極めて軽量な携帯型ハングボードi-VOU
携帯可能な国産ハングボード、i-VOU。ずっと欲しかったんですが、在庫がついに出たので、矢も楯もたまらず購入しました。
i-VOUの仕様や基本的な使い方は、公式のyoutubeチャンネルが一番わかりやすいので、そちらを見ていただきながら、本記事ではインプレッションや使い方のバリエーションを紹介します。
インプレッション
- 重量
最初に郵便受けに届いた箱を持ち上げて、その軽さに衝撃を受けました。製品重量は300g程度で、クライミングシューズの片足分より少し重い程度です。
同じように携帯性に優れた製品としては、tension climbingのフラッシュボードがあります。フラッシュボードはホールドの種類が多いですが、重さが907g近いです。岩場へ持ち運ぶことを考えると、ペットボトル1本分以上軽いのはかなりのメリットです。
- 保持感
材質は朴(ほうのき)という木で、滑らかに仕上げられていますが、チョークを乗せるとしっかりとフリクションを感じられます。
保持面には少しアールがついています。アールは、Beastmaker2000と比べて少しシャープで、マイクロスと同じくらいですが、ぶら下がって痛さや不快感を感じるかとはありません。
- エッジサイズ
エッジサイズは9mm、12mm、15mm、18mm。一番大きいエッジサイズは18㎜ですが、ウォームアップではハードに感じる人もいると思います。その場合、上下の36㎜の面を、ガバではなくエッジとして使用し、ハーフクリンプでぶら下がるのもいいと思います。
使用目的
使用目的としては、大きくウォームアップとトレーニングに分かれます。
ウォームアップ
ウォームアップとしては岩場での利用が主になるでしょう。リードクライミングを例にすると、目的のルートより低いグレードのルートを2本くらい登ってアップとする人が多いと思います。しかし、目的のルートの核心で出てくるような細かいカチやポケットに対して本当に充分なウォームアップと考えると、それでは不充分です。核心で必要となる力の80〜90%くらいの出力をしておきたいですが、それに適したルートを岩場で頑張って探すより、i-VOUにぶら下がった方が早いでしょう。指皮の節約にも最適です。
トレーニング
自宅でのトレーニング目的にももちろん使用できます。固定型のハングボードのようにぶら下がるのが基本となりますが、携帯型ハングボードの利点として、足にスリングをかけて引っ張る事でも、指にトレーニング負荷をかける事ができます。
上の写真のように立って行ってもいいし、下のyoutube動画では座って行っています。
CSTV: At Home Using the Tension Flash Board
最初に見た時、この足にかけるやり方は十分に指に負荷をかけることができるのか少し疑問に思ったのですが、実際のところは自身の限界ぎりぎりの負荷をしっかりかけることができます。少し余談になりますが、以下に解説します。
オーバーカミングアイソメトリックとイールディングアイソメトリック
i-VOUのような携帯型ハングボードに対し、ぶら下がる動きも、足にかけて引っ張る動きも、腕から指にかけての動きは、筋肉を一定の収縮状態で固定して力をこめるアイソメトリック(等尺性)運動となります。しかし、その運動の強度を決定する要素という観点では、2つの運動は少し異なります。
i-VOUにぶら下がる運動は、自分の体が重力に引っ張られて地面に落ちそうになるのに抵抗して、肩・肘・指などの関節を動かないように固定するアイソメトリックです。このような運動をイールディングアイソメトリック(Yielding isometric)と言います。イールディングアイソメトリックにおいては、負荷量は動こうとする物体の力に依存します(ぶら下がりの例では体重)。
一方、i-VOUのスリングを足にかけて指で引っ張るような運動は、動かない足を支点にして思い切り引っ張る運動です。こちらも、肩・肘・指などの関節が動かないのは一緒ですが、元々動かない物体に対して力をかけるので、負荷量は引っ張る人がどれだけ力を入れるかによって変化します。このような運動をオーバーカミングアイソメトリック(Overcoming isometric)と言います。
どっちの運動が強い負荷を発生させることができるかというと、実は原理的には後者のオーバーカミングアイソメトリックになります。あるエッジにぶら下がる際に、ゆっくりと指先に力を入れていくような動作を考えてみます。
最初のうちは体重よりも小さい力しか指先に発生していないので、体は動きません。この状態は動かない物体を引っ張っているのでオーバーカミングアイソメトリックです。体重より少し大きい力が発生すると体が浮き、イールディングアイソメトリックに移行します。実際には体重以上の力を発生させる余力があっても、体が浮いてしまった以降は、体重以上の負荷は指にかからなくなります。
例えば300kgの重りを体に装着しておけば、アダム・オンドラでも体は浮かないでしょう。そうすると運動はずっとオーバーカミングアイソメトリックとなり、肩・肘・指の関節を固定させる筋肉が限界ぎりぎりの筋力を発生させる必要がある負荷をかけることができるのです。
アイソメトリックに関する一般的な話は以下の記事にも書いたので参考までに。
最後はマニアックな話になってしまいましたが、早く岩場でi-VOUを使いながら登りたいです。それまではデッドハングやBFRトレーニングに活用して持ち感に慣れておく事にします。