クライミングの特性に合った体幹トレーニングの考え方

covid-19による外出自粛要請が長引いており、いつか来る自粛解除を見据えて、自宅トレーニングを行う人が増えてきています。今回は、自宅でもできるトレーニングとして、体幹レーニングを取り上げてみます。クライミングにおいては、よくある腹筋トレーニングの「クランチ」や「シットアップ」は必ずしも効率的ではないという考え方や、実際のトレーニング例を紹介します。

他の部位も含めたホームトレーニング例は、以前書いたこちらの記事も参考にしてください。

ホームトレーニングの解説集(covid-19による外出自粛対策) - May the friction be with you!

ライミング基本動作における体幹使用の特徴

体幹について、クライミングにおける動作の特性で考慮しておくべきポイントは、「腹筋を起点に上半身を折り曲げる動きは少ない」という事です。

先日販売になった木村伸介さんの「コンペで勝つ!スポーツクライミング上達法」には、クライミングの基本動作について、以下のように記述されています。

伸び上がる場合

1.足主導

足先からのパワーを臀部に伝える(中略)

2.臀部と背中

臀部と背中の対角線の動きを利用してパワーを生み出し、ボディ全体でホールドを取りに行く。(中略)

3.肩と肩甲骨

肩と肩甲骨を中心とした上半身をホールドの向きや次の動きに合わせ込み、体を利かせる。

 

足を開いたり上げたりする場合

(中略)上半身の力を使わずに開脚、足上げ動作を行なう。

 

「コンペで勝つ!スポーツクライミング上達法」木村伸介著 2020年 山と渓谷社

このような基本動作を考慮した時、クランチやシットアップのように腹筋を起点とした上半身を折り曲げる動きは殆ど無い事がわかります。この際の体幹は、体の軸がブレないためのスタビライザーとしての役割が主になります。

例えば、伸び上がる際には、足から生じたパワーをロスなく次のホールドまでの動きへ伝達するために、体の軸がブレないようにするために体幹の力が使われています。また、その動きの間、四肢のうちの一本もしくは二本が壁から離れている事が多いですが、その際に体に生じる回転のモーメントに抵抗するのも重要な役割です。

コンペで勝つ!  スポーツクライミング上達法

コンペで勝つ! スポーツクライミング上達法

  • 作者:木村 伸介
  • 発売日: 2020/03/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 


注意が必要なのは、クランチやシットアップに近い動きが頻出するクライミングもあるということです。例えば、ワイドボーイズで有名なルーフワイドクラックのセンチュリークラックなどは、足でルーフクラックにぶら下がり、体を折り曲げて両手を組み合わせたジャミング(ハンドスタック、フィストスタック)を決めて前進していきます。また、ルーフに近い傾斜のスポーツクライミングにおいて、ニーバーやトウフックで両手を離してレストした状態から再びホールドをつかむ際なども該当します。そのようなクライミングを行う人で、クランチやシットアップの筋力が足りないと感じる人は、個別に鍛えるのもよいでしょう。

ライミングの基本動作をふまえたコアトレの考え方

ライミングコーチのSteve Bbchtelは、自身のサイトにて、クライミングの基本動作をふまえたコアトレーニングを類型立てて説明しています。

www.climbstrong.com

上記のページでは、コアトレーニングを大きく4つに分類しています。

  • スタビリティ

基本的なプランクなど、四肢を地面につけた状態で体幹に力を入れて体をまっすぐ伸ばした姿勢を保つ。

  • ダイナミックスタビリティ

プランクの状態から、四肢の一本もしくは二本を動かす。

  • アンチローテーション

横方向からの負荷(ゴムバンド やウェイトなど)による回転のモーメントに抵抗する。サイドプランクの状態でゴムバンド を引っ張るなど。

  • ヒッププレクション

足を胴体に近づける動き。バーなどにぶら下がって足を上げるなどハンギングレッグレイズなど。

ヒップフレクションを除くと、プランクのバリエーションが主になります。クライミングの書籍等でコアトレーニングにプランクが推奨されるのは、クライミングの基本動作から求められる動きに近いからなのです。

段階的なコアトレーニングの実例

実際に、上記の特性に合ったコアトレーニングを行おうとした際に参考になる動画を紹介しておきます。負荷の調整方法(膝をつけるなど)が段階的に紹介されているので、自分に合った負荷のトレーニングを選べます。


Train Your Core for Climbing: Level 1 (Beginner) // Dr. Jason's Quarantine Workouts

ビギナー編では、基本のプランク、サイドプランクと、それらのバリエーションとして片手、片足を離すやり方を紹介しています。


Train Your Core for Climbing: Level 2 (Intermediate) // Dr. Jason's Quarantine Workouts

中級者編では、回転や動きの要素が入ってきます。基本のプランクからサイドプランクへの回転やその逆、そしてプランクの体勢で手や足を動かすなど、実際のクライミングに出てきやすい動きです。


Train Your Core for Climbing: Level 3 (Advanced) // Dr. Jason's Quarantine Workouts

上級者編では、更に発展させて、基本のプランクから片手片足を同時に離したり、ウェイトやゴムバンド を使用することでより強い負荷をかける方法を紹介しています。

まとめ

  • ライミングの基本動作では、腹筋を起点に上半身を折り曲げる動きは少ない
  • 基本動作をふまえて、プランクを中心に、四肢の動きを加えた体幹レーニングが有効

自宅で過ごす時間が増えたとはいえ、トレーニングはできるだけ効率的に行った方が、体に過剰な負担もかからず、最大限の効果が得られるはずです。トレーニングメニューを組み立てる一助になれば嬉しいです。

おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。お断りしておきますが、筆者はクライミング関連業務に従事しているわけではなく、医療関係者でもありませんので、記載内容を実際に適用される際には一次ソースを確認の上、自己責任でお願いします。