【書籍紹介】肉体改造のピラミッド 栄養編 ~クライマー目線での感想

 

 

「肉体改造のピラミッド 栄養編」は、健康的かつ持続的な体重コントロールを行う上で必要となる、栄養摂取の最新知識がまとまった書籍です。主に、ボディビルディング競技者や、ウェイトリフティング競技者のように、体重をコントロールしつつ競技に必要な筋肉をつけたり維持したりする必要があるユーザを想定して書かれています。

そのため、クライミングに特化した書籍ではありません。しかし、クライミングは体重と筋力・パワーの比率が、パフォーマンスに大きく影響を与える運動です。健康を害さない範囲で、適切に体重をコントロールしたいと考える多くのクライマーにとって、役に立つ書籍となっています。

(2021/8/7現在、定価は5720円です。悪質な高額転売が起きているようなのでご注意ください。)

肉体改造に影響する栄養摂取の全体像を提示

本書の特徴は、序文の冒頭にある、以下の一文に集約されています。

本書はフィットネスに興味を持つ人に「栄養」というものの全体像を伝えるために制作されたものです。

「全体像」というところが特にポイントで、これはつまり、木を見て森を見ずにならないようにするということです。

栄養摂取と一言に言っても、考慮が必要なことは多岐に渡り、関連する情報はインターネット上にも溢れています。思いつくまま挙げると、

  • 1日の食事回数は何回にすると痩せやすいのか
  • ダイエット中にチートデイ(好きなものを好きなだけ食べていい日)はどのくらいの頻度で行えばいいのか
  • プロテインはトレーニングの前に飲むべきか後に飲むべきか
  • サプリメントはどんなものをどれくらい飲めばいいのか

などなど、枚挙にいとまがありません。

しかし、それらの情報が全て同じように重要かというと、そうとは限りません。例えば、上に挙げた1日の食事回数を、仮に痩せやすい最適な回数にできたところで、トータルの摂取カロリーが消費カロリーを上回っていれば、永遠に痩せることはできません。体重を減らすための重要度としては、「消費カロリーが摂取カロリーを上回る」の方が、「1日の食事回数を適切にする」ことよりも、より重要な要素になっています。

つまり、体重コントロールを適切に実践しようと思ったら、目についた情報を片っ端から実践するのは悪手ということです。そうではなく、優先順位の高いものに多くの労力を注ぎ、低いものには余力の範囲でやるようにするべきです。そうしないと、効率的でないばかりか、細かいことまで気を配らなければならなくなり、結果として精神的にも疲れてしまって長続きしないでしょう。

本書は、栄養摂取に係る膨大な情報を、5段階のピラミッドで表現した優先順位に振り分けることで、全体像を見失わないように工夫されています。

  • レベル1 カロリー収支
  • レベル2 三大栄養素・食物繊維
  • レベル3 微量栄養素・水分
  • レベル4 食事回数・タイミング
  • レベル5 サプリメント

レベルの数字が少ないほど重要度が高くなります。こうしてみると、ダイエット関連で目にする情報って、多くがレベル4とレベル5に集中しているような気がしませんか?しかし、実際には、多少の効果があるかもしれませんが、重要度がそれほど高いわけではないのです。 

ライミング関連のブログでは、以前Mickipediaにて、現実的で持続しやすいダイエットの考え方を整理していました。こういった考え方に共感できる人であれば、本書籍はきっと、自分自身のダイエットの指針を確立する助けになるでしょう。

 

micki-pedia.com

 

クライマーと体重管理の付き合い方

冒頭でも述べたとおり、クライミングは、筋力とパワーが一定であれば、体重が軽い方が有利です。そのため、できるだけ体重を減らしたいと思うのはクライマーの性と言えます。そのため、ときに、よいクライミングパフォーマンスを追求するあまり、急激に不健康なレベルまで体重を落としてしまうクライマーもいます。

 


www.youtube.com (体重を軽くしたいという強迫観念から摂食障害に苦しんだクライマーのドキュメンタリー「LIGHT」)

 

このような過ちを防ぐためには、何よりも正確な知識が不可欠です。

「過剰な減量は、体に深刻なダメージを与える可能性があるのでよくない」と考えてか、あえて減量のやり方に触れない入門書もあります。しかし、減量の正しい方法を知らなければ、その正確なリスクもわからないでしょう。

体重が軽そうな有名クライマーが凄い成果を出していたら、「自分も軽くなればあんな風になれる」と考えるのは普通の事です。そのとき、不正確な知識しか無ければ、危険な減量に手を出してしまうクライマーが出てきても不思議ではありません。

本書では、過剰な減量のリスクについてもきちんと説明してくれていますし、健康を保ちながら体重を減らす適切な方法も学ぶことができます。

陳腐化した情報のアップデート

ライミングにおける栄養摂取や体重管理については、ベテランのクライマーの方ですと、Rock&Snowに連載されていた「ハードコア実験室」が情報源だった方もいらっしゃるのではないでしょうか。当時における最先端の知見と、筆者の新井祐樹さん自身で試してみた結果を共有してくれる良記事でした。

しかしながら、試すなら読者の自己責任でと何度も記事中で念押しされており、研究での確認が不十分な情報も多く含まれていたのも確かです。連載から10年余が経ち、当時有効と考えられていながら研究で否定的な評価が出ていたりします。その逆も然りです。そのような、陳腐化してしまった情報をアップデートするためにも、本書籍は有効です。

例えば、本書ではサプリメントをレベルA~Cに分類して紹介しています。レベルAは「科学的に効果が確認されていて、多くの人に有用な効果がある」ものです。一方、レベルCは「一般的に人気ではあるものの実際には摂る意味のない」ものです。レベルA,Bに属するものは7種類しかなく、その他は全てレベルCと評価されています。

ハードコア実験室で比較的ベーシックなサプリメントとして紹介されていたグルタミン、BCAAなどはレベルCとなっており、その根拠も解説されています。 インターネットの記事や広告による散発的な情報よりも、まとめて最新の知見を得ることができるので、おすすめです。

また、ケトジェニックダイエットなども、最新の知見を網羅して評価しています。一概に良い、もしくは悪いと評価するのではなく、どんな場合にメリットがあるのか、考えられるデメリットはなんなのか、恣意的な考えを極力排除して解説してくれています。