Black Diamondから発表されたクラックグローブを購入しました。岩との摩擦により手の甲を中心に擦り傷ができやすく、それを防ぐためにテーピングを行う人が多いですが、クラックグローブはテーピングを着脱可能なグローブで代替するものです。既にOCUNやOutdoor Resarchから先行製品がありますが、Black Diamondのクラックグローブは革新的なフィット感で話題となっています。岩場で少し使ってみたので、クイックにレビューします。

購入方法
販売サイト
2020年3月には発売されていましたが、当初はコロナ禍の影響か、Black DiamondのWebサイト上のみで取り扱われていました。本記事執筆時点(2020/11月中旬)では、欧米系のアウトドア系オンラインショップで軒並み取り扱いが開始されています。管理人はOutside.co.ukから並行輸入しました。
クラックグローブ本体が£27.5、送料が£11.95、合計で日本円で5500円くらいです。発注してから2週間程度で届きました。
なお、日本の正規輸入代理店であるロストアローでは、まだ未取り扱いのようです。
サイジング
サイズ展開は5サイズが展開されており、管理人はSサイズを購入しました。サイズは、下の1と2のうち、長い方をサイズ表と当てはめて選びます。
- 手の平を広げて、中指の先端から手首の皺までの長さ
- 人差し指から小指までの付け根部分の外周
よいところ
フィット感
このクラックグローブのコンセプトは、クラシックなテーピングによる感触を出来るだけ再現することです。その目的とするところは主に2つです。
- クラックのサイズに対して、グローブをしてしない場合とできるだけ近いフィット感を得る
- グローブと手の間の隙間をできるだけなくして、ジャミング中にずれる感触を防ぐ
1つめの目的を達成するため、全体の厚みを1㎜以下に抑えています。スティッキーラバーはシンセティックレザーに単純に貼り付けるのではなく、シンセティックレザーに凹みを成型したところへ、0.6㎜のスティッキーラバーを張り付けることで、貼り付け部だけ厚みが増すことを防ぐ工夫がされています。厚ぼったく作られている先行製品に対して、大きなアドバンテージです。
2つ目については、プレスリリースでは3Dパターニングを採用とあるので、立体裁断でフィット感を高めていると思われます。実際に装着してみた感触も、テーピングと比べて遜色ないフィット感を実現しており驚きました。

親指ガード
OCUNやOutdoor Researchなど、先行のクラックグローブ製品と大きく違うのは、親指のMP関節がしっかりカバーされていることです。この部分はフィストジャムで思いっきりクラックに当たり、テーピングなしだと管理人はほぼ100%流血するので、カバーされているのはありがたいです。ガビガビの花崗岩でフィストジャムをしてみましたが、しっかりガードしてくれて、無傷で登れました。
装着のスピード
これは本製品に限らず、クラックグローブに共通のメリットですが、テーピングを巻くのにかかる時間が圧倒的に節約できます。
岩場で1日ゆっくり過ごす時には、テーピングを巻いてる時間もクライミング前のルーティンとして心を落ち着かせる大事な時間だったりしますが、数時間しか登れない時にテーピングを巻いてる時間は真っ先に削りたいのが本音です。また、ジムや自宅壁でクラックを定期的に練習したいなんて時にも、毎回テーピングを巻くようだと、時間が無駄なだけではなく、そのワンアクションが億劫になってトレーニング自体をサボってしまうなんて悪影響もありえます。
また、マルチピッチでクラックのピッチとフェースのピッチが混在してる際には、クラックのピッチだけささっとグローブを装着することができます。フェースではクラック用のテーピングは邪魔ですし、手の甲側の突っ張りでカチの保持感も悪いので、外して登れるのは助かります。
よいとも悪いとも言えないところ
フリクション
先行のクラックグローブ製品は、おそらくクライミングシューズのソールと同様の黒いスティッキーラバーが貼られています。これらのラバーは、後述しますが、フリクションがよくなり過ぎて、一種のズルをしていると感じるクライマーもおり、また使用しているクライマーを批判する風潮も少なからずある状況です。Black Diamondのクラックグローブは薄いラバー(白色)が貼られていますが、先に述べた通りテーピングのような感触の再現を目標としているからか、過剰なフリクションは感じませんでした。
管理人は、粗い花崗岩で使用したのみですが、テーピングをした際に感じるフリクションと大差ない印象です。インドアでのサンド掛けしたつるつるの木材であったり、城ケ崎のような滑らかな岩質だと、もしかしたら良いフリクションを感じることができるのかもしれません。
イマイチなところ
フィストジャム時の突っ張り感
タイトなフィット感とトレードオフになっていると思われるのが、フィストジャム時に感じる突っ張り感です。シンセティックレザーは余り伸びないので、フィストジャムを握りこむ際に、甲側の生地が突っ張り、握力を消費します。1,2手なら問題ないですが、フィストサイズが続くクラックでは握りこむ握力が低下するなどの影響があるかもしれません。

管理人はぎりぎりのサイズで購入したので、1サイズ上にすると、このあたりの感触が変わるのかは試してみたいところです。
脱ぐ際の指の引っ掛かり
フィンガーループは片方の端は縫製されていることから、強引に抜くと縫製がちぎれないか気になります。特に管理人のように指の関節が腫れている場合はスルッと抜けないので、丁寧に脱ぐのは存外に煩わしいです。

フィストジャムのカバー範囲(2020/12/16追記)
通常、フィストジャムでは親指のMP関節付近が擦れることが多いですが、その部分はグローブでしっかりカバーされていて大丈夫です。しかし、実際に岩場にて集中してフィストジャムを使用する課題をトライしたところ、別の部分で若干カバーできていない範囲がありました。

狭いフィストジャムを決めた際に、写真の箇所が岩に擦れます。気になる方は、この部分はテーピングを貼ってからグローブを付けるとよいでしょう。
Cheating?
クラックグローブは、Black Diamondが発売する以前にも複数のメーカーから発売されています。素手でジャミングする場合に比べてフリクションがよくなるので、使用することはCheating(イカサマ、ズル)であるという論調も少なからずあります。テーピングですら、Cheatingと言われる事もあります。
上記のRock&Iceの記事では、「真のCheating」と「Cheatingのようなもの」は違うものであり、先人が気づかなかった、よりスマートに登るための方法は全て、後者の「Cheatingのようなもの」なのだとしています。例えば以下のようなものです。
- スティッキーラバーのクライミングシューズ
- ハングドッギング
- フレンズ、キャメロットなどのSLCD(スプリング・ローデッド・カムデバイス)
- ボルト
- トップロープ、ヘッドポイント、レッドポイント、ピンクポイントなどの完登スタイル
- フラッシュ
- ティックマーク
- チョーク
- スティッククリップ
そして、クラックグローブは、それらのメソッドに新しく1つ加わっただけなのだと評価しています。(ちなみに、「真のCheating」が何かは言及してません。チッピングなどでしょうか。)
安全確保手段であるカムデバイスやスティッククリップと同列に語るのは少し違う気もしますが、"手足の力で岩を攀じることを補助する"という観点で言えば、少なくともシューズとチョークはクラックグローブと同じ性質の発明だったと言えるでしょう。
フリークライミングでスティッキーラバーシューズとチョークを使うのが当たり前になったのは、せいぜいここ数十年です。アメリカで最初の5.9は、ロイヤル・ロビンスにより、ヨット用のロープとテニスシューズで登られています。クラック・グローブも数十年後には当たり前に使われているなんてこともあるかもしれません。
Open Book the FIRST 5.9 - A Rock Climbing Story
結局は、トップエンドのプロクライマーでもなければ、個人がどこまでスタイルに拘るかというだけの話です。偉大なフリーソロイスト、マイケル・リアドンの以下の言葉をふまえて、個々人で判断すれば十分ではないでしょうか。
Onsight, barefoot, chalkless, soloing. That’s climbing. Everything else is a compromise
「オンサイトで取り付いて、裸足で、チョークを使わずにフリーソロする。それが真のクライミングで、それ以外は全て妥協さ。」