ボルダリングジムで実行しやすいローカルエンデュランストレーニング(Low Load Density)
クライミングにおける持久力トレーニングでは、易しいグレードのクライミングを長時間行って前腕の回復力を向上させる、ローカルエンデュランストレーニングが重要です。しかしローカルエンデュランストレーニングは、長時間クライミングウォールを占有するワークアウトが多く、やりたくてもやる環境がないということが多いのではないでしょうか。
今回は、ボルダリングジムで、現実的に実行しやすいローカルエンデュランストレーニングであるLow Load Densityを紹介します。
クライミングの持久力の仕組みは、端折って書いてます。詳しくは、以下の記事に書いたので、興味のある方は参考にしてください。
- クライミングにおける持久力トレーニング(ローカルエンデュランス)
- ローカルエンデュランストレーニングが営業ジムでやりづらい理由
- 現実的に実行しやすい有酸素系トレーニング(Low Load Density)
- 実際にLow Load Densityを行う際の工夫ポイント
- おわりに
- 参考書籍
クライミングにおける持久力トレーニング(ローカルエンデュランス)
体がフレッシュな状態であれば問題なくムーブができるのに、初手からつなげて登ってくると、疲労によってホールドを保持しきれなくなり落ちてしまう。これがクライミングにおいて持久力が求められる状況ですよね。
この際、前腕の筋細胞内では、水素イオンが蓄積してpHが酸性に傾いています。この酸性に傾いた状態では、大きな力が出し続けられなくなってしまうというのが問題です。長く登り続けるためには、登りながらこの水素イオンを除去しないといけません。
この水素イオンを除去する能力は何かというと、端的に言うと有酸素運動の能力です。酸素と脂肪を材料とした有酸素機構でのエネルギー生産は、その過程で水素イオンを取り去ってくれます。そのため、有酸素機構の働きが活発になればなるほどよいわけです。
クライミングで落ちる際に疲れている場所は、ほぼ例外なく、指を曲げる前腕の筋肉です。この局所的(ローカル)な場所における、有酸素機構の働きを活発化させるのが、ローカルエンデュランストレーニングです。
ローカルエンデュランストレーニングが営業ジムでやりづらい理由
ローカルエンデュランストレーニングの特徴は、「易しいルートを長時間登る」です。血中に乳酸が溜まり始めるくらいの強度(有酸素性作業閾値、AeT)付近を維持して登り続ける事で、前腕の有酸素機構の働きを活発化します。
しかし、この「登り続ける」というのが、クライミングジムではなかなかやりづらいところです。代表的なローカルエンデュランストレーニングであるARCトレーニングは、30分以上登り続けるのが目安になります。ボルダリングジムでもルートジムでも、30分以上壁を独占するのは現実的ではないですよね。新宿のPUMP CLIMBER’S ACADEMYみたいに、ぐるぐる回れる長いトラバース壁が備えられてる施設であれば、他の利用者に気兼ねしないで済みます。しかし、そのような施設は残念ながら一般的ではありません。
現実的に実行しやすい有酸素系トレーニング(Low Load Density)
ここまでの通り、環境的な制約でローカルエンデュランストレーニングを行えなかった方も多いんじゃないかなと思います。今回紹介するLow Load Densityは、極端に混雑していたり狭すぎたりすることがなければ、どんなボルダリングジムでも行えるローカルエンデュランストレーニングです。
Low Load Densityのやり方とメリット
Low Load Densityは、書籍「Logical Progession」 の中で紹介されているワークアウトです。単純なフォーマットのトレーニングで、一定時間(45分間~60分間)の中で、できるだけ多くのボルダー課題を登ります。グレードは、オンサイトできるかできないかのグレードから2~3グレード下の課題を選びましょう。ひどくパンプするようであれば負荷が高すぎるのでグレードを落とします。
ずっと壁に取り付いている必要はなく、1課題登ったら壁を降りてレストしてOKです。選んだグレードの範囲内で、ジム内のどの壁の課題を登ってもよいので、空いている壁の課題に取り付くようにします。そのため、ジムの壁を長時間占有する必要がなく、精神的な負担が少ないのが最大のメリットです。
目指す運動強度
Low Load Densityは1課題ごとに壁を降りますが、ARCトレーニングのようにレストなしで登り続けなくてよいのでしょうか?確かに、ローカルエンデュランスの強化という点では、できるだけレストが少ないのが理想です。しかし、短時間のレストを挟みながらでも、血中に乳酸が溜まり始めるくらいの運動強度(有酸素性作業閾値、AeT)が保たれていれば、トレーニング効果は得られます。
登る課題や登るスピードにもよりますが、1課題登るのにかかるのは、だいたい30秒~40秒程度のことが多いです。1分に1課題登るとした場合、課題間の移動も含めると、1分間のうち40~50秒は動いており、さほどレストしている暇はありません。45~60分のセッションを終えると、軽く息が切れて、前腕に軽いパンプを感じているのが理想です。
負荷の数値化
Logical Progressionでは、以下の数値を算出して、ワークアウトの負荷を数値化することを推奨しています。
Session Density Number = 課題の難易度の総和 ÷ ワークアウト時間
「課題の難易度の総和」は、(グレードの数値)×(課題数)で算出します。例えば、V2を10課題登ったら2×10=20、V1を30課題登ったら1×30=30です。V2を10課題、V1を30課題登ったならば、それらを足し合わせて、2×10+1×30=50が、「課題の難易度の総和」となります。以上の課題を45分間で登ったならば、SDN=50÷45≒1.11となります。
Low Load Densityは、易しい課題を一定の時間内にできるだけ多く登ることが目的です。そのため、SDNの数式はワークアウト時間で割る形式になっており、ワークアウトの密度を表す指標になっています。ワークアウト時間を闇雲に伸ばしてもSDNの数値は変わりません。穏やかなパンプに収まる範囲で、登る課題数を多くしたり、課題の難易度を上げることで、SDNが徐々に大きくなっていくようであれば、持久力が伸びていると評価できるでしょう。
段級グレードの場合は、10級~1級までは数字が減っていくので、難易度が高い課題を多く登るほどSDNが小さくなってしまいます。Vグレードに変換してもいいですが、逆数を取れば、手っ取り早く難易度に従って数字が増えていくようにできるので、管理人はそのようにしています。例えば6級は1/6≒0.17、5級は1/5=0.20、4級は1/4=0.25などです。
実際にLow Load Densityを行う際の工夫ポイント
実際にLow Load Densityを効率的に行うために、管理人が何回かトライしてみて感じた工夫ポイントを紹介します。
何秒ごとに課題に取り付くかを事前に決めておく
これは言い方を変えると、「時間内にトライする課題数の目標を定めておく」ということです。何も決めずに開始すると、闇雲なペースで課題に取り付いてしまい、結果、想定以上にパンプして規定時間になる前に疲れ切ってしまうなんてことが起きます。そもそもこのトレーニングでは、焼けつくような痛みを感じるパンプになってしまったら強度が高過ぎで、目的としているトレーニング効果を得るためにも逆効果です。
これを防ぐため、例えば「1分に1課題取り付く」と決めておきます。こうすることで、一定のペースで登ることができます。一定時間毎にアラームを鳴らすことができるタイマーアプリを使用して、アラームが鳴ったら空いている課題に取り付くようにします。
ジム内を縦横無尽に移動しながらトライするため、タイマーのアラームは、スマホと接続したワイヤレスイヤホンで聞けるようにしておくと快適です。こうすればスマホを持ち運ばなくていいですし、次にアラームが鳴る時間を気にしてスマホ画面をチェックする必要もありません。
取り付く課題のグレードについて、単純な法則を決めておく
これは、登った課題のグレードと本数を集計する手間を省くために行います。
SDNを算出してワークアウトの負荷を管理するために、グレードと本数の集計は必須です。しかし、実際にやってみるとわかりますが、かなりの本数を登るので、登った課題のグレードと本数を暗記しておくのは不可能に近いです。また、レスト間隔が短いため、トライ間に1課題ずつ登った課題のグレードをメモするのも大変です。
例えば、以下のように課題に取り付く法則を決めておくことで、メモを取らずに簡単に集計することができます。
- 6級の課題だけを登る
- 5級の課題と6級の課題を交互に登る
- 5級を1課題、6級を2課題登ることを繰り返す etc.
例えば、45分間、1分間に1課題登るとすると、3番目の例では5級を15課題、6級を30課題登ることになります。
SDN =((1÷5)×15+(1÷6)×30)/45 ≒ 0.178
おわりに
ここまで読んでいただきありがとうございました。お断りしておきますが、筆者はクライミング関連業務に従事しているわけではなく、医療関係者でもありませんので、記載内容を実際に適用される際には一次ソースを確認の上、自己責任でお願いします。
参考書籍