クライミングにおける栄養摂取については、観点はいろいろありますが、主に筋力増強の観点でプロテインやアミノ酸の摂取が議論されることが多いです。
一方、腱、靭帯などの軟部組織については、決定打にかける状況で、グルコサミン・コンドロイチン・MSMは賛否両論あり、コラーゲンはあまり摂取しても効果なし、というのがよく聞く評価であるように思います。
しかし、後者のコラーゲンについては、少し潮目の異なる研究結果が出始めているようです。一年ほど前にEric HörstさんがPhysiVantageという会社を立ち上げ、その主力製品として、軟部組織の回復・強化に効果があるというSuperCharged Collagenを打ち出していますので紹介します。
本記事は、Eric HrstさんのPodcastや、PhysiVantage社のページからの情報を再構成しています(以前書いていたブログに同じような内容を書いた記事をサルベージしました)。
腱・靭帯組織のおさらい
ざっくり言うと、腱は筋肉と骨を繋ぐ組織、靭帯は骨と骨を繋ぐ組織で、主に繊維状コラーゲンで構成されています。腱と靭帯の例を指の構造で考えてみます。
- 腱
指を曲げる筋肉は前腕の指屈筋ですが、筋肉組織は前腕の中だけで、手首のあたりで組織は腱になり、指先まで伸びて、第一関節や第二関節の骨に付着しています。筋肉が収縮すると、その動きが腱を通じて伝達し、指の骨が動きます。
- 靭帯
靭帯は、骨と骨を繋ぐ事で関節を構成しています。例えば指の関節は左右に殆ど曲がりませんが、これは両側面に靭帯があることで、動揺を防いでいます。また、クライマーに馴染み深い靭帯組織に腱鞘(プーリー)があります。先に挙げた指屈筋腱は、曲がる時に骨に沿って曲がれるように、骨に付着したリング型のさやの中を通っています。クライミングで指を痛める事を表す「パキる」は、この腱鞘が強い負荷によって断裂する事が原因である事も多いです。
腱・靭帯の再合成
腱とか靭帯は自然治癒しないと聞いたことはありませんか?完全断裂してしまって手術が必須な場合もありますが、部分断裂などでは必ずしも当てはまらないようです。例えば腱鞘が部分断裂しても、数か月という長いスパンですが自己修復しますし、トレーニングにより長い年月をかけてより大きく強く成長もします。
過去のクライミング関連書籍での情報
またまた新井祐己さんの登場ですが、ハードコア人体実験室においては、コラーゲン自体を摂取する必要性はあまりないという結論となっています。
コラーゲンの合成には材料となるアミノ酸が必要ですが、これはしっかり食事なりホエイなりでタンパク質を補給できていれば特別足らないってことはありません。まあ、コラーゲン自体はかなり偏ったアミノ酸組成なので、直接コラーゲンを摂ってあげたほうが気分的にいいかもしれませんけどね。
(中略)それより重要なのはビタミンC。コラーゲンは三つ編み構造でして、それを編み込むときに中心にビタミンCが必要なのです。
Rock&Snow No.024 「新井裕己のハードコア人体実験室[第3回]」 山と渓谷社
コラーゲンを食べても、体内でアミノ酸に分解されて、タンパク質へ再合成されるので、肉やプロテインの形でタンパク質を摂取して体内でアミノ酸に分解されるのと一緒、むしろコラーゲンの再合成時に必要となるビタミンCを積極的に摂取したほうが良いという趣旨です。
最新の研究状況の紹介
管理人も長らくコラーゲンについては積極的な摂取はしておらず、マルチビタミンでビタミンCを摂取するようにしていました。しかし、ハードコア人体実験室で言及されている「コラーゲン自体はかなり偏ったアミノ酸組成」というところが、実は重要なのであないかということを示唆する研究結果が出始めているということを、Eric Horstは紹介しています。
コラーゲンのアミノ酸組成
コラーゲンを構成するアミノ酸において特徴的なのはグリシン、プロリン 、ヒドロキシプロリンというアミノ酸です。グリシン1/3、プロリンとヒドロキシプロリンが21%を占めていますが、これらはコラーゲン以外の食品にはわずかしか含まれていません。
そして、コラーゲンを摂取して30分~1時間すると、血中のグリシン、プロリン、ヒドロキシプロリン濃度が大きく上がる(スパイクする)ことが確認されています。
腱・靭帯におけるコラーゲン再合成
腱・靭帯組織の再合成は、筋肉組織の再合成と少し異なる点があるため、明確にしておきましょう。
筋肉の再合成については、運動後にタンパク質を摂取することがベストプラクティスとして普及しています。タンパク質はアミノ酸に分解されて血中に流れ込みますが、筋肉組織は周辺に血流が豊富なため、周辺の血管から再合成に必要なアミノ酸を取得できます。
一方、腱・靭帯組織の特徴として、血流が乏しいということが挙げられます。これはどういうことかというと、運動後にコラーゲンを摂取した場合、再合成に必要なアミノ酸(グリシン・プロリン・ヒドロキシプロリン)の血中濃度が上がっても、腱・靭帯組織に行き渡らないということを意味しています。
では、腱・靭帯組織にどうやって再合成に必要な栄養を行き渡らせるかというと、運動前にコラーゲンを摂取する必要があるというのです。
腱・靭帯組織は負荷をかけると引き伸ばされ、負荷をゆるめると縮みます。この縮むタイミングで、腱や靭帯を取り囲む組織から滑液という液体が流れこみますが、腱・靭帯の栄養はこの液体に頼っている部分が多いのです。負荷をかけることで、必要なアミノ酸を含んだ滑液が腱・靭帯に流れ込みます。
まとめると、運動の30~1時間前にコラーゲンを摂取し、血中のグリシン・プロリン・ヒドロキシプロリン濃度を上げた状態で運動することで、腱・靭帯に滑液経由で染み渡らせるようにすることがポイントになります。コラーゲン摂取しない場合に比べ、コラーゲン合成が2倍になった研究結果もあります。
サプリメントでの摂取
以上をふまえ、クライミングやリハビリ前の30分~1時間前にコラーゲンを摂取することをEric Horstが推奨しています。コラーゲンは加水分解コラーゲンペプチドをビタミンCと一緒に摂取します。
冒頭で紹介したPhysiVantage社は、SuperCharged Collagenという製品を販売しています。主成分はコラーゲンペプチドで、ビタミンCとBCAA、トリプトファンを配合しています。
PhysiVantage Supercharged Collagen for Climbers and Power Athletes
試してみたいと思いつつ、若干値段が高いのと、アメリカからの送料がバカにならないので購入したことはありません。BCAAとトリプトファンは、コラーゲン再合成の観点では必須の成分でもないはずですので、管理人はiHerbでビタミンC配合のコラーゲンペプチドを購入して愛用してます。下記リンクは5%オフですので、興味のある方はどうぞ。
効果の実感と注意事項
摂取し始めてから凡そ半年経ちましたが、ぶっちゃけ明らかな効果は、体感まではできていないです。そもそも腱・靭帯の再合成は時間のかかるものであり、その時間をできるだけ早く促進する効果を期待するものなので、個人のレベルでは体感があったとしてもプラセボレベルかなと思います。
しかし、研究レベルでのエビデンスは集まりつつある状況(PhysiVāntage - Research References)で、アーリーアダプター的にチャレンジしてみる価値はあるんじゃないかと思います。
注意事項として、飽くまでサプリメントであって医薬品ではなく、飲んだら故障が治る魔法のような製品ではないので注意が必要です。必要な栄養素とタイミングを考慮するのに加え、適切なトレーニングと、何よりも組織が回復するための充分な休養を取ることに努めましょう。
まとめ
- 腱・靭帯組織も筋肉組織と同様に再合成可能であり、トレーニングによる強化も可能だが、回復には時間がかかる
- 腱・靭帯組織はコラーゲン主体の組成となっている
- コラーゲンを構成するグリシン・プロリン・ヒドロキシプロリンはコラーゲンを摂取することで効率的に摂取できる
- コラーゲンとビタミンC摂取してから運動することにより、血流に乏しい腱・靭帯組織に対し、滑液経由で適切な栄養を染み渡らせることができる
おわりに
ここまで読んでいただきありがとうございました。お断りしておきますが、筆者はクライミング関連業務に従事しているわけではなく、医療関係者でもありませんので、記載内容を実際に適用される際には一次ソースを確認の上、自己責任でお願いします。