トレーニング計画を組み立てる際に気をつけること

ライミングがうまく強くなるために、トレーニングしようと計画を立てることは、多くの人がやった事があるでしょう。しかしながら、継続できずに頓挫してしまったり、やり切ったとしても思い通りに成長できなかった、という経験も多いのではないでしょうか。

効果が高く成功しやすいトレーニング計画の立て方について、6つの原則を紹介する動画が先日公開されました。とても納得のいく内容でしたので、今回はそちらの内容を噛み砕いて解説します。

動画の解説は、当ブログでしばしば紹介しているクライミングコーチのSteve Bechtelです。

”なぜ?”から始めよう(START WITH WHY)

これは、辛いトレーニングを継続して効率的に成長するためには、なぜそのトレーニングを行うのかという理由を納得して実施することが大事、ということです。

レーニングは、必ずしも楽しいものではありません。岩やジムでただ登りたいように登っていた方が当然楽しいです。それなのに、単調なワークアウトを繰り返したり、忙しい時間の合間を見つけて早朝トレーニングしたり、嫌になることもあるでしょう。

そのような時に、"なぜ"そのトレーニングを行うのか、しっかりとした理由を納得できていれば、前向きにやり切る事ができます。誰かがやっているトレーニングだからやってみようかな、くらいの理由で始めたトレーニングは、きっと長続きしないでしょう。

全部強化しようとするのはやりすぎ(EVERYTHING IS TOO MUCH)

この原則は、一定期間のトレーニング期間において、強化するポイントは1つか2つに絞ったほうが良い、ということです。

ライミングが強くなるために弱点だと感じていることを挙げてみると、5つも6つも挙げられるかもしれません。保持力、柔軟性、体幹、持久力、などなど。それら全てについて、改善するためのエクササイズをプログラムに詰め込みたくなります。しかし詰め込みすぎると結果的に、各々の要素が殆ど向上しないなんてことになりがちです。

あるトレーニング期間に、例えば持久力を向上しようと決めたら、持久力に対するトレーニングは集中的に量を増やします。そして、その他の要素(保持力や柔軟性など)に対するトレーニングは、現状維持できる程度の量にとどめるようにします。

動画では、わかりやすいように、読書を例えに挙げています。30冊の本を1冊1日1ページ読むのと、1冊の本を1日30ページ読むのとでは、後者のほうが効率的に本の内容を吸収することができるでしょう。

最終地点をイメージしてトレーニング期間をスタートする(BEGIN WITH THE END IN MIND)

これは、トレーニング期間の最後の時点で、どれくらいの能力レベルに達していたいかを目標として設定して、そこから逆算し、最初の時点のトレーニング負荷を決めるということです。

ハングボードで保持力を鍛えることを例に考えてみましょう。15mmのエッジに数秒しかぶら下がれないとして、もっと長くぶら下がれるようになりたいとします。

レーニング期間の初日から15mmのエッジにぶら下がり、限界まで耐えるというやり方でも、徐々にぶら下がれる時間は伸びていくと思います。しかし、徐々に計画的に負荷を増やすのが難しいです。また、常に全力でのトレーニングになるので、怪我のリスクも高まります。

逆算して最初のトレーニング負荷を決めるとはどういうことでしょう。例えば、「Go 100」は良いプログラム例です。15mmのエッジに20秒×5回ぶら下がれるのを1ヶ月後の目標としたとき、プログラムの最初の時点では35mmのエッジに20秒ぶら下がることからスタートします。これはおそらくかなり簡単に感じる強度ですが、そこから始めるのでよいのです。

目標の能力レベルに向かって、数ヶ月のトレーニング期間を通して、無理なく少しづつ負荷を上げていくようにするのがポイントです。

向上した能力は必ず低下する(WHAT GOES UP MUST COME DOWN)

これは、トレーニング期間を経て向上した能力も、トレーニング期間を終えたら必ず一定程度低下することを織り込んで計画を立てよう、ということです。

例えば、冬の間トレーニングして、春は岩場でのクライミングに集中するとします。そうすると、トレーニング直後の向上した能力が10だったとすると、春のクライミングシーズンが終わったときには8くらいに落ちている、というようなイメージです(実際は単純に1つのパラメーターで数値化できるものではないですが)。

逆に言うと、春のクライミングシーズンで必要となる能力が8なのだとしたら、冬のトレーニングで目指す能力レベルが8であっては困る、ということです。トレーニング期間が終わって能力レベルが下がることを織り込んで、冬のトレーニングで目標にする能力レベルは10を目指す必要があります。

より長期的な目線で考えてみましょう。春のクライミングシーズンが終わった段階の能力レベルを、クライミングの能力のベースラインと考えます。そうすると、持続的に能力を向上させていくということは、このベースラインの数値を向上させていくことと捉えることができます。定期的にトレーニング期間を設けても、10→8→10→8→10→8・・・と繰り返しているだけでは、成長しているとは言えません。10→8→11→9→12→10・・・といった感じで、ベースラインの能力が徐々に成長していくことが重要です。

回復は重要(RECOVERY IS A REAL THING)

これはシンプルにそのままのメッセージです。トレーニングにおいて体力が向上するのは、トレーニング直後ではなく、疲労が抜けて回復した時です。そのため、良いトレーニング計画は、疲労をしっかり抜けるように組み立てられている必要があります。

また、年齢が30代以降になったり、よりハードな課題にチャレンジするようになると、回復も遅くなっていくので、疲労を抜くことは更に重要になっていきます。

少しづつでも負荷を上げていく(GO ONE BETTER)

最後は、トレーニングの基本原則である漸進性過負荷の原則です。体は、トレーニングによるストレス(負荷)に適応して成長していきます。そのため、継続して成長していくためには、前回のワークアウトより少し大きなストレスをかけるように計画する必要があります。

これは当たり前に感じますが、実践するのは結構難しいです。漫然とジムに行って、2時間ボルダーの課題にトライして帰るということを繰り返していても、本当に強度や量を徐々に上げていっているのか、なかなか把握できません。トレーニング記録をつけて、前回より1トライ増やすとか、トライ数は変えずに1トライだけ課題のグレードを上げるとか、少しづつでも負荷を上げていく事が重要です。