保持力だけではなく、色々な体力要素を定期的に測定する

以前、9c climbing ultimate testという、クライミング能力を推定する体力測定を紹介しました。これはどちらかというとお遊び的な要素が強く、測定部位も上半身に特化していましたし、腕試し的にやるだけで、継続的に測定している人もいないのではと思います。

今回紹介するのは、より実践的な体力測定です。定期的に測定する事で、クライミングに必要な体力要素が向上しているのか、はたまた停滞もしくは退化しているのか、網羅的に確認する事ができます。本ブログでは何度も紹介している、Steve Bechtelの著書「ロジカル・プログレッション」からの紹介です。

体力数値を定期的に確認するメリット

成長を実感するモチベーションになる

ライミングを始めたばかりの頃は、ジムや岩場に行くたびに、登れる課題のグレードが上がっていった覚えがあるでしょう。誰でも最初は、クライミングに必要なスキルと体力が低い状態からスタートします。そのような状態は、伸び代がたくさんあるので、短期間でどんどん成長していきます。

しかし、クライミングを続けていると、程なくして成長が頭打ちになります。プラトーと言われる状態です。当然、登れる課題のグレードなかなか更新できなくなっていくため、グレードだけでは成長を感じにくくなります

ここからは、残った伸び代をかき集めて、地道に鍛え上げていくフェーズに移っていきます。日々のクライミングも、漫然と自分がやりたい楽しいクライミングだけではなくなっていくでしょう。そんな厳しいトレーニングを続けても、なかなかグレードが上がらなければ、モチベーションが下がって、つい惰性で、自分が得意で楽しいクライミングだけをやりたくなってしまうかもしれません。しかし、そんな領域はきっと、最も伸び代が少ない領域のはずです。

そんな時でも、体力的な数値を測定すれば、少なくとも体力的な要素は向上しているかどうか可視化できます。グレードがちっとも更新しなくても、個別の体力的な数値が向上しているのを見れば、厳しいトレーニングを継続するモチベーションにつながるでしょう。

置き去りにされてる体力要素がないか確認する

ライミングで重要となる体力的な要素は、なんといっても指の保持力です。最終的に壁に体を繋ぎ止めている部位は指なので、その保持力はもちろん重要です。

しかし、指だけ鍛えていればよいかと言えばそんなことはありません。しっかりとホールドを踏み抜く脚力、足から得た推進力をブレずに伝える体幹の安定性など。クライマーに必要な基礎体力の目安は、以下の記事にも簡単に紹介していますので参考にしてください。

また、純粋に重いものを持ち上げる能力(ストレングス)だけだはなく、瞬発的に力を発揮する能力(パワー)であったり、一定時間運動を続ける能力(持久力)といった観点も必要になってきます。

一定期間、弱点の改善に集中したり、新たなスキルの修得に集中していると、その他の基礎体力が低下してしまっているかもしれません。そんなとき、網羅的に体力を測定する事で、極端に体力が低下している部位や要素がないか確認できます。

ライミングにおける理想的な体力測定

それでは、具体的にどのような体力測定を行うといいのか紹介していきます。

この方法のポイントは、「ストレングス、パワー、持久力」と「指、上半身、全身」の組み合わせ(マトリクス)で測定するということです。こうする事で、クライミングに必要な体力要素の一部が極端に置き去りになっていないか、追跡することができます。

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Logical Progression流の体力測定マトリクス

測定項目のうち、デッドリフトとエアロバイクは、家では設備が揃えにくいと思います。フィットネスジムと契約していればいいですが、測定のためだけであれば、月単位の契約をするのはもったいないです。地域の総合運動場などに設備があれば、それを利用するのもよいでしょう。

ストレングス

ストレングスは、一度に発揮できる力を表します。スピードは遅くてもいいので、できるだけ大きな力を出すようにして測ります。

指:加重エッジハング

重りをハーネス等にぶら下げて、20mm程度のエッジにぶら下がります。7秒ぶら下がれたら、重りを増やして、限界となった重りの重量を測定しましょう。

上半身:加重懸垂

重りをハーネス等にぶら下げての懸垂を行います。あごがしっかりバーの上に出るようにして、3RM(3回で限界となる重量)を測定しましょう。

全身:デッドリフト

デッドリフトの3RMを測定します。デッドリフトは下半身だけではなく、広背筋や脊柱起立筋も動員するエクササイズなので、全身のストレングスを測定する項目として適しています。

パワー

パワーは、ストレングス×スピードです。自分の限界レベルの重いものを動かす際には、とてもゆっくりしたスピードになります。しかし、実際のクライミングでは、デッドポイントのように瞬発的に力を発揮する能力が求められます。

全身:垂直跳び

垂直跳びは全身のパワーを測定するよい種目です。壁に目盛を張り付けて測定してもいいですし、JumpPowerのようなアプリで測定する事もできます。

JumpPower
JumpPower
開発元:Sten Kaiser
¥120
posted withアプリーチ
上半身:スピード腕立て伏せ

パワーの測定なので、時間内に何回できるかを測定します。10秒間に何回腕立て伏せできるかを測定し、休憩を挟んで3回繰り返します。3回の平均値を記録しましょう。

腕立て伏せは、スピードを上げようとすると、腰を逸らせて反動をつけたりしがちです。目的は上半身のパワーの測定なので、正しいフォームで行うように注意します。

持久力

ストレングス、パワーに加えて、持久力もクライミングに求められる大事な体力要素です。指の持久力と全身の持久力を測定します。

指:エッジハングリピーター

20mmのエッジに、10秒ぶら下がって10秒休むのを繰り返す、シンプルな測定です。10秒ぶら下がれなくなったら測定終了で、10秒きっちりぶら下がれた回数を記録します。

全身:エアロバイク全力10分

エアロバイクを10分間漕いで、消費カロリーを記録します。10分間でどれくらい多くの運動量をこなせるかを測定するのが目的なので、10分後には疲労困憊している状態になる強度が理想です。強度を見定めるために、何度か試行錯誤が必要かもしれません。

体力測定は飽くまで目安

これらの体力測定は、体力という側面では、できる限り網羅的にクライミングに必要となる能力を測定できます。しかし、クライミングに必要なのは体力だけではありません。スキルやメンタルも同様に重要です。測定の数値を上げる事に集中して、スキルやメンタルを磨く練習が疎かになるなら、それは本末転倒です。

また、体力測定の数値は、疲労度合いにも影響を受けます。多少の数値の上下で一喜一憂する必要はありません。こちらのブログ記事が参考になります。

 

 

体力測定の数値は、おおまかに傾向を把握するツール、程度に捉えるのがよいでしょう。私の場合、今年の初めから計測を始めて、1〜2ヶ月毎に測定して記録しています。参考に、マトリクス上にグラフを貼り付けたものを貼っておきます。

 

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上がったり下がったりしながら、全体的になんとなく右肩上がりになってます。元々、基礎体力をつけることを大してやってこなかったので、まだ伸び代があるのが主な理由だと思いますが、いずれにしろ、数年単位で続けてみて、また振り返ってみるつもりです。