目新しいトレーニングに無闇に飛びつかない(シャイニーオブジェクト症候群)
本ブログを始めて一ヶ月弱経ちました。その間に紹介したトレーニング/リハビリ方法は、古くから提唱されている内容もあれば、比較的目新しい内容も含んでいます。
もし有効と思える内容があれば、一次情報を確認の上、トライしていただくのもよいと考えますが、その際には、自身の現状を振り返って、本当に有効なのか確認した方がよい、というお話です。
シャイニーオブジェクト症候群とは
元はビジネス用語だと思いますが、「新しく魅力的なもの(シャイニーオブジェクト)にすぐ飛びつくこと」を指します。例えばあなたが会社員だとして、上司が雑誌やテレビで見かけた輝かしい成功事例を毎週のように「うちにも導入するぞ!」なんて言うような人だったら、実行する部下の側としては堪ったものではありません。戦略立てて計画的にビジネスを実行しているのであれば、有限の人・物・金のリソースで組み上げた計画に新しい要素を割り込ませる事はリスクを伴います。
当たり前といえば当たり前の話ですが、クライミングでも同じようなこと、よくあるんじゃないでしょうか。有名クライマーのインスタグラムをフォローしていると、常人とは思えないフィジカルパワーを発揮したトレーニング動画が、毎日のように流れてきます。
例えば、上記の小山田さんの動画を見て「やはりクライミングは保持力だ!」と、すぐにでも(4mmとはいかずとも)8mmとか10mmのカチで懸垂しようと考えたとしたら、シャイニーオブジェクト症候群に陥っているかもしれません。
飛びついてしまいがちなトレーニング
上に挙げた例のようにカチでの懸垂を始めることが、間違っていない事もあります。それは、あなたの現時点の弱い環が、「保持力」である場合です。
弱い環になり得る要素(肉体的要因編) - May the friction be with you!
しかし往々にしてありがちなのが、自身の弱い環が保持力や瞬発力などの「肉体的要因」にあると誤認している場合です。キャンパスボード・ムーンボード・フィンガーボードなどのフィジカルトレーニングツールは、有名クライマーのSNSで目を引きやすいですが、足置き・ムーブの正確さなどのスキル要因や、トライ前の集中力・フォールへの恐怖などのメンタル要因が、自身の上達を妨げていることは無いのでしょうか。
余談ですが、TrainingBetaのFacebookコミュニティページでは、経験数ヶ月のクライマーが「保持力が無いのでトレーニング方法を教えて!」と投稿して、ベテランクライマーが「スキルを先に鍛えろ」と諭すやり取りが毎月のように繰り返されています。
シャイニーオブジェクト症候群に陥らないために
アメリカのクライミングコーチEric Hörstは、シャイニーオブジェクト症候群に陥らず、効率的にトレーニングを行なっていくために、以下の2点を行なうことを推奨しています。
1点目は、何のためにトレーニングするのかという目標を持つことで、必要なトレーニングを絞り込み、有限な時間を有効に使うということです。目標がボルダーなのか、シングルピッチのルートなのか、ビッグウォールなのか、コンペでの好成績なのか、それぞれ毎に鍛えるべき要素は違うでしょうし、その実現時期によっても鍛え方は異なってくる筈ですので。
2点目は、自分ではなかなか気づきにくい真の弱点を、第三者の客観的な視点で見極めてもらいます。なかなかベテランのコーチに師事するのが難しい場合もありそうですが、身近にそのような方がいれば是非アドバイスを求めてみましょう。
一点、ジム等で身近な強いクライマーにもらうアドバイスが、必ずしも有効とは限らないことは注意が必要です。そのクライマーが強く登れるからといって、他人のクライミングの弱点を見抜く能力に優れていたりするとは限りませんし、じっくり弱点を見極めてアドバイスを行なってくれているとも限らないからです。ある程度実績のある人に有料でアセスメントいただいた方が、結果的に近道と考えます。
trainingforclimbing.libsyn.com
また、PowercompanyClimbingでも、「すぐにやめた方がいいトレーニング5選」というPodcastで、新しいトレーニングに飛びつくことを5位に挙げています。このPodcastでは、「現在行なっているトレーニングで成果が出ており、怪我・故障に繋がっていないのであれば、それを継続すること」を強調しています。目新しいトレーニングが有効に見えたからといって、既存のトレーニングが有効じゃないということではないのです。
powercompanyclimbing.podbean.com
またまた余談ですが、このPodcastは大放談で、新しいトレーニングに飛びつかないようにするために「ショーン・マッコールのインスタグラムはfollowするな」とか、「友だち作らず一人でトレーニングしろ」と茶化したりしていて面白いです。
シャイニーではない要素の鍛え方
肉体的要因に目がいきやすい理由として1つ考えられるのが、スキル要因やメンタル要因は、なかなか具体的なトレーニング方法がわかりづらいという点です。管理人も正直詳しくないですが、幾つか入り口になりそうなものだけ紹介しておきます。
スキル要因
- 部活動
管理人は是非一度受講してみたいと思っていて実現できていないのですが、基本的なフォームや動きについて理論と実践を修得するためのプライベートレッスンです。
- Neil Gresham Technique And Training
フラッギングやクロスムーブなどの個々のムーブのやり方の説明ではなく、基本的なクライミング時の姿勢や動き方を人間の体の作りと関連付けて説明しています。
メンタル要素
山と渓谷社の「登山技術全書フリークライミング」やPUMPの「クライマーズバイブル」でメンタル面の考慮事項と鍛え方が記載されています。
また、管理人は読んでいませんが、UKのレジェンドクライマー、ジェリーモファットが著したMaster Mindは、自身がクライミングコンペ黎明期に好成績を収めるために体系的に学び取り組んだメンタルトレーニングを学ぶことができるようです。
まとめ
- 目新しいトレーニングに飛びつくのではなく、自身の弱い環を見極めて、そのためのトレーニングを行なう
- 弱い環を見極めるために、ベテランのコーチなど、第三者によるアセスメントが有効
- 現在行なっているトレーニングが有効であれば、それを継続すべき
管理人も今まで、実力に見合わないキャンパスボードを、ひどいフォームで行なったことにより肩を壊したりしてきました。新しいトレーニングが必ずしもよくないというわけではありせんが、トレーニングは長い目で計画的に、地味なものも目を逸らさずに行なっていくようするのがよさそうです。
終わりに
ここまで読んでいただきありがとうございました。お断りしておきますが、筆者はクライミング関連業務に従事しているわけではなく、医療関係者でもありませんので、記載内容を実際に適用される際には一次ソースを確認の上、自己責任でお願いします。