ピンチトレーニングの注意点
ピンチグリップのトレーニングは、以前ピンチブロックに重りをぶら下げて保持する方法を紹介しましたが、もちろんクライミングウォールやハングボードにピンチホールドを取りつけて自身がぶら下がる方法も可能です。
例えば上のInstagram画像のように、緩傾斜に取り付けられたピンチホールドをキャンパシングしたり、上部のピンチホールドにぶら下がるなどのやり方です。
これは、より実際のクライミングに近い動作ではありますが、人間工学の観点から考えると必ずしも体によい動きとは言えず注意が必要となります。今回は、スペインのクライマー、研究者、コーチであるEva Lópezによりまとめられた、ピンチグリップのトレーニング方法に関するブログ記事から要点をまとめて紹介します。詳細を確認したい方は以下の原典を見ていただくのがよいでしょう。
人間工学的に自然なピンチグリップぶら下がり姿勢
ピンチグリップで保持してぶら下がる場合、人間工学的に自然な姿勢は以下のようになります。
- 手首は15度~30度背屈、尺屈も撓屈もしない
- 腕は体の真正面に出す
これを実現しようとすると、世界で話題の野村真一郎さんのインスタ動画のように、ルーフに取り付けたピンチグリップでフロントレバーをするような姿勢になります。
しかしこれは残念ながら一般人にとって実現可能性が極めて薄いので、以下の2点のようなやり方が次点として推奨されるのです。
- ルーフに取り付けたピンチグリップにぶら下がる(腕を体の前に出すのをあきらめて、フロントレバーはしない)
- ピンチブロックに重りをぶら下げて保持する
どちらも腕を体の前に出すことは割り切っていますが、手首の背屈、尺屈、撓屈については人間工学のセオリーに従っています。
続いて、人間工学的には不自然となるパターンを確認していきましょう
人間工学的に不自然なピンチグリップぶら下がり姿勢
垂壁~緩傾斜壁に、垂直方向に取り付けられたピンチにぶら下がる
この方式では、手首が尺屈した状態で親指の筋肉を酷使します。この場合、ドケルバン病などの症状に陥るリスクが高くなります。ドケルバン病は、手首の親指側に存在する腱鞘の炎症です。
垂壁~緩傾斜壁に、斜め方向に取り付けられたピンチにぶら下がる
この方式では、垂直方法に取り付けられたピンチにぶら下がる場合に比べ、手首の尺屈度合いは少なくなりますが、手首や小指にかかる負荷は理想的とは言えません。
またトレーニングの観点では、純粋に親指のピンチ力を鍛える目的にはそぐわない面が出てきます。小指側のフリクションに支えられる荷重であったり、左右のホールドを中心方向に向けて抑え込むコンプレッションによって支えられる荷重が大きくなるためです。
実際のクライミングは人間工学的に自然な姿勢ばかりではない
垂壁~緩傾斜壁に取り付けられたピンチホールドを保持してぶら下がるのは、人間工学的には不自然であることを確認してきました。しかし、ここで注意が必要な点は、これらの動作はクライミングとしては普通にあり得る動作であるということです。どうしても登りたいルートでそのような動きが必要であれば、多少体に負荷がかかってもその動作を選択せざるを得ないこともあるでしょう。
ポイントとしては、クライミングのベース能力としてピンチの保持力をトレーニングを行う際には、可能であれば体に優しい(人間工学的に自然な)姿勢を選択する方が、怪我をするリスクを低減することができるということです。人間工学的に不自然な姿勢でのトレーニングは、ターゲットとしている課題・ルートでどうしても必要な場合、一時的に採用する程度に留めるのがよいのではないでしょうか。
まとめ
- ピンチグリップを行う際には手首を15~30度背屈し、尺屈・撓屈しない姿勢が人間工学的に自然
- トレーニングを行う際には、人間工学的に自然な姿勢を選択することで怪我のリスクを低減することができる
ピンチグリップでは手首を故障をすることが多く注意が必要ですので、できる限り故障のリスクを低減できるよう、今回の記事が参考となれば嬉しいです。
おわりに
ここまで読んでいただきありがとうございました。お断りしておきますが、筆者はクライミング関連業務に従事しているわけではなく、医療関係者でもありませんので、記載内容を実際に適用される際には一次ソースを確認の上、自己責任でお願いします。