【書籍紹介】THE HARD TRUTH
The Hard Truth: Simple Ways to Become a Better Climber
- 作者:Hampton, Kris
- 発売日: 2020/05/14
- メディア: ペーパーバック
"Hard Truth"とは、「厳しい現実」「受け入れがたい真実」といったような意味です。本書は、なかなかクライミングが上達しない人達に対し、その原因である"Hard Truth"を突き付けます。
本書はクライマーとして上達するためのヒントが詰まった書籍ですが、具体的なトレーニング方法の解説はありません。普段のトレーニングに臨む姿勢や考え方にフォーカスし、それらが如何にあなたの上達を妨げているのか実例を交えて紹介する、エッセイ集です。
例えば、「鍛えて出直してくるよ」と言い訳するクライマーには、こんな風に言ってお尻を叩いてくれます。
またかよ。お前が6年間毎週ジムで登っていて、同じレベルのクライミングをしていることを知ってるぞ。いい加減にしろ。(中略)永遠に鍛え直し続けている途中で、結局のところ厳しいトレーニングは始めずに、次のレベルへ進化できない人っていうのはいるものだ。
以上管理人超訳
著者のクリス・ハンプトンは、ワイオミングでPower Company Climbingというクライミングトレーニングサービスを提供しています。対面、オンラインなどの有料コーチングプログラムに加えて、兼ねてからブログやpodcastを通じて、クライマーとして上達するための方法論を発信してきました。
本書籍はそのブログをまとめ直したもので、ヒップホップ好きの著者らしく、時にはライムをキックするように軽快に、しかし辛辣に、怠惰なクライマーを叱咤してくれます。
目次と概要
管理人の備忘も兼ねて、各章のタイトルと要点を以下にまとめておきます(いくつか噛み砕ききれず割愛した章もあります)。内容のイメージとしては、Mickipediaの上達方法/心構えカテゴリーに記載されているような内容が詰まっている感じです。
If You Aren't Making Progress, You're Probably Making Excuses
身長、リーチ、年齢、得手不得手、時間など、言い訳したくなる事は多々あるが、それらの言い訳が成長を妨げている。弱点の裏には伸び代がある。
Climb Better Faster | The Magic Bullet
より難しいルートを登れるようになりたければ、自分の弱点となっている能力を強いられるような易し目のルートをたくさん登るべき。ただし、弱点はトレーニングと共に変化するので、定期的に自己評価を行って再認識する事。
Training Wheels | How to Climb Harder Than the Other Newbs
自分より経験の浅いクライマーが早く上達していくのを見ても焦らずに、地道に反復練習をして着実に実力をつけていくことが大事。
The Chains That Bind Us
何も登れなかった日にも必ず小さな進展がある。失敗の積み重ねの上にのみ成功が待っている。
Don't sqash the Banana | Commitment
バナナを真っ二つに折ろうとした時に、少しでも躊躇えばバナナは潰れてしまう。クライミングでも、プロジェクトの完登やオンサイトトライを決めきれないのは、一瞬の躊躇いによるコミット力不足による。しかし、それは一朝一夕に改善できるものではなく、普段から言い訳をするクセが原因となっている事が多い。
時間が足りないとか、気が乗る時にまたやるだとか、鍛えてから出直してくるとか、いつまで言い続けるのか。
Even Good Beta Spray is Bad Beta Spray
課題のベータをたくさんくれる人がいるが、もらう側にとって害悪であることもしばしば。もらう人が内省して咀嚼してベータを採用するのでなければ、その人の身にならない。もしベータを提供するならば、内省を促す事ができるように、なぜそのベータが良いと思ったのか思考過程とともに提供すべき。
How Your Friends Are Holding You Back
クライマーのレベルは人それぞれなのに、サークル的に集まって同じメニューをこなしていては、効率的に成長できない
The Top 5 Bad Gym Habits of Sport Climers
スポートクライマーがジムでよくやる悪い癖トップ5
- クライミングだけを楽しんじゃう(トレーニングのためのクライミングをしていない)
- 自分の得意な領域(傾斜、ホールドなど)のみで登る
- 何本登ったかを重視して、質を重視しない
- 「テンション!」と言う
- ボルダリングをしない
The Top 5 Bad Gym Habits of Boulderers
ボルダラーがジムでよくやる悪い癖トップ5
- 長時間厳しくトライし過ぎる
- 常にプロジェクトをトライしていて殆ど完登していない
- 持久力を無視している
- 高強度の課題を殆どトライしない
- 十分に努力していない
Sandbagged | Are You Kidding Yourself?
グレードが辛いと言うが、そのルートのタイプが苦手で辛く感じるだけなんじゃないか?成長するチャンスと捉えよう。
You Aren't Actually Training
トレーニングとワークアウトは似て非なるもの。ワークアウトは一時的な刺激だが、それを意識的に方向性を定めて積み上げていくことで初めてトレーニングとなる。
The False Ceiling | Has Your Skill Set Limited Your Training Gains?
上達が頭打ちになった場合、それが真の限界値であるなんてことは殆ど無い。弱い所に目を瞑り、強いところだけをトレーニングしている結果、弱い所にひきづられて上達しなくなっているだけ。
The #1 Reason Why Your Training Dosen't work
岩場でのクライミングの経験は、インドアジムでは得られない。岩場での経験が浅く、それでも岩場でのクライミングに強くなりたいのであれば、多少コンディションが悪くても岩場でのクライミング経験を積むべき(岩場経験豊富ならジムに行くのもいいけど)。
Intimidated?
強いクライマーに囲まれて、かっこ悪いところを見せたくないとトライを躊躇したとしても、決して臆せず、自らを奮い立たせてトライするべき。トライしなければ登れるものも登れない。
Keeping Perspective for the Weekend Warrior
フルタイムクライマーは週末クライマーに比べてあっという間にプロジェクトを登ってしまうように見える。しかし、トライ数では週末クライマーと大して変わらず、短い期間で大量のトライをしている結果。
3 Reasons Why Soft Grades Matter
例えば同じ5.12bであっても、易しめの課題は存在する。それらが存在する理由もちゃんとあるし、より厳格にグレードを細分化する意味はない。
- 成長していく過程で、易しいものから徐々にマスターしていく方が効率がよい
- 易しくても素晴らしいクオリティのルートがある
- グレードを細分化し始めたらきりがない
Success Or Mastery
スケートボーダーは一つのトリックを一度成功したからもうやらないなんてことはない。クライマーも、登れた課題をサーキット化して何度もトライしてマスターしよう。かつてのプロジェクトもいつかはウォームアップになる。
The Send is a Necessary Piece of the Process
過程のみが問題で結果はどうでもいい、とうそぶくのは逃げでしかない。完登できたかできないかを、そこまでの過程に改善点を見出すための試金石と捉え、長く完登の成果がないのであれば、ゴール設定か過程のどちらかに問題があると捉えなければならない。
No Kings, No Way
他人と比較して落胆する必要はない。自分のプロジェクトルートが誰かのウォームアップだったとしても、その誰かにとってもプロジェクトだったことがあった。同じく自分のウォームアップルートは誰かのプロジェクトかもしれない。
Selective Learning | The Short-Sighted Approach
トレーニング本を読むと、つい親しみがあるメニューに目がいってしまいがち。ずっと似たようなトレーニングメニューを続けて停滞しているのであれば、一度トレーニング本を読み返してみて、見逃していたトレーニングが無いか探してみては。
Climb Better Faster | The Often-Missing Piece
時には、自分の実力を大きく越えたグレードにトライする事も必要。そのグレードを経験し、そのグレードに到達するために自分に必要なものを想像して戦略を立て、一つ一つの段階をマスターしていく。
余談
本書は洋書のペーパーパックですが、Amazonが日本で印刷しているようで、注文した翌日に届きました。Amazon POD(プリント・オン・デマンド)というサービスで、2011年から運用しているようです。知らなかった。在庫も減るし、輸送コストも減るし、よさそうですね。