アクセスファンドによる岩場利用ガイドライン(covid-19対応)
アメリカのクライミングエリアアクセス状況
アクセスファンドにて各岩場の規制状況を取りまとめて、以下のページ上で公開しています。
いくつかの州ではStay at homeの要請を解除する動きが出始めているものの、このページを見ると、Rocky Mountain Notional Park、Bishop、Yosemiteなどを含む多数のエリアがまだ規制中であることがわかります。
【関東周辺岩場情報まとめ】
— ユウキミヤシタ (@mmmmmiya_) 2020年4月24日
4月24日更新(毎週金曜日更新予定)
◎ 登攀禁止
◎ 登攀自粛
佐久志賀・鷹取山・御岳・裏御岳・奥御岳・池田フェイス・奥多摩周辺・二子山・栃木県内の岩場
◎ 施設閉鎖等
小川山(廻り目平・金峰山荘)
4月26日〜
神戸岩
4月24日〜 pic.twitter.com/CxwUpWX5G8
岩場利用のガイドライン
Chill out
- できれば登りに行かない。クライミングギアやビレイ場所、狭いトレイルをシェアするため、ソーシャルディスタンスに最適な活動ではないことを理解する。
Minimize Everything
- 感染拡大のリスクを受ける岩場近接地域へ配慮し、遠征はしない。家の近くの岩場に行く。
- 混んでいる岩場やピークタイムは避ける。
- 集団で行かない。多くても、自分とパートナーの2人。
Be prepared
Protect health and safety
- ソーシャルディスタンスを保つ
- 岩場に行く前と後で手を洗う
- 携帯トイレを持ち歩く
- マスクの着用を心がける
- 救助隊をできるだけ出動させずに済むように、はしゃぎ過ぎない
具体的な各岩場のアクセスは、上記のガイドラインをふまえつつ、各岩場毎に岩場所有者等との交渉が進められていくことになります。
読書レビュー「コンペで勝つ!スポーツクライミング上達法」木村伸介
既にいくつかのブログや媒体で紹介されていますが、木村伸介さん初の著作となる「コンペで勝つ!スポーツクライミング上達法」が発売になりました。管理人もさっそく購入して読んでみましたのでレビューします。
- 本書の特徴
- クライマーズバイブルとの差異
- 指導者の目線で書かれている
- 登ること以外の筋力トレーニングを扱っている
- コンペ対策を主軸としている
- 本書に記載されていないこと
- 栄養摂取の最適化
- クライマーズバイブルとの差異
- 余談
- タイトルの由来(推測)
- 表紙のイラスト
- 最大筋力と筋動員の関係性
本書の特徴
本書の巻末で、著者の木村伸介さんは以下のように述べています。
今回の出版の原動力は、2010年に訪れたオーストリア研修会です。そこで得た知識と、これまで自分が行ってきたことを選手や指導者の方に伝えられたら、もっと全国から強い選手が必然的に育つのではないか。選手だけでなく指導者の方にも知ってもらいたいという思いです。世の中にはテクニックに関する入門書や技術書が溢れていますが、トレーニングに関する書籍はほとんどありません。
その言葉の通り、本書はクライミングのトレーニングに特化して、実践的な方法論を提示しています。
上記にある2010年のオーストリア合宿に先立ち、2005年、2008年にも日本のユース世代がオーストリア合宿を行っています。2008年の合宿については、その模様がRock&Snowにも掲載されました。合宿を引率された小日向徹さんは、合宿の印象を以下のように結んでいます。
日本のトップレベルを育てられ、かつ彼(彼女)らから信頼を得られるようなトレーナー、コーチが登場するには、少なくともあと10年はかかるのでは、という気がする。なぜなら日本のクライミング界では、より登れる人の発言が常に影響力をもっていて、そういった登れる人の多くが、システマティックなトレーニングや指導を受けた経験がないから。クライミングをやっている人の多くが、クライミングとコンペ、トレーニングについて割り切って考えられていないからだ。
「Rock&Snow No.39」2008年 山と渓谷社刊
2008年のロクスノの記事では、オーストリアで行われているトレーニングについて、「クライミングとトレーニングは別物」という刺激的な考え方が提示されましたが、具体的な方法論はごく概略が示されたのみで消化不良な内容でした。本書は、小日向さんの予測からまさに10年余を経て、信頼されるトレーナー・コーチとして日本のクライミング界に体系的なトレーニング理論を定着させた木村さんが、クライミングトレーニングの具体的な方法論を包括的に可視化した回答書と言えます。
道具の選び方であったり、ムーブ・ホールディングの種類など、これからクライミングを始める方向けの基本的な内容は対象外です。全くの初心者が読むことは想定していないと思いますが、クライミングに熱中するようになると、より強くなるために必ずトレーニングを行うようになります。普通に登るだけでもトレーニングになりますが、限りある時間を有効に使い、効率的に最速で強くなるためには、現時点でのトレーニングのベストプラクティスは知っておくべきです。そのため、本気でクライミングが強くなりたいと考えている人は、迷わず買って損はない書籍です。
クライマーズバイブルとの差異
本書の目次は以下の通りです。
続きを読むクライミングの特殊性を考慮した懸垂のバリエーション
懸垂がクライミングに有効なフィジカルトレーニングであるということは、クライミングコミュニティにおいては、ほぼ自明の事として認識されているように思います。一般的な懸垂の動作としては、バーにぶら下がり両肘を伸ばした状態でスタートし、あごがバーの上に出るくらいまで腕を引き付け、再びスタートに戻るといったものになります。そして、最大筋力を向上させるため、懸垂する際にウェイトをハーネスにぶら下げるなどして負荷を強くするのも一般的です。
この一般的な懸垂によるフィジカルトレーニングについて、クライミング動作の特殊性を考慮した効率的な方法論を、ソルトレークシティの運動トレーナーTyler Nelsonが提案しています。今回はその考え方を紹介します。
フルレンジとパーシャルレンジ
冒頭で記したとおり、一般的な懸垂としては、両腕を伸ばした状態でスタートし、あごがバーの上に出るくらいまで両腕を引き付けます。肘関節の動きの(レンジ)で考えると、伸び切った状態からの曲げ切った状態まで動いているので、フルレンジの動きと言えます。
一方、クライミングの実際の動作では、フルレンジで引き付けるわけではないシーンもかなりあります。以下のインスタグラム動画では、そのことを視覚的にわかりやすく伝えています。
実際の自分がクライミングしている動画があれば、一度見返してもらえると、よりイメージが湧くと思います。思ったより、腕を目一杯引きつけてるシーンは少ないんじゃないんでしょうか。これは壁の傾斜やリーチ、身長などによって変わります。おそらく傾斜が緩くなる程、身長やリーチが短くなる程、引きつける度合いは大きくなる筈です。
肘が90度以上曲がった状態は肘の腱を圧迫します。自身のクライミングの嗜好であったり、今後取り組みたいプロジェクトを考えたときに、フルレンジで引きつける動きが頻出しないのであれば、以下の様に敢えてフルレンジの懸垂を行わないのも一つの方法です。
もちろん、自身の弱い環がフルレンジの引きつけにあるのであれば積極的に鍛える必要があるでしょうし、そうでないとしても、時間が十分にあり肘の状態も健康であれば、フルレンジで行えばよいと思います。トレーニング時間に限りがありトレーニングメニューをより効率的に絞り込みたいような場合や、年齢を重ねて軟部組織を労わる必要がある場合には、パーシャルレンジの懸垂も検討してみてはいかがでしょうか。
ストレングスとパワー
もう一つ、上記のインスタグラム動画でTylerが伝えているのは、スピードの観点です。
最大筋力を鍛えるためには、5回程度の繰り返しで限界となるように負荷(ウェイト)を加えて懸垂する事が行われます。しかし、負荷が上がると一般的にスピードは低下します(重量挙げの動きを想像するとわかると思います)。
改めてクライミングの動作の特性を考えてみると、重量挙げのような1回動かせるかどうかの負荷をゆっくり動かすのとはだいぶ違います。まず、扱う重量(負荷)は基本的に自分の体重程度の重量であり、手でホールドを保持するだけではなくてフットホールドを足で踏むことで更に分散されます。デッドポイントやランジなどの爆発的なパワーを要するムーブにおいては、そのような限界より軽い負荷重量に対して自身の最大筋力を一気に解放することでスピードを出し、スタティックな動きでは到達できない距離の動きを実現するのです。
一般的に、パワー=ストレングス×スピードと言われますが、ウェイトをつけて行う懸垂は、スピードが遅い状態で発揮できるパワーを鍛えるトレーニングと言えます。これによりベースとなる力(ストレングス)はつきますが、実際にクライミングで求められるような高速の動きを行うためには、負荷を軽くして動作スピードを早くするパワートレーニングも行う必要があります。キャンパシングはそのようなトレーニングの一例ですが、懸垂においても、負荷を少し軽めに設定する代わりに高速で行うバリエーションがあります。
一回行うのが限界となる負荷(1Repetition Maximum)を測定し、その70%くらいの負荷を使用して可能な限り素早く引きつけるようにして懸垂します。1セットは3回くらいでよいようです。
ストレングスはパワーのベースになるので、ストレングスを鍛えた後でパワーを鍛えるようなピリオダイゼーションを組むと良いと思います。
まとめ
- クライミング対象の傾斜や、身長・リーチなどの条件により、フルレンジの引付が有効なシーンとそうではないシーンがある
- 肘の腱に不安がある場合などは、パーシャルレンジの懸垂も有効
- クライミングで求められる爆発的なパワーを鍛えるために、最大筋力のトレーニングサイクルのあとで、負荷を軽くしてスピードを速くした懸垂を行う事も有効
今回紹介した以外にも懸垂にはさまざまなバリエーションがあります。家で懸垂を行う際には、自身のクライミングの嗜好性、体格、弱点などを顧みて、どんなバリエーションが自身にとって有効か考えてから取り組むのもよいのではないでしょうか。
終わりに
ここまで読んでいただきありがとうございました。お断りしておきますが、筆者はクライミング関連業務に従事しているわけではなく、医療関係者でもありませんので、記載内容を実際に適用される際には一次ソースを確認の上、自己責任でお願いします。
クライミングフィルム Rampageの紹介
新型コロナウィルス(covid-19)の感染拡大を受けてstay homeを推奨・促進する意味もこめてと思いますが、過去のクライミングフィルムが続々と無料で公開されています。
その中で、REEL ROCKが公開したRampageは、管理人世代のクライマーは誰でも多かれ少なかれ影響を受けた衝撃的なフィルムでした。管理人もご多分に漏れず、Rampageを見たことでクライミング観が大きく変化しました。その受けた影響をこの機会に記してみます。
Rampage - Full Film with Chris Sharma
Rampageの紹介
Rampageは、クリス・シャーマとオービー・キャリオンを中心とした4人のメンバーが一台のキャンピングカーに乗り込んで、アメリカ大陸西海岸のボルダーエリアを登りまくるロードムービー仕立てのクライミングフィルムです。
コースはロサンゼルスからスタートして東進し、アリゾナ州をタッチしてから北上し、カナダのスコーミッシュまで辿ります。
- Castle Rock キャッスルロック
- Black Mountain ブラックマウンテン
- Tramway トラムウェイ
- Priest Draw
- Lake Tahoe レイクタホ
- Humboldt County Beach
- Squamish スコーミッシュ
各ポイントをGoogle Map上でつなぐと、上図のようなルート概略になります。全長4500km程度で、北海道の宗谷岬から鹿児島の佐多岬までの道路距離2800km強よりも長いロードツアーです。(レイクタホの前にxgamesに参加してますが、場所がよくわからなかったので、ルートからは割愛してます。たぶんサンフランシスコの筈。。)
上に上げたクライミングエリアのうち、スコーミッシュはビッグウォールやトラッドクライミングで有名なので今でもよく有名クライマーの登攀記録を聞きますが、その他のエリアは聞き覚えのない人も多いんじゃないでしょうか。映像を見るとわかりますが、どのエリアも大きな岩がゴロゴロしているビッグエリアです。
自分達のとっておきのプロジェクトを嬉しそうに紹介するローカル達の表情が印象的です。ブラックマウンテンではグレッグ・ローが岩場を案内しながら、興奮を抑えきれずに「もっとプロジェクトがあるぞ!」とクリス達に告げます。クリス達はそれに応えるように、それらのプロジェクトを次々と初登していき、余りの強さにローカルクライマーも"Another future problem no longer in the future."と呆れてしまいます(未来の課題はもう残ってないよ、って感じですかね)。
フィルムのクライマックスは、ラストでスコーミッシュのV13課題をクリスが初登するシーンになりますが、個人的ハイライトはフィルムの中ほどでLake TahoeのAshtrayを初登するシーンです。今から見ると極端なハイボールではありませんが、存在感のある大きなハングしたボルダーでゴミのようなカチヘのデッドを止めるシーンは、当時ビギナーの管理人は度肝を抜かれました。そして、このプロジェクトを紹介したローカルクライマーは「この課題が登られるのを何年も待っていたんだ」と感動した表情を浮かべるのです。
自身のクライミングに与えた影響
ラインを自由に引く楽しさ
Rampageは自分がクライミングを始めて2年目の2000年に発売された映像作品です。初めて見たときに最も印象的に感じたのは、初めて相対した岩にラインを自由に引いていく楽しさが溢れている、ということでした。
当時の管理人のクライミングを振り返ると、何度かジムでのクライミングを経た後に、一緒にクライミングを始めた仲間となんとなく岩場で登るようになりました。岩場は主に御岳で、トポとして改版前の日本100岩場を持参してボルダリングをしていました。日本100岩場は、岩のイラスト上にフワッとラインが引かれ、課題を表現しています。このラインと実際の岩を見比べては、どのホールドからスタートしたらいいんだろうとか、この登り方だと右に行き過ぎかなとか、トポからは読み取れない如何ともし難い情報に悩みながら登っていました。各課題に初登者というのがいることは知っていましたが、特に意識することもなくトポ上の課題をトレースしていたのです。
Rampageのエンドロールを見るとわかりますが、クリス達が初登した課題の多くは課題名もなく(Unnamed)、グレードもありません(Ungraded)。そのやり方には当時賛否両論ありましたが、管理人はそこに、相対した岩との一期一会のコミュニケーションを楽しむ姿勢を感じました。彼らは、トポを見てラインを探して登るのではなく、岩を眺めて自分が登りたいと感じたラインを自由に登っていたであろうことは、想像に難くありません。
Rampageを見た後は、すぐにというわけではありませんが、先にあげたような課題のスタートホールドやラインについて思い悩むことが余り無くなっていきました。登る対象は変わらず既製の課題のトレースでしたが、その岩を自分で眺めてみて登りたいと思った登り方で登れれば、結果的に初登者の登り方と違ったとしても、岩と自分の関係性としては充分満足ができるようになったのです。
もちろん、岩登りのもう一つの楽しみ方として、岩と自分の関係性に閉じず、初登時のラインを知りトレースすることで初登者の経験を疑似体験することができるというタイムマシン的な要素もあります。管理人も、そのような楽しみ方は大好きですし、クラシックな課題では特に初登時のラインやムーブが気になって調べたりします。そんな時も、自分ならこう登りたいというラインを考え、初登者とのラインの見え方の違いに気づいて、その違いの理由を考えたりするのが楽しかったりします
クライミングツアーに対する憧れ
もうひとつ感じたことは、純粋にクライミングだけをやり続けるツアーに対する憧れの感情でした。東京近郊の岩場に閉じてクライミングを楽しんでいましたが、それだけではなく、長めの休みを取って関東圏外や海外へクライミングツアーに行きたいという思いが芽生えたきっかけだったと思います。
管理人の初めての海外クライミングツアーは、2004年Rampageの最終地点であるスコーミッシュと、バンフ近辺のリードクライミングエリアを巡るものでした。スコーミッシュの2日目に足を捻挫して参りましたが、アイシングして騙し騙し、結局ほぼ毎日登り続けてました。
また、2011年には、ブラックマウンテンにも行くことができました。このツアーでは、南カリフォルニアのボルダーエリア(ブリックヤード、パインマウンテン、ジョシュアツリー、ブラックマウンテン)をハシゴして、ロード感もたっぷり味わうことができて大満足のツアーでした。本当はRampageに出てくるトラムウェイも行くつもりだったのですが、ちょうどその時にトラム(ボルダーエリアまで上がるためのケーブルカー)が運休期間だったために行けなかったのは残念です。
この後は結婚して子供もでき、海外ツアーには行ってませんが、また子育てが落ち着いてきたら、どこか行きたいなと思っています。なかなか新型コロナウィルスの真の収束は見通せない状況ですが、いつかはこの自粛状態も解消し、再び岩場でクライミングできるようになるはずですので、その時にはまた刺激的なクライミングツアーを企画します。トラムウェイには是非リベンジしたいところです。
クライミングの特性に合った体幹トレーニングの考え方
covid-19による外出自粛要請が長引いており、いつか来る自粛解除を見据えて、自宅トレーニングを行う人が増えてきています。今回は、自宅でもできるトレーニングとして、体幹トレーニングを取り上げてみます。クライミングにおいては、よくある腹筋トレーニングの「クランチ」や「シットアップ」は必ずしも効率的ではないという考え方や、実際のトレーニング例を紹介します。
他の部位も含めたホームトレーニング例は、以前書いたこちらの記事も参考にしてください。
ホームトレーニングの解説集(covid-19による外出自粛対策) - May the friction be with you!
クライミング基本動作における体幹使用の特徴
体幹について、クライミングにおける動作の特性で考慮しておくべきポイントは、「腹筋を起点に上半身を折り曲げる動きは少ない」という事です。
先日販売になった木村伸介さんの「コンペで勝つ!スポーツクライミング上達法」には、クライミングの基本動作について、以下のように記述されています。
伸び上がる場合
1.足主導
足先からのパワーを臀部に伝える(中略)
2.臀部と背中
臀部と背中の対角線の動きを利用してパワーを生み出し、ボディ全体でホールドを取りに行く。(中略)
3.肩と肩甲骨
肩と肩甲骨を中心とした上半身をホールドの向きや次の動きに合わせ込み、体を利かせる。
足を開いたり上げたりする場合
(中略)上半身の力を使わずに開脚、足上げ動作を行なう。
このような基本動作を考慮した時、クランチやシットアップのように腹筋を起点とした上半身を折り曲げる動きは殆ど無い事がわかります。この際の体幹は、体の軸がブレないためのスタビライザーとしての役割が主になります。
例えば、伸び上がる際には、足から生じたパワーをロスなく次のホールドまでの動きへ伝達するために、体の軸がブレないようにするために体幹の力が使われています。また、その動きの間、四肢のうちの一本もしくは二本が壁から離れている事が多いですが、その際に体に生じる回転のモーメントに抵抗するのも重要な役割です。
注意が必要なのは、クランチやシットアップに近い動きが頻出するクライミングもあるということです。例えば、ワイドボーイズで有名なルーフワイドクラックのセンチュリークラックなどは、足でルーフクラックにぶら下がり、体を折り曲げて両手を組み合わせたジャミング(ハンドスタック、フィストスタック)を決めて前進していきます。また、ルーフに近い傾斜のスポーツクライミングにおいて、ニーバーやトウフックで両手を離してレストした状態から再びホールドをつかむ際なども該当します。そのようなクライミングを行う人で、クランチやシットアップの筋力が足りないと感じる人は、個別に鍛えるのもよいでしょう。
クライミングの基本動作をふまえたコアトレの考え方
クライミングコーチのSteve Bbchtelは、自身のサイトにて、クライミングの基本動作をふまえたコアトレーニングを類型立てて説明しています。
上記のページでは、コアトレーニングを大きく4つに分類しています。
- スタビリティ
基本的なプランクなど、四肢を地面につけた状態で体幹に力を入れて体をまっすぐ伸ばした姿勢を保つ。
- ダイナミックスタビリティ
プランクの状態から、四肢の一本もしくは二本を動かす。
- アンチローテーション
横方向からの負荷(ゴムバンド やウェイトなど)による回転のモーメントに抵抗する。サイドプランクの状態でゴムバンド を引っ張るなど。
- ヒッププレクション
足を胴体に近づける動き。バーなどにぶら下がって足を上げるなどハンギングレッグレイズなど。
ヒップフレクションを除くと、プランクのバリエーションが主になります。クライミングの書籍等でコアトレーニングにプランクが推奨されるのは、クライミングの基本動作から求められる動きに近いからなのです。
段階的なコアトレーニングの実例
実際に、上記の特性に合ったコアトレーニングを行おうとした際に参考になる動画を紹介しておきます。負荷の調整方法(膝をつけるなど)が段階的に紹介されているので、自分に合った負荷のトレーニングを選べます。
Train Your Core for Climbing: Level 1 (Beginner) // Dr. Jason's Quarantine Workouts
ビギナー編では、基本のプランク、サイドプランクと、それらのバリエーションとして片手、片足を離すやり方を紹介しています。
Train Your Core for Climbing: Level 2 (Intermediate) // Dr. Jason's Quarantine Workouts
中級者編では、回転や動きの要素が入ってきます。基本のプランクからサイドプランクへの回転やその逆、そしてプランクの体勢で手や足を動かすなど、実際のクライミングに出てきやすい動きです。
Train Your Core for Climbing: Level 3 (Advanced) // Dr. Jason's Quarantine Workouts
上級者編では、更に発展させて、基本のプランクから片手片足を同時に離したり、ウェイトやゴムバンド を使用することでより強い負荷をかける方法を紹介しています。
まとめ
自宅で過ごす時間が増えたとはいえ、トレーニングはできるだけ効率的に行った方が、体に過剰な負担もかからず、最大限の効果が得られるはずです。トレーニングメニューを組み立てる一助になれば嬉しいです。
おわりに
ここまで読んでいただきありがとうございました。お断りしておきますが、筆者はクライミング関連業務に従事しているわけではなく、医療関係者でもありませんので、記載内容を実際に適用される際には一次ソースを確認の上、自己責任でお願いします。
腱・靭帯を強くする栄養摂取(コラーゲンとビタミンC)
クライミングにおける栄養摂取については、観点はいろいろありますが、主に筋力増強の観点でプロテインやアミノ酸の摂取が議論されることが多いです。
一方、腱、靭帯などの軟部組織については、決定打にかける状況で、グルコサミン・コンドロイチン・MSMは賛否両論あり、コラーゲンはあまり摂取しても効果なし、というのがよく聞く評価であるように思います。
しかし、後者のコラーゲンについては、少し潮目の異なる研究結果が出始めているようです。一年ほど前にEric HörstさんがPhysiVantageという会社を立ち上げ、その主力製品として、軟部組織の回復・強化に効果があるというSuperCharged Collagenを打ち出していますので紹介します。
本記事は、Eric HrstさんのPodcastや、PhysiVantage社のページからの情報を再構成しています(以前書いていたブログに同じような内容を書いた記事をサルベージしました)。
腱・靭帯組織のおさらい
ざっくり言うと、腱は筋肉と骨を繋ぐ組織、靭帯は骨と骨を繋ぐ組織で、主に繊維状コラーゲンで構成されています。腱と靭帯の例を指の構造で考えてみます。
- 腱
指を曲げる筋肉は前腕の指屈筋ですが、筋肉組織は前腕の中だけで、手首のあたりで組織は腱になり、指先まで伸びて、第一関節や第二関節の骨に付着しています。筋肉が収縮すると、その動きが腱を通じて伝達し、指の骨が動きます。
- 靭帯
靭帯は、骨と骨を繋ぐ事で関節を構成しています。例えば指の関節は左右に殆ど曲がりませんが、これは両側面に靭帯があることで、動揺を防いでいます。また、クライマーに馴染み深い靭帯組織に腱鞘(プーリー)があります。先に挙げた指屈筋腱は、曲がる時に骨に沿って曲がれるように、骨に付着したリング型のさやの中を通っています。クライミングで指を痛める事を表す「パキる」は、この腱鞘が強い負荷によって断裂する事が原因である事も多いです。
腱・靭帯の再合成
腱とか靭帯は自然治癒しないと聞いたことはありませんか?完全断裂してしまって手術が必須な場合もありますが、部分断裂などでは必ずしも当てはまらないようです。例えば腱鞘が部分断裂しても、数か月という長いスパンですが自己修復しますし、トレーニングにより長い年月をかけてより大きく強く成長もします。
過去のクライミング関連書籍での情報
またまた新井祐己さんの登場ですが、ハードコア人体実験室においては、コラーゲン自体を摂取する必要性はあまりないという結論となっています。
コラーゲンの合成には材料となるアミノ酸が必要ですが、これはしっかり食事なりホエイなりでタンパク質を補給できていれば特別足らないってことはありません。まあ、コラーゲン自体はかなり偏ったアミノ酸組成なので、直接コラーゲンを摂ってあげたほうが気分的にいいかもしれませんけどね。
(中略)それより重要なのはビタミンC。コラーゲンは三つ編み構造でして、それを編み込むときに中心にビタミンCが必要なのです。
Rock&Snow No.024 「新井裕己のハードコア人体実験室[第3回]」 山と渓谷社
コラーゲンを食べても、体内でアミノ酸に分解されて、タンパク質へ再合成されるので、肉やプロテインの形でタンパク質を摂取して体内でアミノ酸に分解されるのと一緒、むしろコラーゲンの再合成時に必要となるビタミンCを積極的に摂取したほうが良いという趣旨です。
最新の研究状況の紹介
管理人も長らくコラーゲンについては積極的な摂取はしておらず、マルチビタミンでビタミンCを摂取するようにしていました。しかし、ハードコア人体実験室で言及されている「コラーゲン自体はかなり偏ったアミノ酸組成」というところが、実は重要なのであないかということを示唆する研究結果が出始めているということを、Eric Horstは紹介しています。
コラーゲンのアミノ酸組成
コラーゲンを構成するアミノ酸において特徴的なのはグリシン、プロリン 、ヒドロキシプロリンというアミノ酸です。グリシン1/3、プロリンとヒドロキシプロリンが21%を占めていますが、これらはコラーゲン以外の食品にはわずかしか含まれていません。
そして、コラーゲンを摂取して30分~1時間すると、血中のグリシン、プロリン、ヒドロキシプロリン濃度が大きく上がる(スパイクする)ことが確認されています。
腱・靭帯におけるコラーゲン再合成
腱・靭帯組織の再合成は、筋肉組織の再合成と少し異なる点があるため、明確にしておきましょう。
筋肉の再合成については、運動後にタンパク質を摂取することがベストプラクティスとして普及しています。タンパク質はアミノ酸に分解されて血中に流れ込みますが、筋肉組織は周辺に血流が豊富なため、周辺の血管から再合成に必要なアミノ酸を取得できます。
一方、腱・靭帯組織の特徴として、血流が乏しいということが挙げられます。これはどういうことかというと、運動後にコラーゲンを摂取した場合、再合成に必要なアミノ酸(グリシン・プロリン・ヒドロキシプロリン)の血中濃度が上がっても、腱・靭帯組織に行き渡らないということを意味しています。
では、腱・靭帯組織にどうやって再合成に必要な栄養を行き渡らせるかというと、運動前にコラーゲンを摂取する必要があるというのです。
腱・靭帯組織は負荷をかけると引き伸ばされ、負荷をゆるめると縮みます。この縮むタイミングで、腱や靭帯を取り囲む組織から滑液という液体が流れこみますが、腱・靭帯の栄養はこの液体に頼っている部分が多いのです。負荷をかけることで、必要なアミノ酸を含んだ滑液が腱・靭帯に流れ込みます。
まとめると、運動の30~1時間前にコラーゲンを摂取し、血中のグリシン・プロリン・ヒドロキシプロリン濃度を上げた状態で運動することで、腱・靭帯に滑液経由で染み渡らせるようにすることがポイントになります。コラーゲン摂取しない場合に比べ、コラーゲン合成が2倍になった研究結果もあります。
サプリメントでの摂取
以上をふまえ、クライミングやリハビリ前の30分~1時間前にコラーゲンを摂取することをEric Horstが推奨しています。コラーゲンは加水分解コラーゲンペプチドをビタミンCと一緒に摂取します。
冒頭で紹介したPhysiVantage社は、SuperCharged Collagenという製品を販売しています。主成分はコラーゲンペプチドで、ビタミンCとBCAA、トリプトファンを配合しています。
PhysiVantage Supercharged Collagen for Climbers and Power Athletes
試してみたいと思いつつ、若干値段が高いのと、アメリカからの送料がバカにならないので購入したことはありません。BCAAとトリプトファンは、コラーゲン再合成の観点では必須の成分でもないはずですので、管理人はiHerbでビタミンC配合のコラーゲンペプチドを購入して愛用してます。下記リンクは5%オフですので、興味のある方はどうぞ。
効果の実感と注意事項
摂取し始めてから凡そ半年経ちましたが、ぶっちゃけ明らかな効果は、体感まではできていないです。そもそも腱・靭帯の再合成は時間のかかるものであり、その時間をできるだけ早く促進する効果を期待するものなので、個人のレベルでは体感があったとしてもプラセボレベルかなと思います。
しかし、研究レベルでのエビデンスは集まりつつある状況(PhysiVāntage - Research References)で、アーリーアダプター的にチャレンジしてみる価値はあるんじゃないかと思います。
注意事項として、飽くまでサプリメントであって医薬品ではなく、飲んだら故障が治る魔法のような製品ではないので注意が必要です。必要な栄養素とタイミングを考慮するのに加え、適切なトレーニングと、何よりも組織が回復するための充分な休養を取ることに努めましょう。
まとめ
- 腱・靭帯組織も筋肉組織と同様に再合成可能であり、トレーニングによる強化も可能だが、回復には時間がかかる
- 腱・靭帯組織はコラーゲン主体の組成となっている
- コラーゲンを構成するグリシン・プロリン・ヒドロキシプロリンはコラーゲンを摂取することで効率的に摂取できる
- コラーゲンとビタミンC摂取してから運動することにより、血流に乏しい腱・靭帯組織に対し、滑液経由で適切な栄養を染み渡らせることができる
おわりに
ここまで読んでいただきありがとうございました。お断りしておきますが、筆者はクライミング関連業務に従事しているわけではなく、医療関係者でもありませんので、記載内容を実際に適用される際には一次ソースを確認の上、自己責任でお願いします。
自宅でできるピンチトレーニング
今回は管理人が自分で行ったクライミングトレーニングの話です。昨年末から両中指の第一関節(PIP)が炎症を起こしていて、フルクリンプ・ハーフクリンプを本気で握ると痛みが出ます。オープンハンドやピンチグリップは殆ど痛まないので、それらのトレーニングを行っており、本日はピンチグリップのトレーニングを紹介します。
ホームトレーニングの解説集(covid-19による外出自粛対策) - May the friction be with you!
で、Covid-19の感染拡大を受けて、さまざまなトレーニング情報がシェアされているという話をしました。日本でも、外出自粛要請をふまえてか、自宅にフィンガーボードなどを設置するクライマーのツイートがちらほら見られますが、ピンチグリップの自宅トレはあまり見かけないので、この機会に紹介します。
といっても、ピンチホールドに重りをぶら下げて保持するだけの話です。ご存じの方は読み飛ばしていただければと思います。自宅での準備が比較的容易なツールなので、フィンガーボードを取り付けるのであれば、合わせて導入するといいと思います。
トレーニングのやり方
冒頭に書いた通り、ピンチホールドに重りをぶら下げて保持します。
実際のクライミングでは、腕を肩より上に上げて保持するシーンが多いので、完全にクライミングの動作特殊性に沿ったトレーニングではありません。しかし、ホームトレーニングでフィンガーボードにぶら下がる動きばかりしているのは肩に負担がかかり、必ずしもよいとは言えません(実際のクライミングを想像してみると、両腕が共に肩より上にあるシーンは意外と少ないことがわかると思います)。そのため、ホームトレーニングにおいては、腕を下げた状態で前腕のみをターゲットとしたトレーニングも組み入れた方がよいと、Tom Randollは言っています。
必要な道具
- ピンチホールド
- カラビナ1枚
- スリング、ロープなど
- 重り
ピンチホールド
専用の器具を買ってもいいですし、自作も簡単にできます。上の写真ではGstringという器具を使いましたが、もう少し広い幅のトレーニングも行いたいと思い、ホームセンターで購入したツーバイフォー材を張り合わせたピンチブロックも作りました。
ツーバイフォー材をホームセンターでカットして穴まで空けてもらえれば、あとは木工用ボンドで貼り付けて、スリングを通すだけで出来上がりです。
もちろん専用の器具を買ってもいいです。保持面にアールがついていてエルゴノミックなので、痛みなどのストレスは少ないですし、クリンプホールドも付いているので、道具一つで多くのホールディングに対応できるのがメリットです。Tension climbingが有名ですが、Lattice Trainingが新しくピンチブロックを発売しており、オンラインアセスメントとその内組み合わせてきそうで注目です。
上記のインスタ記事ではBFR(血流制限)トレーニングとの組み合わせも推奨されてます。BFRトレーニングは以下の記事でまとめてますので参考にしてください。
重り
ぶら下げる重りはなんでもいいのですが、重量を調節できた方がよいので、ダンベルなどがあればそのプレートを使うのがよいです。それがなくても、ペットボトルに水を入れてカバンなどに詰めても十分だと思います。下のFacebookリンクなど、極めてコスト安です。
アセスメント
トレーニングに先立って、自分が持ち上げられる限界重量は見極めて、トレーニングの目的に沿った適正重量を決められるようにしておきます。何度か重量を変えて保持してみて、10秒で限界になるくらいの重量を確認しておきましょう。
何度も重量を変えて試行錯誤する必要がない方法として、体重計を利用してピンチ力を計測する方法もあります。ぶら下がれるバーなどがあれば、そこにピンチブロックをぶら下げて、体重計に乗ってピンチブロックを思い切り引くと、体重計の目盛りが減りますので、自分の体重との差分がピンチ力になります。これはMAX100%の数値になるので、トレーニングは9割くらいの重量で行うとよいでしょう。
自分の場合、左右ともに10.0kgくらいでしたので、9kgの重量をぶら下げてトレーニングしてます。
トレーニング負荷やプロトコルについては、エネルギーシステムを意識したクライミングトレーニング(ATP-CP機構 vol.2) - May the friction be with you!に記載した内容が、ピンチトレーニングにおいても適用可能ですので、参考にしてください