【書籍紹介】THE HARD TRUTH

 

The Hard Truth: Simple Ways to Become a Better Climber

The Hard Truth: Simple Ways to Become a Better Climber

  • 作者:Hampton, Kris
  • 発売日: 2020/05/14
  • メディア: ペーパーバック
 

"Hard Truth"とは、「厳しい現実」「受け入れがたい真実」といったような意味です。本書は、なかなかクライミングが上達しない人達に対し、その原因である"Hard Truth"を突き付けます。

本書はクライマーとして上達するためのヒントが詰まった書籍ですが、具体的なトレーニング方法の解説はありません普段のトレーニングに臨む姿勢や考え方にフォーカスし、それらが如何にあなたの上達を妨げているのか実例を交えて紹介する、エッセイ集です。

例えば、「鍛えて出直してくるよ」と言い訳するクライマーには、こんな風に言ってお尻を叩いてくれます。

 

またかよ。お前が6年間毎週ジムで登っていて、同じレベルのクライミングをしていることを知ってるぞ。いい加減にしろ。(中略)永遠に鍛え直し続けている途中で、結局のところ厳しいトレーニングは始めずに、次のレベルへ進化できない人っていうのはいるものだ。

 

以上管理人超訳

 

著者のクリス・ハンプトンは、ワイオミングでPower Company Climbingというクライミングレーニングサービスを提供しています。対面、オンラインなどの有料コーチングプログラムに加えて、兼ねてからブログpodcastを通じて、クライマーとして上達するための方法論を発信してきました。

本書籍はそのブログをまとめ直したもので、ヒップホップ好きの著者らしく、時にはライムをキックするように軽快に、しかし辛辣に、怠惰なクライマーを叱咤してくれます。

目次と概要

管理人の備忘も兼ねて、各章のタイトルと要点を以下にまとめておきます(いくつか噛み砕ききれず割愛した章もあります)。内容のイメージとしては、Mickipediaの上達方法/心構えカテゴリーに記載されているような内容が詰まっている感じです。

If You Aren't Making Progress, You're Probably Making Excuses

身長、リーチ、年齢、得手不得手、時間など、言い訳したくなる事は多々あるが、それらの言い訳が成長を妨げている。弱点の裏には伸び代がある。

Climb Better Faster | The Magic Bullet

より難しいルートを登れるようになりたければ、自分の弱点となっている能力を強いられるような易し目のルートをたくさん登るべき。ただし、弱点はトレーニングと共に変化するので、定期的に自己評価を行って再認識する事。

Training Wheels | How to Climb Harder Than the Other Newbs

自分より経験の浅いクライマーが早く上達していくのを見ても焦らずに、地道に反復練習をして着実に実力をつけていくことが大事。

The Chains That Bind Us

何も登れなかった日にも必ず小さな進展がある。失敗の積み重ねの上にのみ成功が待っている。

Don't sqash the Banana | Commitment

バナナを真っ二つに折ろうとした時に、少しでも躊躇えばバナナは潰れてしまう。クライミングでも、プロジェクトの完登やオンサイトトライを決めきれないのは、一瞬の躊躇いによるコミット力不足による。しかし、それは一朝一夕に改善できるものではなく、普段から言い訳をするクセが原因となっている事が多い。

時間が足りないとか、気が乗る時にまたやるだとか、鍛えてから出直してくるとか、いつまで言い続けるのか。

Even Good Beta Spray is Bad Beta Spray

課題のベータをたくさんくれる人がいるが、もらう側にとって害悪であることもしばしば。もらう人が内省して咀嚼してベータを採用するのでなければ、その人の身にならない。もしベータを提供するならば、内省を促す事ができるように、なぜそのベータが良いと思ったのか思考過程とともに提供すべき。

How Your Friends Are Holding You Back

クライマーのレベルは人それぞれなのに、サークル的に集まって同じメニューをこなしていては、効率的に成長できない

The Top 5 Bad Gym Habits of Sport Climers

スポートクライマーがジムでよくやる悪い癖トップ5

  • ライミングだけを楽しんじゃう(トレーニングのためのクライミングをしていない)
  • 自分の得意な領域(傾斜、ホールドなど)のみで登る
  • 何本登ったかを重視して、質を重視しない
  • 「テンション!」と言う
  • ボルダリングをしない

The Top 5 Bad Gym Habits of Boulderers

ボルダラーがジムでよくやる悪い癖トップ5

  • 長時間厳しくトライし過ぎる
  • 常にプロジェクトをトライしていて殆ど完登していない
  • 持久力を無視している
  • 高強度の課題を殆どトライしない
  • 十分に努力していない

Sandbagged | Are You Kidding Yourself?

グレードが辛いと言うが、そのルートのタイプが苦手で辛く感じるだけなんじゃないか?成長するチャンスと捉えよう。

You Aren't Actually Training

レーニングとワークアウトは似て非なるもの。ワークアウトは一時的な刺激だが、それを意識的に方向性を定めて積み上げていくことで初めてトレーニングとなる。

The False Ceiling | Has Your Skill Set Limited Your Training Gains?

上達が頭打ちになった場合、それが真の限界値であるなんてことは殆ど無い。弱い所に目を瞑り、強いところだけをトレーニングしている結果、弱い所にひきづられて上達しなくなっているだけ。

The #1 Reason Why Your Training Dosen't work

岩場でのクライミングの経験は、インドアジムでは得られない。岩場での経験が浅く、それでも岩場でのクライミングに強くなりたいのであれば、多少コンディションが悪くても岩場でのクライミング経験を積むべき(岩場経験豊富ならジムに行くのもいいけど)。

Intimidated?

強いクライマーに囲まれて、かっこ悪いところを見せたくないとトライを躊躇したとしても、決して臆せず、自らを奮い立たせてトライするべき。トライしなければ登れるものも登れない。

Keeping Perspective for the Weekend Warrior

フルタイムクライマーは週末クライマーに比べてあっという間にプロジェクトを登ってしまうように見える。しかし、トライ数では週末クライマーと大して変わらず、短い期間で大量のトライをしている結果。

3 Reasons Why Soft Grades Matter

例えば同じ5.12bであっても、易しめの課題は存在する。それらが存在する理由もちゃんとあるし、より厳格にグレードを細分化する意味はない。

  1. 成長していく過程で、易しいものから徐々にマスターしていく方が効率がよい
  2. 易しくても素晴らしいクオリティのルートがある
  3. グレードを細分化し始めたらきりがない

Success Or Mastery

スケートボーダーは一つのトリックを一度成功したからもうやらないなんてことはない。クライマーも、登れた課題をサーキット化して何度もトライしてマスターしよう。かつてのプロジェクトもいつかはウォームアップになる。

The Send is a Necessary Piece of the Process

過程のみが問題で結果はどうでもいい、とうそぶくのは逃げでしかない。完登できたかできないかを、そこまでの過程に改善点を見出すための試金石と捉え、長く完登の成果がないのであれば、ゴール設定か過程のどちらかに問題があると捉えなければならない。

No Kings, No Way

他人と比較して落胆する必要はない。自分のプロジェクトルートが誰かのウォームアップだったとしても、その誰かにとってもプロジェクトだったことがあった。同じく自分のウォームアップルートは誰かのプロジェクトかもしれない。

Selective Learning | The Short-Sighted Approach

レーニング本を読むと、つい親しみがあるメニューに目がいってしまいがち。ずっと似たようなトレーニングメニューを続けて停滞しているのであれば、一度トレーニング本を読み返してみて、見逃していたトレーニングが無いか探してみては。

Climb Better Faster | The Often-Missing Piece

時には、自分の実力を大きく越えたグレードにトライする事も必要。そのグレードを経験し、そのグレードに到達するために自分に必要なものを想像して戦略を立て、一つ一つの段階をマスターしていく。

 

余談

本書は洋書のペーパーパックですが、Amazonが日本で印刷しているようで、注文した翌日に届きました。Amazon POD(プリント・オン・デマンド)というサービスで、2011年から運用しているようです。知らなかった。在庫も減るし、輸送コストも減るし、よさそうですね。

 

Amazon.co.jpもプリント・オン・デマンド開始、洋書60万冊以上から - ねとらぼ

ピンチトレーニングの注意点

ピンチグリップのトレーニングは、以前ピンチブロックに重りをぶら下げて保持する方法を紹介しましたが、もちろんクライミングウォールやハングボードにピンチホールドを取りつけて自身がぶら下がる方法も可能です。 

例えば上のInstagram画像のように、緩傾斜に取り付けられたピンチホールドをキャンパシングしたり、上部のピンチホールドにぶら下がるなどのやり方です。

これは、より実際のクライミングに近い動作ではありますが、人間工学の観点から考えると必ずしも体によい動きとは言えず注意が必要となります。今回は、スペインのクライマー、研究者、コーチであるEva Lópezによりまとめられた、ピンチグリップのトレーニング方法に関するブログ記事から要点をまとめて紹介します。詳細を確認したい方は以下の原典を見ていただくのがよいでしょう。

en-eva-lopez.blogspot.com

人間工学的に自然なピンチグリップぶら下がり姿勢

ピンチグリップで保持してぶら下がる場合、人間工学的に自然な姿勢は以下のようになります。

  • 手首は15度~30度背屈、尺屈も撓屈もしない
  • 腕は体の真正面に出す

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これを実現しようとすると、世界で話題の野村真一郎さんのインスタ動画のように、ルーフに取り付けたピンチグリップでフロントレバーをするような姿勢になります。

しかしこれは残念ながら一般人にとって実現可能性が極めて薄いので、以下の2点のようなやり方が次点として推奨されるのです。

  • ルーフに取り付けたピンチグリップにぶら下がる(腕を体の前に出すのをあきらめて、フロントレバーはしない)
  • ピンチブロックに重りをぶら下げて保持する

どちらも腕を体の前に出すことは割り切っていますが、手首の背屈、尺屈、撓屈については人間工学のセオリーに従っています。

続いて、人間工学的には不自然となるパターンを確認していきましょう

人間工学的に不自然なピンチグリップぶら下がり姿勢

垂壁~緩傾斜壁に、垂直方向に取り付けられたピンチにぶら下がる

この方式では、手首が尺屈した状態で親指の筋肉を酷使します。この場合、ドケルバン病などの症状に陥るリスクが高くなります。ドケルバン病は、手首の親指側に存在する腱鞘の炎症です。

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垂直方向のピンチとドケルバン病の炎症位置

 

垂壁~緩傾斜壁に、斜め方向に取り付けられたピンチにぶら下がる

この方式では、垂直方法に取り付けられたピンチにぶら下がる場合に比べ、手首の尺屈度合いは少なくなりますが、手首や小指にかかる負荷は理想的とは言えません

またトレーニングの観点では、純粋に親指のピンチ力を鍛える目的にはそぐわない面が出てきます。小指側のフリクションに支えられる荷重であったり、左右のホールドを中心方向に向けて抑え込むコンプレッションによって支えられる荷重が大きくなるためです。

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斜め方向のピンチ

実際のクライミングは人間工学的に自然な姿勢ばかりではない

垂壁~緩傾斜壁に取り付けられたピンチホールドを保持してぶら下がるのは、人間工学的には不自然であることを確認してきました。しかし、ここで注意が必要な点は、これらの動作はライミングとしては普通にあり得る動作であるということです。どうしても登りたいルートでそのような動きが必要であれば、多少体に負荷がかかってもその動作を選択せざるを得ないこともあるでしょう。

ポイントとしては、クライミングのベース能力としてピンチの保持力をレーニングを行う際には、可能であれば体に優しい(人間工学的に自然な)姿勢を選択する方が、怪我をするリスクを低減することができるということです。人間工学的に不自然な姿勢でのトレーニングは、ターゲットとしている課題・ルートでどうしても必要な場合、一時的に採用する程度に留めるのがよいのではないでしょうか。

まとめ

  • ピンチグリップを行う際には手首を15~30度背屈し、尺屈・撓屈しない姿勢が人間工学的に自然
  • レーニングを行う際には、人間工学的に自然な姿勢を選択することで怪我のリスクを低減することができる

ピンチグリップでは手首を故障をすることが多く注意が必要ですので、できる限り故障のリスクを低減できるよう、今回の記事が参考となれば嬉しいです。

おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。お断りしておきますが、筆者はクライミング関連業務に従事しているわけではなく、医療関係者でもありませんので、記載内容を実際に適用される際には一次ソースを確認の上、自己責任でお願いします。

炎のメリーゴーランドのスタイルの話

先日発売されたRock&Snow No.88は、先日に事故で亡くなった杉野保さんを追悼し、杉野さんと親交のあった多くのクライマーが追悼の辞を送っています。改めてその偉大な足跡と失ったものの大きさを再認識するとともに、氏のスタイルに対する拘り、特にオンサイトに対するそれが強く伝わってきました。

この特集を読みながら思い出したのは、杉野さんが初登した「炎のメリーゴーランド」にまつわるスタイルです。このルートは2015年に管理人も登り、当時は会心の登攀と感じたものの、その後何かにつけ思い出すにつれ、初登時のスタイルの素晴らしさと比べると節操のないクライミングだったなと、内心忸怩たるものがあったところです。いい機会なので、自らの戒めの意味もこめて記しておきます。

 「炎のメリーゴーランド」とは

炎のメリーゴーランドは、2006.1に初登された、城ケ崎アストロドームのトラッドルートです。グレードは5.13/c。正確には下部パートの「メリーゴーランド」は故吉田和正さんがピンクポイントで初登しており、「炎のメリーゴーランド」は「メリーゴーランド」の終了点から10メートルを延長したルートです。下部の「メリーゴーランド」は終了点以外はナチュラルプロテクションですが、オリジナルの10メートルはボルトが2本設置されており、ナチュラルプロテクションとボルトのミックスルートとなります。

「炎のメリーゴーランド」の初登スタイル

 炎のメリーゴーラウンドの初登スタイルは、CLIFFのページに以下の記載があります。

プリプロはせず、「自力でカムセット、落ちたらそこまで残置」スタイルで登った。(中略)

(13b/cというグレードは自力セットを前提にしたものです)

プロテクションは、メリゴ部分、緑エイリアンから青キャメまで、オリジナルに入ってボルト2本と黄キャメ。(中略)
(ボルト設置など入れて2日間4回目)

「自力でカムセット、落ちたらそこまで残置」というのは少しわかりづらいですが、同じページで城ケ崎もずがねエリアの「秘奥義」を初登記録に以下の記載があります。

スタイル的には、すべてのカムをセットしながら登り、途中で落ちた場合はそこまでのギアを残すやり方(昔でいうロワーダウン+引き抜き方式)で登った。
(試登を入れて3日間8回目)

炎のメリーゴーランドもおそらく同等のスタイルで登っていると推測されます。ここから読み取れることは、明示的に記載はないものの、ロープにぶら下がってのムーブ練習は一切行っていないということです。ボルトは上部の立ち木等から懸垂下降して設置していますが、その際もホールドのチェック等はしたかもしれませんが、ムーブ練習はしていないでしょう。

ルートクライミングにおけるスタイル

「レッドポイントとは、いわば仮想のフリーソロだ」

「オンサイトも、結局はそういうことだ」

今回の追悼記事において、クライミングインストラクターの菊池敏之(ガメラ)さんは、上記を杉野さんの言葉として紹介しています。これはルートクライミングにおけるスタイルの考え方を端的に表すものです。

安全確保のための支点・ロープを使用しないフリーソロを最も純粋なクライミングと捉えると、ロープにぶら下がるという行為は仮想的な死と言えます。軽薄な例えですが、ゲームで言うところのゲームオーバーです。

オンサイトは、安全確保のためにロープを付けて登るものの、そのルートにトライしている間、1度もロープにぶら下がる事なく登りきるので、ゲームオーバー0回でクリアとなります。精神的な負担は異なるものの、フリーソロと同じように(仮想的にも)死なずに登り切っているので、フリーソロに最も近い価値あるスタイルと言われるのです。

一度でもロープにぶら下がっての完登は、ざっくりまとめればレッドポイントとなりますが、その中でもロープにぶら下がってのムーブ練習をするかしないかで分かれます。フリーソロであれば落ちたら下まで落ちるので、落ちたところのムーブ練習なんてことはできません。そこに目を瞑って、ロープにぶら下がった状態でムーブを練習するのを是とするのがハングドッグであり、ある意味チーティング(ずる)をしているのです。ゲームに例えれば、最初からやり直さずにゲームオーバーになった地点から始められる"コンティニュー"でしょうか。

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ルートクライミングスタイルとゲームとの比較

「炎のメリーゴーランド」の初登スタイルは、ボルト設置のためにロープにぶら下がってはいるもののハングドッグをしていないと考えられます。現代クライミングで市民権を得ているチーティングを敢えて排除し、登るたびに未知のパートを手探りで進んでいく余地を残した、スタイルに拘った登攀であったと言えるのです。

 管理人が再登した際のスタイル

翻って、管理人が登った際のスタイルは以下のようなものでした。

  • メリーゴーランドのトライ数も含めれば、50回以上は確実にトライ
  • ハングドッグしてのムーブ練習はしまくり
  • 時には「メリーゴーランド」の終了点にFIXロープを張り、そこまでユマーリングで上がってから上部だけパート練習を実施
  • 最終的には上部2本のボルトは使用せず、ナチュラルプロテクションのみで登った

この中で、4点目だけは、「あるがままの岩を登る」という意味では少しは良いスタイルと言えるかもしれませんが、その他3点は、初登時のスタイルから読み取れる杉野さんの思想を完全にスポイルし、台無しにする所業といったところです。

もちろん、現代のクライミングにおいてハングドッグを使用してのレッドポイントは市民権を得ている一般的な戦略です。自身の限界グレードを一段階上げる際には特に欠かせない手法であることは間違いないです。しかし、それは同じようにハングドッグでのワークトを経て初登されたスポートルートでやってもいいし、ジムのルートでやってもいいことだったわけです。それを、クライミングの根源的と言ってもいい思想を尊重して開かれたこのルートで行うべきではなかったのではないかと、時々苦い思いが浮かぶのです。

 

以上

 

参考

ルートクライミングのスタイルについては、ガメラさんのページに、私的なランキングが記載されており、引用させていただきます。(ムーブ練習しまくりのレッドポイントは下の下。)

1.オンサイト・フリーソロ
2.オンサイト
3.落ちたらすぐロワーダウンして、ロープを引き抜き、レッドポイント
  (落ちた回数=ロワーダウン回数とフリー度を反比例)
4.落ちたらすぐロワーダウン、しかしロープは引き抜かず、シージングで完登
  (上に同じ)
5.初見ワンテンション、またはツーテンション、で、終わり
6.とりあえず数テンションと呼べる範囲内で抜けた上でのレッドポイント
  (落ちた回数とフリー度を反比例。ただしレッドポイントまでの回数は関係なし)
7.トップロープで以下同上
8.アケママ
9.アケママ
10.1回につき10指を超える回数のテンション(トップロープ含む)後のレッドポイント
  (レッドポイントまでの回数はまったく関係なし)

 

菊地敏之CS&G 著作紹介topo

 

余談

今回からRock&SnowはKindle版での購入が可能になりました。毎号購入しており、家での置き場所に困っていたので、とても助かります。今後はKindle版を購入していくつもりです。

ただ今回は杉野さんの追悼号でもあることから、紙版を購入しました。同じく追悼号であるRock Climbing誌と本棚に並べて、個人を悼むこととします。

 

ROCK & SNOW 088

ROCK & SNOW 088

  • 発売日: 2020/06/08
  • メディア: Kindle
 

 

 

 

スタティックストレッチの利点(trainingbeta podcastからの紹介)

本ブログで何回か紹介しているTrainingbetaのPodcastで新しいエピソードが公開されていました。今回のテーマはストレッチです。

 

 

www.trainingbeta.com

 

ストレッチについては、クライミング前後のウォームアップ、クールダウンであったり、クライミングに必要な可動域を向上させるための日常的ストレッチなど、講習や入門書で必ずといっていい程指導される項目です。

一方、「運動前にスタティックストレッチは行わない方がよいのか」など、人や媒体によって意見の一致しないトピックが多く、悩ましい事もあります。

TrainingbetaのPodcastでは、最新の生理学的見解をふまえて、クライマーがストレッチを行うタイミングや種目の考え方を紹介しています。今回はその中から、スタティックストレッチの利点に着目した以下2点を紹介します。

  • 運動前のストレッチは、体の部位ごとにスタティックストレッチが望ましい部位とダイナミックストレッチが望ましい部位がある(部位は運動の特性によって異なる)
  • 腱組織の柔軟性を保ち怪我を防ぐために、負荷をかけるスタティックストレッチが有効

ストレッチの種類

初めにスタティックストレッチ(静的ストレッチ)とダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)の定義を確認しておきます

スタティックストレッチ(静的ストレッチ)

筋肉をゆっくりと伸ばし、やわらかくして可動域(動く範囲)を広げる。

 

ストレッチ - Wikipedia

Wikipediaに記載の通り、反動や弾みをつけずにゆっくりと筋肉を伸ばしていき、伸び切ったところで15秒~60秒程度静止するストレッチになります。床に座って足を前に出し上半身を前にゆっくり倒していく、太もも裏のストレッチがイメージしやすいと思います。

ダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)

静的ストレッチ(スタティックストレッチ)に対して動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)がある。動的なストレッチの例としては、ゆっくりと制御された脚のスイング、腕のスイング、または胴体のねじれがある[4]。これはやさしく稼働範囲内で行う

 

ストレッチ - Wikipedia

少し定義としては曖昧ですが、スタティックストレッチがゆっくりと伸ばすのに対し、ダイナミックストレッチは関節の可動域フルレンジまで動かし、そこで長時間停止せずに動きを繰り返すストレッチです。ラジオ体操もダイナミックストレッチに含まれます。

スタティックストレッチの生理学

運動前にスタティックストレッチを行うと、筋出力が落ちるので行わない方がよいと言われることがあります。これを理解するために、ストレッチを行った際に起きる生理学的な作用について触れておきます。

伸張反射と筋紡錘

「伸張反射」とは、ある筋肉を急激に引き延ばした時に筋肉が損傷するのを防ぐために、その筋を収縮させる(縮める)ように体が指令を出す反応です。筋内に存在している「筋紡錘」という器官が、急激な筋肉の伸張を感知して脊髄へ伝達し、脊髄から筋肉を収縮させるように指示が出ます。

スタティックストレッチを行う際は、反動をつけて筋肉を伸ばさないようにします。反動をつけると、急激に筋肉が伸びたと筋紡錘が感知して伸張反射が起こり、伸ばしたい筋肉が逆に収縮してしまうからです。これは筋肉を緩めることを目的とすると逆効果になりますが、運動前に筋肉の出力を高めることを目的とするならば嬉しい効果です。

収縮の抑制とゴルジ腱器官

スタティックストレッチを行う際には、筋紡錘は活動しませんが、別の器官が活動します。それが「ゴルジ腱器官」と呼ばれるものです。ゴルジ腱器官は、筋肉と腱の間のあたりに存在し、筋紡錘と同じように筋肉が伸びたことを感知しますが、持続的に筋肉が伸びているのを感知します。

伸張を感知した後の作用ですが、ゴルジ腱器官の作用は筋紡錘の作用と逆になります。伸張反射では筋紡錘が筋肉を収縮させるように作用しましたが、ゴルジ腱器官は逆に筋肉の収縮を抑制させるように作用します。これは、筋肉の収縮した状態が続いて筋腱全体が緊張した状態で持続的に伸ばす方向の力がかかると、筋腱組織が損傷する可能性があるからで、伸びる力に逆らわずに筋肉と腱を緩めるように作用します。

運動前のスタティックストレッチで筋出力が落ちる理由

運動前にスタティックストレッチを行うと、以下のような作用が起きます

  1. 筋肉の収縮が抑制される
  2. 腱組織が柔軟性を持つ

筋肉の収縮で発生したエネルギーが腱を通じて骨格に伝達し、その結果として骨格が動くというのが運動の原理です。スタティックストレッチを行うと、1により筋肉の収縮で発生するエネルギーが低下するのに加え、2により伝達するエネルギーが柔軟化した腱組織により効率的に伝えられず、総体として筋出力が低下することになります。

余談として、クライミングのトライの合間に、硬くなった前腕をスタティックストレッチすることがよくありますが、指の保持力を発揮する指屈筋の筋出力を低下させることになるので、行わない方がよいでしょう。

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ライミングトライ間の前腕スタティックストレッチは望ましくない

運動前のスタティックストレッチ

ここまで述べてきた内容だけだと、「運動前のスタティックストレッチは筋出力を低下させるので行わない方がよい」という結論になりそうですが、そうではありません。行う運動の特性を考慮して、爆発的な筋出力が必要な部位と柔軟性が必要な部位を見極めれば、柔軟性が必要な部位に対してはスタティックストレッチは効果的です。

ライミングにおける下半身の運動を考えてみます。下の写真は左手のデッドポイントでホールドを取っていますが、左足の股関節は大きく曲がった状態からスタートし、ホールドに手を伸ばすと同時に股関節が伸びていくのがわかります。

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左手のデッドポイント

この際に股関節の周辺で爆発的に収縮しているのは、主に体の後ろ側の筋肉群で、大殿筋や太もも裏のハムストリングスになります。これらの筋肉に対してスタティックストレッチを行うのは、筋出力が落ちるので好ましくありません。

しかし、逆となる体の表側の筋肉群はどうでしょうか。具体的には太ももの表側の大腿四頭筋腸腰筋です。ライミングの動作において爆発的に股関節を屈曲させる動きは殆どなく、筋出力の低下が運動に与える影響を心配する必要はありません。またこれらの筋肉はデッドポイントで爆発的に収縮する筋肉の反対側の筋肉群になるので、柔軟性が高いほど収縮する側の筋肉が収縮しやすくなります。そのため、クライミングにおいては大腿四頭筋腸腰筋は運動前にスタティックストレッチを行うのは望ましいと言えるのです。

まとめると、ライミング前のストレッチは、クライミングで爆発的な筋出力が必要な部位はダイナミックストレッチ、爆発的な筋出力が不要で可動域が優先される部位はスタティックストレッチを行うのがよい、ということです。

指屈筋腱のストレッチ(クールダウン)

少し視点を変えて、クールダウンにおけるストレッチについて考えてみます。クールダウンにおいては、その後にスポーツパフォーマンスを行うわけではないので、スタティックストレッチで筋出力が低下しても問題ありません。そして、筋肉だけではなく腱組織についても柔軟性を保つようにすることで、怪我や故障を未然に防ぐことにつながります。

ここで腱組織の柔軟性を向上させるためのポイントが1つあります。単に筋肉を伸ばすのではなく、筋肉を収縮させ(=力を入れ)ながら筋肉を伸ばす方向に加重する事で、より効果的に腱組織がストレッチされます。

これを具体的に端的に言えば、フィンガーボードにぶら下がるという事です。かなり直観に反する事ですが、限界レベルのボルダリングを行って指がギシギシいってきる状態の後には、クールダウンとして数10秒×数セットのフィンガーボードぶら下がりをオープンハンドで行う事で解消できる事になります。

先日、実際に限界までボルダリングを行った後に、上に上げたクールダウンを行ったところ、翌朝に指がギシギシ強張っておらず、快適な状態でしたので、今後も継続してみるつもりです。

まとめ

  • ライミングで爆発的な筋出力が求められる部位は、クライミング前のストレッチはダイナミックストレッチが望ましい
  • ライミングで爆発的な筋出力が求められず、寧ろ柔軟性が必要な部位は、クライミング前のストレッチはスタティックストレッチが望ましい
  • ライミング後のクールダウンにおいて、指屈筋腱のストレッチのため、数十秒×数セットのオープンハンドぶら下がりを行うのが望ましい

専門用語が多く、かみ砕いた説明ができませんでしたが、ストレッチを行う際には以上3点を考慮することで、よりトレーニング効果を高めつつ怪我を防げると思いますので、参考にしてください。

終わりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。お断りしておきますが、筆者はクライミング関連業務に従事しているわけではなく、医療関係者でもありませんので、記載内容を実際に適用される際には一次ソースを確認の上、自己責任でお願いします。

参考

その他のPodcast内トピック

本編で取り上げたトピック以外にも、Podcast内では以下のようなコンテンツを扱っています。興味があれば聞いてみてください。

  • ストレッチの生理学的理解
  • なぜストレッチをするのか
  • スタティックストレッチとダイナミックストレッチ
  • 各種ストレッチをどんなタイミングで使いわければよいか
  • 腱のストレッチと筋肉のストレッチ
  • ライミングセッション中にストレッチをしない方がいい理由
  • ユースクライマーにおけるストレッチとストレングス トレーニン

英単語

生理学的な英単語が頻出するので、Podcast内で出てくるものを幾つか挙げておきます。

 

"stretch shortening cycle(SSC)" 「伸張ー短縮サイクル」

"inhibited"「抑制される」Podcast内では収縮を抑制するといった文脈で使用

"golgi tendon organ" 「ゴルジ腱器官」

"muscle spindle"「筋紡錘」

"reflex"「反射」

”hip flexors"「股関節屈筋群」

”hip extensors"「股関節伸筋群」

"hamstrings"「ハムストリングス」太腿後面の筋肉群

"quadriceps"「大腿四頭筋

ストレングスだけではなくパワーも鍛える

ライミングのトレーニングについて書籍やオンライン記事を読んでいてよく出てくるのが「パワー」と「ストレングス」という言葉です。

以前の記事(クライミングの特殊性を考慮した懸垂のバリエーション - May the friction be with you!)でも少し触れたのですが、同じような文脈で使ってしまいがちなこの2つの言葉は、明確に違う意味を持っており、それに伴って「パワー」の鍛え方と「ストレングス」の鍛え方も違います。

ステイホーム期間中に流行ったフィンガーボードや懸垂は「ストレングス 」の強化に偏りがちですが、仕上げに「パワー」も鍛える事でより効果を高める事ができます。

ストレングスとは

ストレングス(Strength)の意味は英和辞典を見ると、「強さ」や「力」といった意味があり、クライミングを含めた運動全般の文脈では後者の「力」の意味で使われます。実際に運動を駆動するのは筋肉なので、「筋力」と言ってもいいでしょう。

筋力=ストレングス を測る単位はkgになります。ストレングスを測る単位はkgになります。筋力トレーニングでは、1回ぎりぎり動かすことができる重量を1RM(1 Repetition Maximum)と言い、最大筋力の指標になります。例えば自分の体重が60㎏として、30kgの重りを加えて懸垂をぎりぎり一回できるのならば、懸垂の1RMは90kgです。

筋力を高めるためには2つのアプローチがあります。中強度中回数の負荷で筋線維の断面積を太くする「筋肥大」と、高強度低回数の負荷で神経系の活動を活発化する「筋動員の向上」です。懸垂を20回×3セット行えば筋肥大に効き、3回程度で限界となるように重りを背負って行えば筋動員向上に効いてきます。

パワーとは

パワーは一般的に、以下のように表現されます。

 

パワー=ストレングス×スピード

 

スピードという要素が入ってくるのがポイントです。単位としては、kg・m/sとなります。

 

ここで、運動とスピードの関係について考えてみます。先ほど挙げた懸垂を1RMの負荷で実施する時を考えてみると、非常にゆっくりな動きになります。

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力ー速度曲線(ちからそくどきょくせん)

上の図の力ー速度曲線で考えてみると、1RMの懸垂はストレングス がFmaxになり、スピードは殆ど出ていません。しかし実際のクライミング動作を考えてみると1RMの懸垂のようなゆっくりな動きだけではありません。デッドポイントやランジのようなダイナミックムーブは、高スピードで動く勢いによって、低スピードでは届かないホールドをキャッチしますので、スピードが重要になります。このような動作では、図のF1とV1のように、ストレングスは小さくスピードは大きくなります。そしてF1とV1を掛け合わせたものがパワー(P1)となるのです。

パワートレーニン

パワー=ストレングス ×スピードなのであればストレングスを鍛えればパワーも強くなるのではと思います。一面ではその通りなのですが、単純にそれだけでパワーが最適にトレーニングできるとは言えないのです。

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力ー速度曲線のシフト(ストレングストレーニングのみ)



再び力ー速度曲線で考えると、ストレングストレーニングによりFmaxが大きくなると、グラフが少し右にシフトします。これを見ると、同じ力F1で実現できるスピードV1'は確かに大きくなっています。しかし、ランジで距離を出すためにもっとスピードを出したいというような時には、できればグラフは以下のようになって欲しいのではないでしょうか。

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力ー速度曲線のシフト(パワートレーニングも実施)



実は、目的としている運動に沿ったスピードを意識してトレーニングすることで、上のグラフのようにスピードを向上させる事ができます。スピードを意識したトレーニングでは、筋収縮で発生したエネルギーを運動に効率的に変換するために必要となる、腱・靭帯などの軟部組織の適応や体幹の適応が起こります。ストレングストレーニングでFmaxを向上させた後に、スピードを意識したパワートレーニングが必要であるのはこのためです。

スピード・ストレングス 

パワーの単位はkg・m/sという話をしましたが、mは運動によって動く距離になります。懸垂では、肩の位置が50センチくらい上がるので、その距離が該当しますが、フィンガーボードではどうでしょうか。ぶら下がっている間、指の形は動いていないので、距離はゼロになり、パワーもゼロになります。フィンガーボードのようなアイソメトリック運動は、パワーではうまく表現できないのです。

しかし、クライミングのデッドポイントでは、ダイナミックに細かいホールドを保持するために、瞬間的(数十〜数百m秒)に力を発揮する必要があり、やはりスピードは重要な要素になります。このような場合、視点を少しミクロに変えて、筋線維の収縮するスピードに着目します。見た目の運動距離はゼロでも、筋線維が爆発的に収縮する事で瞬間的に力が発生します。このような概念をスピード・ストレングス といいます。

ライミングの用語ではコンタクト・ストレングス (接触筋力)がそれにあたります。パワーという言葉はついてませんが、パワートレーニングと同様にスピードを意識したトレーニングで鍛える事ができます。

ライミングにおけるパワートレーニングの例

フィンガーボードで単純にデッドハングを行ったり、スピードを意識しないで高重量の懸垂などを行っていると、ストレングスのみにトレーニング負荷が偏り、実際のクライミングで必要となるパワー要素のトレーニングが不足します。パワー要素のトレーニングに有効なプロトコルの例を紹介します。

リミットボルダリング

1つ目は実際のクライミングです。特にパワー要素に注力した限界レベルのボルダリングを行います。この際に、純粋なパワーを鍛えるため、1,2手の極めて厳しいダイナミックムーブを含む短い課題にトライするようにします。限界のボルダーと言っても、6~7手の少し厳しいムーブが続くことで落とされる課題もありますが、そのようなものは純粋なパワーのトレーニングには適しません。

Speed Pulls

フィンガーボードでコンタクトストレングスを強化するトレーニングです。以下の動画を見るとわかりますが、かなり地味なトレーニングになります。
 


Speed pull 2-arm

フィンガーボードにぶら下がる際に、じわっと力を込めるのではなく、瞬間的に力を入れてぶら下がります。ぶら下がる時間は1~3秒と短く、10秒程度のレストを挟んで6~8回程度ぶら下がります。

キャンパシング

パワートレーニングの王道です。キャンパシングは、Speed Pullsのようにコンタクトストレングス を鍛える側面と、懸垂のような引き付け力のパワーを鍛える側面と両方あります。そのため、コンタクトストレングスを主に鍛えたいのか、引き付け力を主に鍛えたいのかにより、ラングサイズも変わってきます。1段上がるのがやっとのラングサイズでキャンパシングすると、コンタクトストレングスの強化にはなっても引き付けパワーの強化にはならないということです。

まとめ

  • ストレングストレーニングは筋力を増強するが運動スピード向上の効果は限定的
  • ライミングの動作に必要となるスピード要素を含んだパワートレーニングを行うことで運動スピードの向上に寄与する
  • 保持力についてもパワートレーニングと同様に筋力発揮スピードを強化するスピード・ストレングストレーニングを行うことが効果的

具体的なトレーニング方法はオーソドックスなものが多いですが、理論の整理としてまとめてみました。ルートクライミングを好む人などは、ステイホーム期間があけたらすぐに持久力トレーニングを行う人なども多いと思いますが、パワーを意識したトレーニング期間を設けることで更なる効果を得らえることもありますので参考にしてください。

参考文献

ライミングにおけるパワートレーニング例の紹介(Andersen Brothersのページ)。

www.google.com

 

Speed Pullsのプロトコル解説(Tyler Nelsonによる記事)。ビギナーとエキスパートに分けて、セット数、レップ数の推奨値も記載。

www.trainingbeta.com

 

スピード・ストレングスについての解説

sandcplanning.com

【ジャミングテクニック】リングロックの2つのやり方

書籍「CRACK CLIMBING」内のアンケート集計 - May the friction be with you!

で紹介した、Pete Whittakerの著書「Crack Climbing」を細々と読み進めています。本当に使う機会があるのかわからないマニアックなテクニックも紹介されてますが、基本的なジャミングテクニックについても今まで意識していなかった細かなコツが紹介されていて参考になります。

 

Crack Climbing: The Definitive Guide (Mountaineers Outdoor Expert)

Crack Climbing: The Definitive Guide (Mountaineers Outdoor Expert)

  • 作者:Whittaker, Pete
  • 発売日: 2020/01/01
  • メディア: ペーパーバック
 

 

今回はその中から、リングロックについて個人的に新たな知見があったので、自身の備忘も兼ねてまとめます。

 

リングロックとは

クラッククライミングは割れ目の幅のサイズに沿って、フィンガー、シンハンド、ハンドというように異なったジャミングテクニックを用います。リングロックは、フィンガーとシンハンドの間くらいのサイズで有効なテクニックなので、指の太さにもよりますが、キャメロットの紫くらいの割れ目で出番があるテクニックです。

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(左下から)エイリアン赤、キャメロット紫0.5、キャメロット緑0.75

通常のフィンガージャムは人差し指・中指・薬指をクラックに差し込んでから、ひねることでスタックさせますが、割れ目の幅が広くなると緩くてスタックしなくなるので、下から親指も差し込んでジャミングのサイズを広げることでスタックさせます。

 

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リングロックの原理

このサイズの広げ方について、今まで管理人が認識していた方法と、「Crack Climbing」で紹介されていた方法を2つ紹介します。

スライド式のリングロック

管理人が今まで認識していたリングロックのやり方は以下の通りです。

  1. 親指の腹をクラックの淵にあてがう
  2. できたV字の隙間に人差し指、中指、薬指を落とし込む
  3. 通常のフィンガージャムと同様に、小指方向へ手をひねってスタックさせる

 

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スライド式のリングロック

3の際に、親指は上方向へ、その他の指は下方向へ互い違いに滑らせるようにしてスタックを強く効かせるので、便宜的にスライド式のリングロックと呼ぶことにします。この時親指の第一関節はクラックの淵に当たらず浮いています。

今まで管理人が見てきた参考書やweb上の動画はこのやり方が多かったと思います。山渓登山技術全書のフリークライミングがそうですし、Peteと一緒にWIDE BOYZとして活動しているTom Randallも、ワイルドカントリー社のクラック講習動画でそのように解説しています。


Wild Country Crack School - Episode 7 - Advanced Fingers - with the Wide Boyz

エクスパンション式のリングロック

一方、「Crack Climbing」では以下のやり方を紹介しています。

  1. 親指の腹をクラックの淵にあてがう
  2. 親指の関節をクラックの逆の淵にあてがい、突っ張り棒のようにエクスパンションさせる(広げる)
  3. 親指の上に人差し指・中指・薬指を落とし込む
  4. 通常のフィンガージャムと同じ様に、小指方向へ手をひねってスタックさせる

 

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エクスパンション式のリングロック

この方式では、クラック内で親指が突っ張り棒のような支点となり、その上にフィンガージャムを決めるようになります。便宜的にエクスパンション式のリングロックと呼ぶことにします。

Twitterでジェリーさんがコツを解説してくれています。

親指を奥に入れ過ぎると、親指の第一関節を曲げる力が抜けてエクスパンションが効かなくなるので、浅目に決める方がよさそうです。

2方式の比較

支持力

自作のプチクラックボードに重りをぶら下げて、支持力を評価してみました。

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7秒保持できる限界の重さは、スライド式が15kg、エクスパンション式が17.5kgで、エクスパンション式の方が若干支持力があるという結果になりました。足ブラでは到底ぶら下がれませんが、しっかり足を踏んで荷重を分散できれば、若干傾斜があっても前進することができそうです。

参考までに、管理人の9.5cm幅ワイドピンチの保持力は16kgなので、ワイドピンチと同程度の支持力となります。

決めやすさ

エクスパンション式の方が、親指を突っ張る一手間が増えるので、ジャミングの決めやすさはスライド式に軍配が上がります。スピード重視でパッパッと手を出していくときはスライド式、確実にスタックさせて動きたいときはエクスパンション式なんていう使い分けもできそうです。

呼称(リングロックかサムスタックか)

スライド式とエクスパンション式のリングロックの違いは、クラッククライミングの本場アメリカでも話題になっていました。

www.mountainproject.com

リンクしたMountainProjectのフォーラムでは、親指の第一関節を曲げるエクスパンション式をリングロック、第一関節を曲げないスライド式をサムスタックと呼んで区別する意見が多かったですが、しっかりしたコンセンサスは無さそうでした。

まとめ

  • リングロックにはスライド式とエクスパンション式の2方式がある
  • 正しく決めることで、エクスパンション式もスライド式と同等かそれ以上の支持力を得られる
  • ジャミングを決めるスピードはスライド式の方が若干早区決めることが可能

呼称と定義は若干まちまちですが、スライド式とエクスパンション式という2つのリングロックがあることと、それぞれメリットデメリットがある事を知っておけば、意識して練習することができます。クラッククライミングを行う人は参考にしてみてください。

【アンケート番外】保持力とクライミンググレードの相関研究論文

前回まで3回にわたり、Beastmakerのぶら下がり時間や懸垂回数とクライミンググレードの関係について、アンケート結果をまとめました。新型コロナウイルスの拡大に伴ってBeastmakerのフィンガーボードを自宅に設置した人が増えたことを見込んでアンケートを行いましたが、実はこのような調査は、簡易な調査からシステマティックな研究まで過去に何度も行われています。今回のアンケート結果と見比べてみると面白いので、3つ紹介します。Latticeを除く2つは、web上で結果もすぐ見られるので、興味のある方はやってみてください。

Lattice Trainingによる研究

おそらく発表済みの研究で最新のものは、Lattice TrainingのOlie Torrが論文として発表したものになります。

www.researchgate.net

こちらの調査は、Lattice Trainingが販売しているハングボードを使用し、片手で5秒間保持できる限界重量を測定しています。重量は、自分の体重に重りを加えたり、プーリーで負荷を軽くしたりして調整します。

研究の本来の目的は、クライマーの保持力を測定するための測定方法として、この方式の信頼性を確認することとなっています。その中で付随的に、保持できる重量とクライミンググレードの関係性も確認しています。散布図や近似曲線はありませんが、相関係数は5.0以上で、それなりによい相関が確認できているという結果になっています。

Lattice Trainingは、データドリブンなクライミングレーニングとアセスメントの提供を強みとしており、上記のような論文の他にも自社のウェブサイトで様々なインサイトを紹介しています。以下の記事でまとめていますので参考までに。

takato77.hatenablog.com

 

 

redditで実施されているアンケート調査

https://toclimb8a.shinyapps.io/maxtograde/

こちらは非常にライトな調査で、18mm〜20mmのエッジであれば製品も問わず回答可能です。そして結果もすぐに確認することができます。

重りをハーネス等で体に装着して、18mm〜20mmのエッジに10秒ぶら下がります。Lattice Trainingの調査と同様に、装着できる重りの最大重量を回答します。すると即座に、過去に回答した2000人以上のデータと合わせて、保持重量とグレードの散布図が表示されます。

現時点で2000人以上が回答しています。投入誤りと思われる回答もそれなりにある(体重の5倍近くの重さを保持できるとか、V17登った人が10人近くいるなど)ものの、全体的な傾向がよく見える結果になってます。

傾向は管理人が実施したアンケートと同様です。全体的には保持力が上がるにつれてグレードが上がる傾向があるものの、同一グレードでも保持力のバラつきがかなりあるという結果です。

Climbing Strength Calculator

こちらは、体重を入力するだけで、あるグレードを登るために必要な保持力を推定して表示してくれるツールです。

beastfingersclimbing.com

コロラドのハングボードメーカーが、過去に自社のハングボードを使用して行った調査結果を元に推定しています。例えば体重66kgと入力すると、グレードと保持力の対応表が表示され、V7であれば片手で41kg保持できるといいよ、なんてことがわかります。注意点としては、こちらはフラットエッジではなく、15度にインカットした20mmエッジでの保持力となってます。

過去の調査結果は論文もPDFも公開されていますので参考に。

https://static1.squarespace.com/static/56830ef60ab377cb562da204/t/5d115bf55f2b9e0001a25faa/1561418760351/BF_strength_climbing_correlations-MAR282018_web.pdf