BFR(血流制限)トレーニングとクライミング

エネルギーシステムの話は一旦お休みにして、先日購入したトレーニング器具の話をします。

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上の写真がそれで、BFRレーニンを行うためのバンドと空気圧設定ポンプです。BFRはBlood Flow Restriction(血流制限)の略で、バンドを腕や脚に巻いて血流を制限した状態でトレーニングする事により、軽い負荷の運動でも乳酸濃度を高めて筋トレ効果を得られる、というのが売りになってます。

BFRレーニングは、血流を制限して行うという特性から、トレーナーに指導を受けて行うことが強く推奨されてます。本記事は素人の管理人が自己責任で行った内容を書いてますので、こんなものがあるんだなくらいの気持ちで読んでいただき、興味が出たら、BFRレーニングを扱っているトレーナーに相談してください。

BFRレーニングとは

レーニングの対象箇所

だいぶ前に加圧トレーニングとしてブームとなりましたが、基本的な考え方は同じものと考えて差し支えないです。人間の体を体幹と四肢(両腕、両足)に分けると、四肢の付け根にバンドを巻いて血流を制限した状態でトレーニングするもので、主なトレーニングの対象は四肢となります。

基本的な原理

BFRレーニングで制限する血流は、主に静脈をターゲットにしています。バンドでかける圧力を調整し、四肢に流れ込む血液(動脈流)は流れ続けつつ、心臓へ戻る血液(静脈流)は制限をかけるようにします。

こうした状態で運動した時に何が起こるかというと、老廃物が蓄積し、筋肉環境が酸性化・低酸素化します。

血液はざっくり言えば、新鮮な酸素や栄養を体の各組織に届け、老廃物を回収して腎臓などで処理して心臓に戻る機構なので、静脈流を制限すると老廃物が蓄積します。これは高強度の運動を行なっている時に起きることと類似しています(高強度の運動を行うと毛細血管が物理的に圧迫されて血流が制限される)。これを20〜50%強度の運動で擬似的に作り出すのがBFRレーニングの肝です。

筋肉が酸性化・低酸素化すると、大きく以下2つの事が起こります。

  1. 速筋(type2筋繊維)の動員
  2. 成長ホルモンのリリース

酸性・低酸素の状況下では、遅筋(type1筋繊維)の機能が低下し、速筋が動員されます。そして、テストステロンやIGFなどの成長ホルモンがリリースされます。これらの効果は筋肉を大きくする(筋肥大)ために必要となる要素で、本来、有酸素レベルの強度運動では達成できないところ、血流制限することで無酸素レベルの負荷の運動が行われたと筋肉を騙してあげるのです。

効果と適用シーン

原理で述べた通り、期待できる効果の主体は筋肥大です。弱い環になり得る要素(肉体的要因編) - May the friction be with you!で述べた通り、筋肥大しただけでは、本当に必要な筋力への影響は限定的なので、筋動員を高める神経系のトレーニングも別に行う必要があるでしょう。

BFRレーニングの大きな特徴は、軽い負荷で効果が得られることです。その負荷は最大筋力の20%〜30%で、筋肉を構成するタンパク質の分解が殆ど起きないのに加え、腱・靭帯などの軟部組織への負荷も軽いです。そのため、怪我・故障からのリハビリ中に実施可能なトレーニング手段になります。

また、自分は40代になって実感しているのが、回復の遅さです。筋肉組織はまだマシですが、軟部組織は労わらないとすぐ故障してしまいます。ベテランクライマーBFRレーニングをメニューに組み込む事で、怪我防止と筋力アップを両立させられるかもしれません。

例:高強度トレ→1日レスト→BFRトレ→1日レスト→高強度トレとする事で、軟部組織への強いストレスを3日開けるなど

用具と装着方法

自分が購入したのは、Tyler NelsonがおすすめしているBstrong社のバンドです。

送料込みで370$くらい+関税が2000円程度でした。高く感じますが、空気圧調整ができるBFRバンド、加圧バンドは、20万円以上するものが多く、それに比べるとかなりリーズナブルかと。


NewAUDIO armNlegGirth

動画に従って上腕のサイズを測ります。適正サイズ自分は30.5cmで、size#1を購入しました。

装着場所もサイズを測った場所と同じで、上腕二頭筋の力こぶと、三角筋の間あたりにバンドを巻きます。巻いたら、メーターのついた空気ポンプをワンタッチで装着して空気圧を調整します。

ライミングレーニングへの応用

Tyler Nelsonのプロトコル

ソルトレークシティカイロプラクティック医院CAMP4 HUMAN PERFORMANCEを経営し、ストレングス&コンディショニングコーチでもあるTyler Nelsonが、クライミングに効果的なBFRレーニングメソッドを動画で解説してくれています。


Train your fingers with blood flow restriction

メソッド自体は単純で、動画を見れば英語がわからなくても概ね理解できると思います。テキストでも以下に記しておきます。

  1. ウォームアップは事前に行っておく
  2. 携帯型フィンガーボードに重りを装着する
  3. BFRバンドを腕に装着して空気圧を調整(200mmHg〜250mmHg)
  4. 2のフィンガーボードを体の前側に置き、オープンハンドで保持して、腰の辺りまで持ち上げる
  5. 4の姿勢を維持して、指を巻き込む
  6. 5を15〜30回ほど繰り返す
  7. フィンガーボードに7秒程度ぶら下がる
  8. 5〜7を1セットとして7回程度繰り返す(セット間レストは30秒)
  9. 5分レストしてからバンドを外す

重量負荷は、7の最後に限界となるような重量負荷を選ぶことがポイントです。成人男性だと20〜30kg、成人女性だと15kg〜25kgくらいの事が多いようですが、人それぞれで調整するとよいでしょう。

管理人がやってみた感想

実際にやってみたところ、前腕は見事にパンパンにパンプしました。

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30手くらいの限界ギリギリの長手物ボルダーをやった後のような張り具合、といった感じです。一方、指の関節への負荷は想定通りマイルドです。現在、左手中指の関節炎がなかなか完治せず苦しんでますが、痛みも出ず、寧ろ血流がよくなって心地よい感じです。

携帯型フィンガーボードは、Tylerはtension climbingのflash boardを使ってますが、両指をかけて巻き込めれば何でもいいので、自分はgstringを使いました。ivouあたりも良さそうですね。

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gstringでBFRレーニン

 

なお、重りのぶら下げは、ダンベルプレートにロープを通してますが、グラグラしてイマイチですので、きちんとしたローディングピンを使った方が快適と思います。ピンチを鍛える際のぶら下げにも使えますので。

カロノ王回復法

実は加圧トレーニングのクライミングへの適用は、今から10年以上前に、故新井祐己さんが通過した場所です。新井さんは、クライミング能力自体の向上目的ではなく、疲労回復促進に適用する事を提案しています。改めて驚異的なイノベーターです。(加圧トレーニング協会は権利関係にシビアであることをふまえ、カロノ王回復法なんて言い方をしていました。)

ふと思い立ったのは「血管拡張による血流促進」にはメチャメチャいいんじゃないか、ということです。(中略)

作用機構としては、静脈を圧迫しても動脈流は流れ続けるわけなので、毛細血管に激しく圧力がかかります。するってーと、これは血管太くなるんでしょうな。そりゃ毛細血管網も発達しましょうて。で、その後にベルトを解放しますと、ドバーッと反動で血液量が4割増しになりまして、低酸素から一転して高酸素状態にまでなると。

これ、アイシングよりお手軽ですがな。一日何度でも締め開けできまっせ。

 

引用元:Rock & Snow No.38「ハードコア人体実験室」 山と渓谷社

新井さんは、加圧バンドを締めた状態で実際のクライミングも試したものの、以下2つの理由から適正に追い込めず、クライミングレーニング自体には適さないと結論しています。

  1. ライミング中は筋肉の血流ポンプ作用が働き静脈流が解放されてしまう
  2. 1に加え、手を心臓より上に上げる姿勢のため、血流が心臓に戻りやすい

Tyler Nelsonのプロトコルはその辺りも考慮しています。クライミングの姿勢に拘らず、心臓より手を下げることで、血流ポンプが作用してもなるべく静脈流が解放されないように工夫しつつ、30秒のレスト時間を挟んだインターバルトレーニングとすることで、レスト中にしっかり静脈流を制限するようになっています。

まとめ

  • BFRレーニングは静脈流を制限して低負荷運動を行い、筋肥大効果を得る
  • ライミング向けには、実際のクライミングを行うのではなく、手を心臓より下げた姿勢でフィンガーロールを行う
  • 短いインターバルで繰り返す事により、筋肉の酸性化・低酸素化が進み、老廃物が蓄積して効果が最大化する

といったところです。冒頭にも述べた通り、こんなものがあるんだと思っていただき、興味があればBFRトレーナーに指導を仰ぐのがよいと考えます。

それにしても、目新しいトレーニングに無闇に飛びつかない(シャイニーオブジェクト症候群) - May the friction be with you!なんてことを書いておきながら、思い切り新し物にハマっています。やっぱ真似しない方がいいかも。。

おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。お断りしておきますが、筆者はクライミング関連業務に従事しているわけではなく、医療関係者でもありませんので、記載内容を実際に適用される際には一次ソースを確認の上、自己責任でお願いします。

参考文献

theclimbingdoctor.com