3-6-9ラダー方式でハングボードトレーニングを4週間やってみた結果

以前、4月から保持力トレーニングを本格的に開始することを書きました。ストレングス、パワー・エンデュランスの3フェーズにわけて、4月~7月にかけて実施予定です。

 

2021年1月~3月の振り返り/4月~7月の計画 - May the friction be with you!

 

5月半ばに、ベースとなるストレングス強化フェーズが終わりました。今回は、その際に実施した保持力トレーニング内容と結果をまとめておきます。

 

レーニング方式(3-6-9ラダー)の解説

今回実施したのは、3-6-9ラダー(3-6-9 Hangboad Ladders)という方式です。1週間に2回、4週間で8回のセッションで、オープンハンド、ハーフクリンプ、フルクリンプそれぞれの保持力を強化します。

考案したのは、Steve Bechtelというアメリカのクライミングコーチ・ストレングス&コンディショニングコーチです。

実施方法や注意点などの詳細は以下のページにまとまっています。本記事ではポイントだけまとめます。

www.climbing.com

まずトレーニングに使用するホールドと負荷重量を決める

ハングボードを使用した保持力トレーニングにおいては、主に以下の3点で、トレーニング負荷を調整します。

  1. ハングボードを保持している時間(長ければ長いほど負荷が高い)
  2. ホールドのサイズ(小さければ小さいほど負荷が高い)
  3. ハーネス等でぶら下げる重りの重量(重ければ重いほど負荷が高い)

3‐6‐9ラダーの特徴は、1番目の時間で負荷を調整することです。裏返すと、ホールドサイズと重量は、4週間のトレーニング期間中ずっと変更しません。そのため、トレーニング開始前に、使用するホールドサイズと重量を決めます。

具体的には、保持できる時間が10秒~12秒で限界となるようにします。

ホールドサイズが大き過ぎると、重りが重くなり過ぎて煩わしいです。また、小さ過ぎると、こんどは指皮が痛くなってトレーニングの集中を妨げます。10㎜~20mm程度のホールドサイズで、重りが重くなり過ぎない範囲に調整するとよいでしょう。

1日目のトレーニングメニュー

決定したホールドサイズと重量で、トレーニングを行っていきます。 基本となる1日目のトレーニングメニューは以下のようになります。

まず、オープンハンドでホールドを3秒保持(ハング)します。10秒~60秒レストし、次は6秒保持します。再び10秒~60秒レストして、今度は9秒保持します。

これで1セットが完了です。1セットの中で、3秒、6秒、9秒と、階段を登っていくように時間が増えていくので、3‐6‐9ラダーという名前が付いています。

1セットが終わったら、長めのレストを取ります。3~5分程度がよいでしょう。レスト後に再び3‐6‐9のセットを行い、合計3セット行います。

オープンハンドは以上で終了です。その後、フルクリンプ、ハーフクリンプについて、それぞれ同様に3セット行い、1日のメニューが終了となります。

  

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保持時間の最大値が9秒となっているため、限界値である10〜12秒に対し、1〜3秒の余裕(マージン)があります。限界ギリギリまで保持しないことで、怪我のリスクを下げています

4週間かけて徐々に回数・秒数を増やしていく

レーニングの原則にの1つに漸進性過負荷の原則があります。体にかかる負荷を少しずつ増やしていくことで体力を向上させていく、ということです。

3‐6‐9ラダーでも、トレーニング負荷を4週間かけて徐々に増やしていきます。先に述べたように、ホールドサイズと重量は変えず、トータルの保持時間(セット数や1セットあたりの秒数)を増やしていきます。

最初の3週間は、1週間毎にセット数を増やしていきます。1週目は3セット、2週目は4セット、3週目は5セットです。

 

 

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最後の4週目は、1セットあたりの秒数を増やします。3週目までは3-6-9でしたが、4週目は3-6-9-12になります。9秒保持した後に、再び10〜60秒レストして、12秒保持することになります。代わりに、セット数は3セットに減らします。そのため、トータルで保持する秒数は、3週目と4週目で変わりません(ホールディング毎に90秒)。

実際に行ってみた内容

対象としたホールディング

左手のフルクリンプはまだリハビリ中のため、実施対象はオープンハンドとハーフクリンプのみとしました。

ホールドサイズ

Lattice Testing and Training Rungsの20mmを選択。このサイズだと、重りをハーネスにぶら下げなくても12秒保持できず。プーリーを使用して抜重し、-2.5kgが12秒ギリギリぶら下がれる重量となりました。

レスト時間

セット中のレスト時間は10〜60秒となっています。メニューを全てやり切れるレスト時間を見極めるには少し試行錯誤がいるでしょう。

3秒ハングと6秒ハングの間は短く、6秒ハングと9秒ハングの間は長くすると、全体の時間が長くなり過ぎず、且つ回復に充分な時間が確保できます。3秒ハングの開始時間から数えて、20秒のタイミングで6秒ハングを開始、60秒のタイミングで9秒ハングを開始すると、1分ちょっとで1セットが終わります。

 

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実施結果と所感

実際に4週間3-6-9ラダーをやってみた結果と所感をまとめておきます。

保持力の変化

実際に保持力が強化されたかどうか確認するため、レーニング期間の前後で、保持力を測定しました。

測定方法は、以下の記事で紹介したデジタルクレーンスケールを使用するやり方です。

takato77.hatenablog.com

重量を測定できるデジタルクレーンスケール(バネばかり)を、ぶら下げ型ハングボードに取り付け、ハングボードを全力で引きつけます。これにより、特定の大きさのエッジに対して発揮できる保持力の最大値を測定します。

測定に使用したのは、i-VOUの18mmエッジです。3本指のオープンハンドと4本指のハーフクリンプでそれぞれ測定しています。

以下が測定した結果のグラフです。

 

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上昇の幅に差はありますが、どのパターンでも一定の強化はできているようです。左手がリハビリ明けなので、左右差がかなりありますね。

今後もストレングス強化のフェーズで実施したら、結果を追記していくつもりです。

 

体を追い込み過ぎずに保持力アップが可能

3‐6‐9ラダーの強度は、腱/靭帯などを痛めにくく、且つ保持力アップが可能な、ちょうどよい強度に設定されていると感じました。

保持時間が10-12秒で限界となるホールドというのは、指に怪我をしていない人であれば、それほどハードに感じないはずです。さらに、実際のトレーニングでは、3週目までは9秒までしか保持しないので、限界まで1秒~3秒の余裕があり、更にリスクを低くしています。

4週目は12秒まで保持時間が伸びます。この段階では、既にある程度保持力が強化されており、12秒は限界ではないはずです。そのため、12秒保持しても故障のリスクは低いでしょう。

体を追い込み過ぎないので、レーニングと平行して岩場やジムでのクライミングも問題なく行えます。4週間の間に、岩場でのボルダーに5回、ジムでのクライミングに2回行き、パフォーマンスの低下や指の違和感は感じませんでした。

Recruitment Pullsのような高強度トレーニングでは、回復まで4日かかった例もあり、高頻度でのクライミングを控える必要が出てきます。クライミングでもそれなりにパフォーマンスを出したい時には、3‐6‐9ラダーはよい方式ではないでしょうか。 

1日当たりでトレーニングに必要となる時間は長め

こちらはデメリットになります。3‐6‐9ラダーでは、1日あたりのトレーニング時間は長めです。最も時間が多くなるのが3週目で、5セット行うために大体75分程度必要です。

このボリュームだと、クライミングジムでウォームアップの仕上げに少し実施、といった感じで行うのは難しいでしょう。クライミングとは別の日に個別にスケジュールしたり、クライミング後に4~6時間あけて実施するなど、スケジューリングの工夫が必要になります。

Eric Hörstが推奨している7-53プロトコルだと、レストを入れても20分くらいで終わります。日常生活が忙しい人や、クライミングにもっと時間を割きたい人は、こちらを選択するのも手です。