【書籍紹介】ピーキングのためのテーパリング

ライミングをしていると、最高の調子で臨みたいシーンというのがあると思います。岩場であれば、ベストシーズンじゃないと登れない、自身の限界ギリギリの課題に挑戦するときがそうでしょう。インドアなら、好成績を収めたいコンペなどでしょうか。

狙った時期に、体力面のコンディションをピークにするため、レーニング量を徐々に減らしていくことをテーパリングと言います。テーパリングの必要性自体は、世間一般で、ある程度常識になっていると思います。さすがに野球やサッカーの試合の前日に、激しく練習させるコーチはいませんよね。

一方、ピークを迎えたい時期に対して、「どれくらい前から」「どのくらい」トレーニングを減らしていくのがよいのか、ということについては、よくわからない人も多いのではないでしょうか。本書を読めば、テーパリングでコンディションが良くなる仕組みを、科学的に理解する事ができます。今までテーパリングを「なんとなく」で行なっていた方は、根拠と自信を持って、適切なコンディション調整ができるようになるはずです。

 

 

 

本書の概要

本書はクライミングに特化した書籍ではなく、競技スポーツ全般に共通するテーパリングの考え方が、科学的にわかりやすく解説されています。

本書のページ数は125ページで、それほどボリュームがあるわけではありません。しかし、その全編にわたって、テーパリングのメカニズムや、実際にテーパリングを行う際のガイドラインが、わかりやすく解説されています。まえがきには、以下のように述べられています。

テーパリングのメカニズムさえ理解しておけば、さまざまな状況に対して応用が効きます。目の前の状況を分析したうえで、「今はこういう状態だから、こういう形でテーパリングを実施すれば、重要な試合にコンディションのピークを合わせることができるはずだ」と自分の頭を使って考えることができるようになります。マニュアル化しづらいテーパリングの再現率を高めるためには、そのメカニズムを理解したうえで、応用を働かせることが鍵となるのです。

著者は、ストレングス&コンディショニングコーチの河森直樹さんです。以前の記事で紹介した書籍「競技力向上のためのウェイトトレーニング」の著者でもあります。

本書を手に取ったきっかけ

昨年の秋は、故障箇所が概ね無くなってから初めてのクライミングベストシーズンでした。夏の間はしっかりトレーニングを続けてきましたが、岩場でのクライミングで成果を出したい時期になって、トレーニングはどの程度続ければよいのか、ふと疑問に思ったのがきっかけです。

ライミング関連の書籍でも、テーパリングに言及したものはあります。しかし、日程が決まったコンペに向けたやり方が書いてある事が多いです。また、テーパリングがどのような仕組みで起きるのか、根拠や考え方の説明はあまりされていません。そのため、シーズンの長い岩場でのクライミングには応用が効きませんでした。

岩場でのクライミングは、天候によって意中のラインにトライできるかどうか左右されるので、どこか1日に体力のピークを合わせるようなやり方は現実的ではありません。むしろ、数週間程度の長い期間、ゆるやかに体力が上がっている状態に調整できたほうが都合が良いです。

本書でテーパリングのメカニズムを学べば、どのようにそのようなゆるやかなピークを作ることができるのかについても、理解することが可能です。

本書で理解できること

科学的知見に基づくテーパリングのガイドラインを理解する事ができる

テーパリングは、徐々にトレーニングの負荷を減らしていく事です。しかし、一口にトレーニングの負荷を減らすと言っても、何をどれくらい減らせば、最も効果が期待できるのでしょうか。

本書では、レーニング負荷の減らし方として、大きく以下5点の観点について、科学的なエビデンスをふまえてガイドラインを提示してくれています。

  • レーニングの強度
  • レーニングの量
  • レーニングの頻度
  • テーパリングの期間
  • 負荷の減らし方(一気に減らすか、徐々に減らすか、等)

フィットネスー疲労理論を理解する事ができる

本書で語られているテーパリングのメカニズムを理解する上で、最も重要と考えられるキーワードが「フィットネスー疲労理論」です。

フィットネスー疲労理論は、トレーニングを行ってから、時間が経つに従い、体力的なパフォーマンス(本書ではPreparednessという言葉を使用しています)がどのように変化していくのかを記述する理論です。そして、Preparednessは、「溜まりやすく抜けやすい疲労「上がりにくく下がりにくいフィットネス」の足し算で決まります。

時間に対する変化の仕方が疲労とフィットネスで異なることから、うまくトレーニング量を調整する事で、フィットネスを比較的高く保ちつつ疲労を軽減させて、高いPreparednessを実現する事が可能になります。

簡潔に説明するのが難しいですが、本書の中でも詳細に解説されていますし、著者の河森さんのブログ記事にも詳しいので、一読されることをおすすめします。

kawamorinaoki.jp

 

様々なシチュエーションに対応したテーパリングの実践

フィットネスー疲労理論をベースに考える事で、様々なテーパリングの実践が可能になります。先にに述べたように、比較的長い期間続く、緩やかなピークを迎えるためのテーパリングのやり方などもその一つです。

また、テーパリング開始時点で、想定より疲労が蓄積している状況など、標準的なガイドラインに当てはまらないような場合も考えられます。そのようなシチュエーションに対しても、フィットネスー疲労理論をベースに考える事で、できるだけ理想的なピークを得られるように、テーパリングのやり方を調整する事ができるようになります。

おわりに

昨年の秋は、自己流でテーパリングを行なって、それなりに良い体調でクライミングする事ができました。しかし、「本当にこのやり方で合ってるのかな?」とモヤモヤした気持ちは拭えませんでした。本書を読んだ事で、なんとなくで行っていたテーパリングのメカニズムを理解する事ができ、自信を持って実践する事ができるように感じています。

関東圏でのクライミングシーズンは、梅雨入りまでまだまだ続きます。本書で理解した事を、岩場でのクライミングでのピーキングに適用して、自分に合ったやり方を身につけたいと思います。