

GARAGEはドロッとした液体で、ジャンルとしては液体チョークに分類されるのではないでしょうか。手の平に大豆豆くらいの量を取って、指先までしっかり擦り込み、数十秒待つとしっかり乾いて準備OKです。粉は全くと言っていいほど舞わず、リビングで使用しても気になりませんでした。

GARAGEをつけて、4手ほどのムーブを行ってみました。トライ間で2分ほどレストして5トライほど繰り返すと、指先のチョークが落ちてくる感じです。持続力はかなりあるように感じました。

参考に、管理人はヌメリ手でも乾燥手でもありません。

フリクション比較実験

比較対象の製品

管理人は、正直、チョークのブランドや製品毎の違いがよくわからないというか、興味を持って比較したことがないです。製品選びも淡白で、なんとなく目についたものを買うくらいなのですが、とりあえず家にあるだけかき集めて比較してみることにします。

  • 東京粉末 PURE
  • 東京粉末 GARAGE
  • SoiLL prescription
  • EcoGripジェル(が乾燥して粉末状になったもの)

実験方法

各チョークを手に付けて、重りをぶら下げたピンチグリップを保持できる時間を比較することとします。実験前に、十分にウォームアップは済ませておきます。また、一回保持するごとに、ハンドソープで手を洗ってからチョークをつけなおします。

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ツーバイ材を貼り付けて穴をあけた自家製ピンチブロック(95mm)


右手と左手でそれぞれ、各チョークについて1回ずつ保持時間を測定します(合計で右手4回、左手4回)。これを1セット行い、3日レストして次のセットを行って、合計4セット行いました。

1日の中では測定が進むにつれてヨレが出てきて保持時間が短くなる傾向があるので、チョークを使用する順番は日毎に入れ替えて公平になるようにしました。

実験結果 

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 表1が実験結果です。粉チョークと比較しても遜色ないというか、寧ろ上回る結果になってます。実際に保持した感触でいうと、SoiLLやEcoGripジェルでは指力にまだ余裕があってもピンチブロック表面の感触が変化してきて滑り始めるのを必死に耐えるという感じですが、GARAGEの場合は表面の感触はあまり変化なく、純粋に指力が耐えられなくなって保持できなくなる感じでした。トレーニングにおいては、限界まで追い込めるのは重要なポイントですので、これはポイントが高いです。

被験者が1人なのと、1日目より4日目の方がピンチ力が強くなっている可能性が高いなど、実験の結果精度はありませんので、参考までに。

総論

インプレッションで記載した通り、粉が舞うことも少なく性能面も十分です。まだ少しサンプルが残ってますので、岩場が利用できるようになったら、そちらでも試してみるつもりです。

既に、新型サンプルもできて、製品化に向けて動かれているようですので、製品化されたら是非購入してみたいところです。

tokyopowder.com

beastmakerぶら下がり時間とクライミンググレードの調査アンケート

Stay Homeが全国的に継続しており、自宅にクライミングレーニング環境を整える人が増えてきました。ハングボードの代表的なブランドであるBeastmakerは、注文が殺到しているようです。

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Beastmaker2000

そのような状況をふまえ、Beastmakerにぶら下がれる時間とクライミンググレードについて、調査アンケートが行われていますので紹介します。以下リンクから実施できます。英語ですがクライマーには読みやすい内容なので、興味がある方は実施してみてはいかがでしょうか。

docs.google.com

アンケート実施元は、Grippyというクライミングレーニングログアプリを開発しているメーカーです。標準的なハングボードを使用してクライミング能力のデータ収集を行っているのは、データドリブンなクライミングトレーニング(Lattice Training) - May the friction be with you!で紹介したLattice Trainingが有名ですが、LatticeのハングボードよりBeastmakerの方が普及している印象なので、面白い試みだと思います。

必要な用具

  •  Beastmaker1000 もしくは Beastmaker2000
  • ぶら下がれるバー もしくは ガバホールド

これだけなので、比較的実施のハードルは低いと思います。Beastmaker1000はガバホールドもありますので、2点目は不要です。Beastmaker2000の場合は、バーは公園の鉄棒などでも代替可能です。

アンケート項目

ライミンググレード

  • 複数日トライしてRPできた最高グレード
  • 1日でRPできた最高グレード
  • フラッシュできた最高グレード
  • コンスタントにフラッシュできるグレード

グレードについては、各国で様々なグレード体系があります。クライミングの調査・研究において、この様々なグレード体系は悩みの種だったようです。クライミングの調査・研究の国際協会であるIRCRA(The International Rock Climbing Research Association)は、クライミンググレードを統一的な尺度(IRCRAスケール)に変換できる表を提供しています。

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IRCRAスケール

https://www.ircra.rocks/single-post/2016/09/12/Reporting-Grades-in-Climbing-Research

例えば、フレンチグレードの6b+であれば、IRCRAスケールでは14となります。ボルダーのVグレードでは、大体V1に該当します。

今回のアンケートでも、IRCRAスケールで回答するようになっています。クライミンググレードの自己申告する際に悩みがちなグレード体系について、完全ではないものの一つの指針として興味深いなと思います。

フィジカル能力

  • Beastmaker1000もしくは2000の14mmエッジに両手でぶら下がれる時間
  • 懸垂の回数
  • ハンギングレッグレイズの回数

14㎜はBeastmaker1000と2000両方に共通しているエッジサイズです。Beastmaker1000では上段の左右端、Beastmaker2000では下段の左右端のエッジになります。

ハンギングレッグレイズは、バーにぶら下がって、足をまっすぐ延ばした状態で90度まで持ち上げるワークです。

書籍「CRACK CLIMBING」内のアンケート集計

WIDE BOYZのピート・ウィタカーが著した「CRACK CLIMBING」は、なかなか言語化されることが少なかったクラッククライミングの微細なテクニックを、図解入りで解説した画期的な書籍です。その内容はそのうち噛み砕いて紹介したいですが、今回は書籍内の有名クラッククライマーインタビューとともに掲載されているアンケートを、お遊びで集計してみました。

Crack Climbing: Mastering the skills & techniques

Crack Climbing: Mastering the skills & techniques

  • 作者:Whittaker, Pete
  • 発売日: 2020/01/15
  • メディア: ペーパーバック
 

 

インタビュー対象

インタビュー対象は、クラッククライマーのエキスパート15名です。

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書籍「Crack Climbing」のインタビューイリスト

性別、出身国、年齢は書籍には記載が無かったので、管理人が記載しました。性別は管理人の推測判断ですので悪しからず。

男性11人女性4人で、少し男性に偏ってます。国はヨセミテ、インディアンクリーク、モアブ、スコーミッシュを有する北米に偏ってますが、世界最難クラックを初登したクライマーの国として(?)ベルギーから2名エントリーしてます。

5.14c (8c+)以上のトラッドルートまとめ(2020/1 時点) | Mickipedia ミキペディアと見比べると楽しいかもしれません。

アンケートの設問

アンケートは「Pop quiz」と題され、主にクラッククライミングの嗜好を問う、単純な二択形式です。例えば、"Finger or offwidth?"のように、フィンガークラックとオフイドゥスのどちらが好きかを問うものになります。

回答は、ずばり2択のどちらかを回答しているものもあれば、両方好き・嫌いのような回答もあります。

以下に各設問の集計結果を記載していきます。一部判断に迷うものは、原則は不明(Others)としましたが、管理人の判断で2択のどちらかに割り振ったものもあります。お遊びなのでご容赦ください。なんとなーく、著名なクラッククライマーの嗜好らしきものが見えるかなくらいに眺めてもらえればと思います。

Finger or offwidth?

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Finger or Offwidth?

これは圧倒的にフィンガー好きが多かったです。なぜかベルギーはワイドクラックが好きという結果に。そしてオールドクライマーにオフウィドゥス好きはいませんでした。Peter Croftなどは、ワイドクラックに係る設問が続くので、一部の設問で「この本はケイビングの本か?」と茶化して回答してます。

Stemming or roof cracks?

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Stemming or roof cracks?

ステミングはコーナークラックを登る技術なので、コーナークラックとルーフクラックの嗜好を問う設問でしょうか。ステミング好きが多かったです。ルーフクラック好きは男性に偏ってました。

Hand jam or hand stack?

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Hand jam or hand stack?

ハンドジャム好きが多かったです。ワイドボーイズのTom Randallもハンドジャムに投票していて笑ってしまいました。女性は全員ハンドジャムに投票してましたが、Pamela Shanti PackやMary Catherine Eden(tradprincess)などのワイド好きがインタビュー対象になってないので仕方ない所か。ここでもベルギー勢がワイド好きという結果に。

Knee lock or chickenwing?

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Knee lock or chickenwing?

両方ワイド技術だからか、あまり回答に差が出ませんでした。特筆すべきは、「どっちも嫌!」が2票あったところですね。Barbara ZangerlとAlex Honnold。Peter Croftが「この本はケイビングの本か?」と書いたのはこの設問。

Tape or no tape?

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Tape or no tape?

これも差が出ませんでした。テーピングはエイドか?なんて取り沙汰されることもありますが、好き好きでやってるみたい。

Cams or nuts?

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Cams or nuts?

ナッツ好きは40代以上(笑)

Sandstone cracks or Granite cracks?

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Sandstone cracks or Granite cracks?

みんな花崗岩大好き。インディアンクリーク・モアブを有するアメリカと、グリットストーンを有するU.K.において、砂岩への票あり。

Short and hard, or long and pumpy?

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Short and hard, or long and pumpy?

長めのルートが好きな人が多い模様。

Pressure wound or rock rash?

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Pressure wound or rock rash?

この先は設問の意味がよくわかりませんでした。痣と擦り傷ならどっちがいい?みたいな感じですかね。Mason Earleが「Occupational hazzard(職業上の危険、職業病)」と回答していて、さもありなんという感じ。

Colour preference of crack climbing trousers due to unfortunate mistakes red or brown?

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Colour preference of climbing trousers


これが最もよくわからなかったです。赤は血でしょうが、茶は下ネタ?回答もバラバラで、ズボンは安ければいいよなんて回答も。Jerry Moffatの「Sorry, it has to be white karate pants!」が最高でした。