疲れてくると肘が上がる理由(チキンウィング)

少し長いボルダリング課題であったり、ルートクライミングをやっているとき、疲れてきて落ちそうになってくると、肘が上がってくる経験はありませんか。この肘上がりですが、人間の体の構造上、故障に繋がりやすい動きと言われています。肘上がりが起きる理由と、防ぐために気をつけることを考察します。

肘上がり(チキンウィング chicken wing)とは

簡単のため、右手で真下方向に引けるホールドを保持する場合を考えます。肘が真下(ホールドを引ける方向と同じ)を向いているのが理想的な姿勢ですが、肘が右後ろ方向を向いてしまっている状態が肘上がりです。

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左が肘上がり(チキンウィング)

Injury-Free Movement for Rock Climbers | Climbing Magazine

この状態で体重がかかると、肩の腱板や肘の親指側の腱に負荷がかかります。このような動きを繰り返すことにより、腱が炎症を起こし、肩のインピンジメント症候群、テニス肘などの原因となりやすいと言われています。

肘上がりが起こる理由

手首の背屈と指の屈曲の関係

冒頭、クライミング中に疲れてくると肘上がりが起こると書きました。これが起きる理由は、人体の構造上、手首が背屈(手の甲側に曲がった状態)していた方が、指先に力が込めやすいからです。


Forearm Antagonist Muscle Training for Climbers

上の動画で紹介されていますが、試しに、手首を掌屈(手の平側に曲げた状態)させて人差し指指と親指をつまんでみてください。人差し指と親指はつまんだまま、手首を徐々に背屈させていくと、指先に力が入っていくのがわかると思います。

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力が入らない

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力が入る

もう一つ、動画のEric Hörstが著した「Training for climbing 3rd edition」に記載されている実験です。五本の指をまっすぐ伸ばした状態で、手首を背屈しても、あまり曲げられないと思います。次に指をリラックスさせた状態で手首を背屈すると、先ほどより手首が大きく曲がっていくと同時に、指先がどんどん曲がっていきます。

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指を伸ばすとあまり背屈しないが、、、

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指をリラックスすると背屈して指が曲がる

人体機能的なメカニズムは自分も説明できるほど詳しくないので省きますが、「手首を背屈した方が指が曲がりやすい」という関係性はなんとなく掴めるんじゃないかと思います。

肘上がりのメカニズム

改めて、クライミングで疲れてきた状態を思い起こしてみると、今にも疲れて落ちそうだが落ちたくないので、指先にできる限り力を込めたい状態です。人体の構造上、手首が背屈した方が指先に力が入るため、体は自然と手首を曲げる様に動きがちです。この際に脇が閉まった状態で手首が背屈すればよいのですが、脇が閉まっていないと、自然と肘が上がっていくことになるのです。

肘上がりを防ぐ対策

手首の安定性を上げる

指が疲れてくると手首を背屈したくなるわけですが、純粋な手首の動きだけではなく、脇が空いて肩が上がる動きの力も借りてしまうので、肘が上がってしまいます。肩が動かなくても手首が背屈できるように手首を安定させる筋トレを行う考え方です。

上にあげた動画内で提案されている2種類のエクササイズは、手首の背屈が重要となる2種類のホールディングにそれぞれ対応しています。

  • リバースリストカール

フルクリンプのように、第一関節、第二関節を曲げて保持するホールディングを模しています。ダンベルを掌を下にして持ち、手首を背屈します。20回程度繰り返すか、もしくは背屈した状態で1分保持するアイソメトリックトレーニングを行います。どちらを行うにしても、指定の回数、時間がちょうどやり切れる程度の重さに負荷を調整します。

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ダンベルはあまり場所を取らないので、自分は会社の昼休みにやってます。

  • ピンチブロック

厚いピンチホールドのような第一関節を伸ばして保持するホールディングを模しています。ピンチで保持できるホールドに重りをぶら下げて、1分程度保持するアイソメトリックトレーニングを行います。ピンチ力も鍛えられそうですが、目的は手首を背屈させる力のトレーニングです。

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脇を締める癖をつける

こちらはフィジカル面というよりはテクニカル、スキル面の改善です。肘上がりは疲れてきた時に顕在化しますが、そもそも疲れていない時のクライミングフォームから既に、脇が甘くなっていることが多いですので、癖を直す地道なフォーム練習をするということです。

このような基本的なフォームの練習は、疲れていない状態で、グレードを下げて行うことが重要です。なぜかというと、限界ギリギリのグレードではそのムーブをこなすのに精一杯で、フォームの精度を上げるところに意識を届かせることができないためです。

PUMPのクライマーズバイブルでは、持久力をつけるトレーニング期間であったり、1日のクライミング中のウォームアップのタイミングで、フォームの確認を行うことを推奨しています。漫然と体を温めるためだけに登るのではなく、一つ一つの動きを意識して登るのですが、足を丁寧におく、ボールドを何度も握りなおさないといったチェックポイントに、「脇を締める」も加えてみてください。

pump.ocnk.net

なお、脇を締めるの意味は、以下のリンクがイメージしやすいと思います。

脇を締めるの本当の意味 | 武術の極意で、勝つ!カラダになるHCMメソッド「研勢塾」下北沢

まとめ

  • 人体の構造上、クライミング中に指が疲れてくると肘が上がりやすい
  • 肘が上がった状態で登ることが常態化すると、肩や肘を故障しやすい
  • 手首の安定性を上げるため、リバースリストカールなどのトレーニングを行うとよい
  • 肘上がりの癖を直すため、易し目グレードの課題で脇を締めて登ることを意識する

といったところです。肘上がりが癖になっている方は参考にしてみてください。

参考

理解しきれていないので参考に記しますが、指を動かす筋肉の構造は以下のリンクが詳しいです。

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湯本整形外科、手外筋と手内筋

骨間筋が第一関節(MP関節)を曲げる働きを持っていますが、総指伸筋と拮抗していて、総指伸筋が緩んでいる(手首が背屈している)方が、第一関節は深く巻き込めると言えそうです。吉田クライミング日記でも少し言及されてます。

吉田クライミング日記 : リストのハナシ1 - livedoor Blog(ブログ)

また、「Training for climbing 3rd edition」では、"筋肉の性質上、その筋肉がなるべく伸びている状態の方が力が発揮でき、指屈筋は手首が背屈した状態が最も伸びているので、チカラが入りやすい」と記載されています。

終わりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。お断りしておきますが、筆者はクライミング関連業務に従事しているわけではなく、医療関係者でもありませんので、記載内容を実際に適用される際には一次ソースを確認の上、自己責任でお願いします。

 

 

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