Beastmakerぶら下がり時間アンケート結果Part2

前回に引き続き、Beastmakerのぶら下がり時間とクライミンググレードの関係を調査したアンケートの結果をまとめていきます。前回のブログはこちらです。

takato77.hatenablog.com

前回は、アンケートの各項目について、回答の分布をまとめました。今回からはその回答をもとに、Beastmakerにぶら下がれる時間や懸垂の回数と、クライミングのグレードに相関が見られるか確認してみます。今回Part2はBeastmakerにぶら下がれる時間を分析し、次回Part3で懸垂回数を分析します。

管理人は統計は素人なので、誤ってることを書いているかもしれません。気づいたらご指摘お願いします。また、統計的な用語をごちゃごちゃ書いてますが、興味のない方は、グラフで自分がどのあたりに当てはまるか眺めるだけでも面白いと思います

一部データの除外

分析に入る前に、明らかにおかしいと思われるデータについては、除外をしておきます。

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表1.除外データ

前回のブログを公開したところ、「複数日トライしてRPできた最高グレード」の回答において、34という回答があるという指摘がありました。この34はVグレードだとV18、YDSだと5.16aくらいに当たり、世界的に見ても達成者のいない領域ですので、流石に入力誤りかなと考えられます。表1の黄色網掛けの部分になりますが、同一のデータにおける「1日でトライしてRPできた最高グレード」は21であることから、おそらく「複数日トライしてRPできた最高グレード」は24と入力したかったところ、誤って34と入力してしまったと想定されます。

また、もう一つ特異なデータとして、オレンジ網掛けのデータがありました。Beastmakerの14㎜エッジにぶら下がれる時間は2秒、懸垂は0回である一方、「複数日トライしてRPできた最高グレード」の回答は28で、これは四段相当となります。これは可能性としてゼロではないと思いますが、考えにくいことです。もしかしたら、片腕でトライした数値を投入いただいたのかもしれません。

今回の分析においては上記2点のデータは除外させていただきました。もし申告値に誤りが無かったら、わざわざ回答いただいたにも拘らず申し訳ありません。

 Beastmakerぶら下がり時間とクライミンググレードの関係

(例)複数日トライしてRPできた最高グレード

具体的な分析に入っていきます。まず、Beastmaker14mmエッジにぶら下がれる時間とクライミンググレードの関係を確認していきます。グレードは、レッドポイント、オンサイトなどいくつか申告いただきましたが、まず、「複数日トライしてRPできた最高グレード」について散布図を書いてみます。

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上のグラフの見方を説明します。例えば横軸が15秒のところで縦に点が6個並んでますが、これは15秒ぶら下がれると申告された方が6人いて、各人のRP限界グレードが17~23までばらついているということです。

このグラフを見ると、全体的に少しだけ右肩上がりに見えますが、かなりデータはバラついているのがわかると思います。例えば、上にあげた15秒のところを段級グレードで見ると、17は3級、23は二段です。別のところでいうと、60秒付近で、21(初段)と29(四段)に点があったりもします。

回帰分析

このデータのばらつき具合について、回帰直線を引いて確認してみます。回帰直線は、2つの変量(今回は”ぶら下がり時間”と”RP限界グレード”)の間に直線的な関係があるとした場合、最も確からしい直線となります。

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右上に決定係数R2=0.134というのがあります。決定係数は1以下の値をとり、簡単に言うと、1に近いほど、回帰直線の予測はよい精度ということになります。0.134というのはそれほど高い数値ではありません。どういうことかというと、例えば「Beastmakerの14mmエッジに15秒ぶら下がれるならば、その人のRP最高グレードは、回帰直線の横軸15に対する縦軸値22くらいだろう」と予測するのは無理がある、ということです。実際に散布図のデータ分布をみても、15秒のあたりは、グレードは17~28までバラついているので、直感的なイメージとも合いますね。

相関検定

回帰直線の予測精度はよくないですが、だから即ち、この2変量の間に相関は無いというわけではありません。詳細は省きますが、相関検定のP値は0.01(相関が無いという仮説が成立する確率は1%程度)となりますので、おそらく相関はありそうだという結論になります。本記事の文末に参考資料として相関検定の諸数値表を記載しておきます。

まとめると、Beastmakerの14mmエッジにぶら下がれる時間が長いほど、RP最高グレードが大きくなる関係性がありそうだが、その関係式はよくわからない、という感じです。もう少し言うと、単純な保持力のぶら下がりが同じであっても、RP最高グレードが上下する別の要因がかなりありそうだというこです。その要因は、テクニック・回復力・身長・リーチなど、クライマーに起因する要素もあれば、ジム間・岩場間のグレードばらつきに起因するものもあるでしょう(文字にすると、なんか当たり前のことですが)。

自身の立ち位置の確認

グレードがクライミングの全てではないですが、できるだけチャレンジングなルート・課題にトライしたいと考えるのはクライマーとして自然なことだと思います。上に上げた散布図のどこに位置するかによって、クライマーとして実力を向上させるための伸びしろを考えるヒントが得られそうです。

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グラフ下部グループの伸びしろ

グラフの下方に位置する人は、保持力の強さに比べて、比較的登れるグレードが低いと言えそうです。その原因は、もしかしたら体格などの遺伝要因の可能性もありますが、テクニック・メンタルなどのトレーニング可能な要因である可能性も十分あり、伸びしろに満ちていると考えられます。

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グラフ上部グループの伸びしろ

一方、グラフの上方に位置する人は、限られた保持力に対して、テクニック・メンタル面で様々な工夫をすることによって高グレードを達成している可能性があります。その場合、グラフの真上方向への伸びしろは少なそうです。先の検定で保持力とグレードに相関はありそうなので、地道な保持力トレもしっかり行い、少しでも右上方向にシフトできるように努力するのがよいでしょう。

ライミング嗜好でグループ分け

今回のアンケートでは、クライミングの嗜好(よく行うクライミング)も申告いただきました。ボルダリングしか行わないグループ(A:回答数30)と、それ以外のグループ(B:回答数19)で差異があるのか比較してみます。今回、複数回答可にしたので、スポーツクライミング・トラッドクライミングボルダリングを両方行うと回答した方もいますが、そのような場合は(B)に分類しました。

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(A)ボルダリングしか行わないグループ

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(B)それ以外のグループ

これらを見ると、(B)それ以外のグループ の方がデータのばらつきが少ないです。(A)ボルダリングしか行わないグループ は、統計的に見ても、決定係数が0に近いのに加え、P値も0.24で有意水準5%を満たしません。かみ砕いて言うと、ボルダラーのみのグループに限ると、単純なデッドハングのぶら下がり時間が長くても、それがクライミンググレードに影響を与えているとは言い切れない結果となっています

 なぜ上記のような結果となるのかは、仮説的に考察するしかないですが、以下のような要因が考えられるように思います。これらを検証するには、更なる調査が必要になりますが、面白いテーマです。

  • ルートクライミングは前腕の持久力が限界となって落ちることが多いのに対し、ボルダリングは前腕に力が残っているのに別の要因でムーブができずに落ちることが多い
  • ボルダラーのみのグループは、ジムのみで登る人が多く、ジム間のグレードのばらつきの影響を大きく受けている

 

以上

 

参考資料

オンサイト等のグレードとの相関

複数日トライしてRPできた最高グレードのほかに、以下のグレードについても回答いただきました。

  • 1日でRPできた最高グレード
  • OSできた最高グレード
  • コンスタントにOSできるグレード

全体的な傾向はあまり変わらないので、それぞれの散布図だけ参考として貼っておきます。詳細の説明は割愛しますが、特筆しておくべきことは以下あたりです。その他気づいた点があれば是非ご指摘お願いします!

  • (A)ボルダリングしか行わないグループ では、全てにおいて相関検定が有意水準5%を満たさない
  •  (B)それ以外のグループ では、コンスタントにOSできるグレードのみ、相関検定が有意水準5%を満たさない
 1日トライしてRPできた最高グレード

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フラッシュできた最高グレード

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コンスタントにフラッシュできるグレード

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相関検定の諸数値

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