指の保持力を査定する無料サービス MyFingers

指の保持力は、クライミングにおいて、最も重要となる力の一つです。なかなか完登できない課題があると、「もう少し保持力があれば登れるのに」と考えたことは、誰しも経験があるでしょう。

しかしながら、実際に保持力のせいで登れないのかどうかは、はっきりとはわからないですよね。指の保持力以外の体力要素(引き付け、足腰など)だったり、動きの洗練度などに原因があるかもしれません。

指の保持力が本当に弱いのかどうかを確認することができれば、集中して鍛えた方がいいポイントが、保持力なのかそれ以外の要素なのかがわかり、効率的なトレーニング計画が立てられそうです。

今回はその一助となる無料サービスを紹介します。世界中のクライマーが測定したデータを元に、現在登れているグレードに対して指の保持力が強いのか弱いのかを査定してくれる「MyFingers」というサービスです。実際に利用してみた感想も合わせて紹介します。

査定のために保持力を測定する際は、Lattice Testing and Training Rungの20mmエッジを使用します。おそらくBeastmaker1000の20mmエッジで代用可能と思われます(後述)ので、興味のある方は是非やってみてはいかがでしょうか。

 

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Lattice Testing and Training Rung

 

MyFingersの紹介

MyFingersは、Lattice Trainingが無料で提供している、指の保持力の査定(アセスメント)ツールです。現在登れているグレードに対して、指の保持力が強いのか弱いのか、査定してくれます。以下のページから必要な情報をフォーム入力することで、誰でも無料で利用可能となっています。

 

latticetraining.com

 

Lattice Trainingという会社の概要

Lattice Trainngは、クライミングに関わる体力やスキルの査定や、個々人に合ったトレーニングプラン作成を、サービスとして提供しています。詳細は以下リンクを参照ください。

 

データドリブンなクライミングトレーニング(Lattice Training) - May the friction be with you!

 

査定サービスの提供を通して、Lattice Trainingには、世界中のクライマーのデータが集まっています。データの内容は、身長、体重、性別、クライミングの実力(グレード)、保持力を始めとした様々な体力数値などです。それらのデータを分析した結果を、個々人の最適なトレーニングプラン作成に役立てています。

My Fingersの概要

Lattice Trainingが提供しているクライミング能力の査定サービスは、有料サービスとなっています。MyFingersは、それらの有料サービスへ誘導するお試し的な位置づけが強いです。無料で手軽に実施できる代わりに、査定対象は指の保持力のみとなっています。

無料ではあるものの、査定の元となるデータは、Lattice Trainingに蓄積された世界中のクライマーのデータですので、信頼性は高いでしょう。

MyFingersのWebページでいくつかの項目を投入すると、メールですぐに、以下のような査定結果が送られてきます。

 

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査定は、以下3つの観点で行われます。

  1. 保持力 vs ボルダー限界グレード
  2. 保持力 vs ルート限界グレード
  3. ボルダー限界グレード vs ルート限界グレード 

例えば1番は、ボルダー限界グレードに対して、その人の保持力は平均以上か以下か、平均値からどの程度外れているのか、を教えてくれます。詳細は後述します。

MyFingersへ入力する項目

My Fingersへの入力は、WEBページのフォームに従って記入していくだけなので、とても簡単です。入力する項目は以下の通り。

  • 名前と連絡先メールアドレス
  • リードクライミングの限界グレード
  • ボルダリングの限界グレード
  • 性別
  • ホールディング(ハーフクリンプ/オープンハンド)
  • 体重
  • 保持力の測定結果

グレードについては、現在の実力値をできるだけ表すものとするため、「直近2年間」で、「10セッション以内」で登れたもの、という条件がついています。10セッション以内は、「10日以内」という解釈でよいでしょう。フォンテーヌブローグレードへの換算は、IRCRAのグレード換算表を参考に。

 

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IRCRAグレードスケール

 

 

保持力の測定方法

MyFingersで入力が必要となる保持力の測定方法を以下に記していきます。詳細はインストラクションのページを参照してください。

20mmエッジのあるフィンガーボードを用意する

MyFingersのWebページでは、「Lattice Testing & Training Rungを使用する」と明確に指示があります。しかし、Latticeのフィンガーボードを国内で設置してあるところは余り無いでしょう。

Lattice Trainingの有料査定サービスのページを見ると、必要器具の欄に、「20mmエッジ 例:Lattice Training Rung もしくは Beastmaker 1000」とあります。ですので、MyFingersでもBeastmaker 1000を使用しても、おそらく大丈夫でしょう。その場合は下段の端にあるホールドを使用してください。

保持できる限界重量の測定

測定は両手でハングボードにぶら下がります。ホールディングはハーフクリンプかオープンハンドをお好みで。測定のゴールは、7秒ギリギリぶら下がれる限界重量を見極める事です。

ハーネスを装着し、ビレイループに重りをぶら下げる事で、重量を調整してぶら下がります。7秒以上ぶら下がれるようであれば重りを増やし、7秒に満たなければ重りを減らしましょう

重りを付けていない状態で7秒ぶら下がれない場合は、プーリー(滑車)を使って負荷を減らす必要があります。プーリーシステムのイメージは以下の動画を参考にしてください。

 


www.youtube.com

 

一回測定したら、重量を変えて次の測定をする前に、2分以上レストして下さい。7秒ギリギリぶら下がれる重量に到達したら測定終了です。負荷が高い測定なので、8回測定して限界重量に到達しなかったら、日を改めて再測定するようにしましょう。

測定結果は、体重と重りの合計重量を入力します。例えば、管理人の測定結果は、体重65kg+10kg=75kgでしたので、75kgと入力します。

測定時の注意点

測定は体に強い負荷がかかります。そのため、24時間以上レストした後に、充分なウォームアップの上で行うようにしてください。

また、急激にガツンとぶら下がるのはやめましょう。指をエッジに添えてから、ゆっくり力を入れてぶら下がるようにしてください。

ぶら下がる姿勢は、肘はほぼ真っ直ぐで、ほんの少し曲がるくらいと指定されています。90度にロックオフしたような状態では測定しないでください。

MyFingersを利用できる人の条件

MyFingersを利用するためには、以下の条件を満たしている必要があります。これは強度の高い保持力測定を安全に行うためです。

  • 18歳以上であること
  • 怪我や故障がないこと
  • 6b+、V4が登れること(大体2級くらい)

測定結果の見方

メールで届いた測定結果について、見方を解説します。名前と測定日の下に、申告した体重、保持力の測定値、ルートとボルダーのグレードが記載されています。その下が査定結果です。

 

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1.保持力 vs ボルダー限界グレード

ボルダー限界グレードに対して、その人の保持力は平均以上か以下か、平均値からどの程度外れているのか、を教えてくれます。

Figers vs Boulderという欄に、赤い丸が付いています。これはボルダー限界グレードに対して、保持力が弱いということを表しています。

赤い丸の右に、査定内容が記載されています。ざっくり言うと、「体重の115.4%という保持力スコアは、ボルダー限界グレードに対してかなり弱い。あなたが申告した体重・性別・ボルダー限界グレードであれば、保持力スコアは8%くらい以上高い数字である
ことが期待される。」とあります。

115.4%というのは、体重に対して何%の重量を保持できるかを表しています。管理人の場合は、65kgの体重に対して、75kg保持できたので、75÷65×100≒115.4%です。

8%高い数字は115.4%+8%=123.4%で、約80㎏になります。世界中のクライマーによるデータの平均値から比べると、管理人の保持力は5kgくらい以上少ない、という事です。

 

 (2021/7/7 追記)

一部読み違いがあったので、上記文章を一部赤字で修正しました。115.4%より8%高い123.4%が、世界中のクライマーの平均値だと思ってましたが、違うようです。「more than 8% higher」とあるので、世界中のクライマーの平均値は123.4%よりも高く、その値は明らかにされていませんでした。

以上の読み違いに気づいたのは、改めて保持力を測定した結果をMyFingersに入力して結果を受領したときです。保持力は121.0%と上がったのに、やっぱり世界中のクライマーの平均値は「more than 8% higher」と出たので、おかしいなと。

 

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現時点でわかるのは、V7を登る世界中のクライマーの保持力の平均値は、129.0%より大きい、ということです。なかなか平均値までの道のりは遠い!

(追記ここまで)

 

 

2.保持力 V.S. ルート限界グレード

ルート限界グレードに対して、その人の保持力は平均以上か以下か、平均値からどの程度外れているのか、を教えてくれます。見方は1のボルダーと同じです。

管理人の場合、ボルダーと同様、限界グレードから期待される保持力より8%以上低かったです。

3.ボルダー限界グレード V.S. ルート限界グレード

これは少し毛色の違う査定です。ボルダーで登れているグレードに対して、ルートで登れているグレードが高いのか低いのかを査定してくれます。高ければ、持久力やペース配分の能力が優れているのかもしれません。

管理人の場合は、高くも低くもない、という結果でした。

やってみた感想

元々、自身の保持力は、平均と比べて弱いだろうという自覚はありました。今回、改めて数値で裏付けを得ることができ、納得しています。現在、クライミング以外の補助的な保持力トレーニングを行っているのは、間違ってはなさそうです。

一方、注意が必要なのは、査定結果は一面的な分析に過ぎないということです。グレードに影響を与えうる要素は、身体的な特徴(身長、リーチ)、体力、スキル、メンタルなどがあります。体力要素も、部位による違い(引きつけの力、足腰の力など)、パワーの大小(爆発的な力を発揮する能力)、持久力の有無などに細かく分かれていきます。

今回の査定で言えるのは、管理人自身の能力において、「指の保持力が弱い環である可能性がある」ということまでです。その他の能力についても、クライミング能力の向上を妨げている要素があるかもしれません。

それらの要素については、全てではありませんが、同じくLattice Trainingが提供する有料アセスメントサービスを利用すれば、ある程度把握することができそうです。利用する機会があれば、またリポートするようにします。