ストレングスだけではなくパワーも鍛える

ライミングのトレーニングについて書籍やオンライン記事を読んでいてよく出てくるのが「パワー」と「ストレングス」という言葉です。

以前の記事(クライミングの特殊性を考慮した懸垂のバリエーション - May the friction be with you!)でも少し触れたのですが、同じような文脈で使ってしまいがちなこの2つの言葉は、明確に違う意味を持っており、それに伴って「パワー」の鍛え方と「ストレングス」の鍛え方も違います。

ステイホーム期間中に流行ったフィンガーボードや懸垂は「ストレングス 」の強化に偏りがちですが、仕上げに「パワー」も鍛える事でより効果を高める事ができます。

ストレングスとは

ストレングス(Strength)の意味は英和辞典を見ると、「強さ」や「力」といった意味があり、クライミングを含めた運動全般の文脈では後者の「力」の意味で使われます。実際に運動を駆動するのは筋肉なので、「筋力」と言ってもいいでしょう。

筋力=ストレングス を測る単位はkgになります。ストレングスを測る単位はkgになります。筋力トレーニングでは、1回ぎりぎり動かすことができる重量を1RM(1 Repetition Maximum)と言い、最大筋力の指標になります。例えば自分の体重が60㎏として、30kgの重りを加えて懸垂をぎりぎり一回できるのならば、懸垂の1RMは90kgです。

筋力を高めるためには2つのアプローチがあります。中強度中回数の負荷で筋線維の断面積を太くする「筋肥大」と、高強度低回数の負荷で神経系の活動を活発化する「筋動員の向上」です。懸垂を20回×3セット行えば筋肥大に効き、3回程度で限界となるように重りを背負って行えば筋動員向上に効いてきます。

パワーとは

パワーは一般的に、以下のように表現されます。

 

パワー=ストレングス×スピード

 

スピードという要素が入ってくるのがポイントです。単位としては、kg・m/sとなります。

 

ここで、運動とスピードの関係について考えてみます。先ほど挙げた懸垂を1RMの負荷で実施する時を考えてみると、非常にゆっくりな動きになります。

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力ー速度曲線(ちからそくどきょくせん)

上の図の力ー速度曲線で考えてみると、1RMの懸垂はストレングス がFmaxになり、スピードは殆ど出ていません。しかし実際のクライミング動作を考えてみると1RMの懸垂のようなゆっくりな動きだけではありません。デッドポイントやランジのようなダイナミックムーブは、高スピードで動く勢いによって、低スピードでは届かないホールドをキャッチしますので、スピードが重要になります。このような動作では、図のF1とV1のように、ストレングスは小さくスピードは大きくなります。そしてF1とV1を掛け合わせたものがパワー(P1)となるのです。

パワートレーニン

パワー=ストレングス ×スピードなのであればストレングスを鍛えればパワーも強くなるのではと思います。一面ではその通りなのですが、単純にそれだけでパワーが最適にトレーニングできるとは言えないのです。

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力ー速度曲線のシフト(ストレングストレーニングのみ)



再び力ー速度曲線で考えると、ストレングストレーニングによりFmaxが大きくなると、グラフが少し右にシフトします。これを見ると、同じ力F1で実現できるスピードV1'は確かに大きくなっています。しかし、ランジで距離を出すためにもっとスピードを出したいというような時には、できればグラフは以下のようになって欲しいのではないでしょうか。

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力ー速度曲線のシフト(パワートレーニングも実施)



実は、目的としている運動に沿ったスピードを意識してトレーニングすることで、上のグラフのようにスピードを向上させる事ができます。スピードを意識したトレーニングでは、筋収縮で発生したエネルギーを運動に効率的に変換するために必要となる、腱・靭帯などの軟部組織の適応や体幹の適応が起こります。ストレングストレーニングでFmaxを向上させた後に、スピードを意識したパワートレーニングが必要であるのはこのためです。

スピード・ストレングス 

パワーの単位はkg・m/sという話をしましたが、mは運動によって動く距離になります。懸垂では、肩の位置が50センチくらい上がるので、その距離が該当しますが、フィンガーボードではどうでしょうか。ぶら下がっている間、指の形は動いていないので、距離はゼロになり、パワーもゼロになります。フィンガーボードのようなアイソメトリック運動は、パワーではうまく表現できないのです。

しかし、クライミングのデッドポイントでは、ダイナミックに細かいホールドを保持するために、瞬間的(数十〜数百m秒)に力を発揮する必要があり、やはりスピードは重要な要素になります。このような場合、視点を少しミクロに変えて、筋線維の収縮するスピードに着目します。見た目の運動距離はゼロでも、筋線維が爆発的に収縮する事で瞬間的に力が発生します。このような概念をスピード・ストレングス といいます。

ライミングの用語ではコンタクト・ストレングス (接触筋力)がそれにあたります。パワーという言葉はついてませんが、パワートレーニングと同様にスピードを意識したトレーニングで鍛える事ができます。

ライミングにおけるパワートレーニングの例

フィンガーボードで単純にデッドハングを行ったり、スピードを意識しないで高重量の懸垂などを行っていると、ストレングスのみにトレーニング負荷が偏り、実際のクライミングで必要となるパワー要素のトレーニングが不足します。パワー要素のトレーニングに有効なプロトコルの例を紹介します。

リミットボルダリング

1つ目は実際のクライミングです。特にパワー要素に注力した限界レベルのボルダリングを行います。この際に、純粋なパワーを鍛えるため、1,2手の極めて厳しいダイナミックムーブを含む短い課題にトライするようにします。限界のボルダーと言っても、6~7手の少し厳しいムーブが続くことで落とされる課題もありますが、そのようなものは純粋なパワーのトレーニングには適しません。

Speed Pulls

フィンガーボードでコンタクトストレングスを強化するトレーニングです。以下の動画を見るとわかりますが、かなり地味なトレーニングになります。
 


Speed pull 2-arm

フィンガーボードにぶら下がる際に、じわっと力を込めるのではなく、瞬間的に力を入れてぶら下がります。ぶら下がる時間は1~3秒と短く、10秒程度のレストを挟んで6~8回程度ぶら下がります。

キャンパシング

パワートレーニングの王道です。キャンパシングは、Speed Pullsのようにコンタクトストレングス を鍛える側面と、懸垂のような引き付け力のパワーを鍛える側面と両方あります。そのため、コンタクトストレングスを主に鍛えたいのか、引き付け力を主に鍛えたいのかにより、ラングサイズも変わってきます。1段上がるのがやっとのラングサイズでキャンパシングすると、コンタクトストレングスの強化にはなっても引き付けパワーの強化にはならないということです。

まとめ

  • ストレングストレーニングは筋力を増強するが運動スピード向上の効果は限定的
  • ライミングの動作に必要となるスピード要素を含んだパワートレーニングを行うことで運動スピードの向上に寄与する
  • 保持力についてもパワートレーニングと同様に筋力発揮スピードを強化するスピード・ストレングストレーニングを行うことが効果的

具体的なトレーニング方法はオーソドックスなものが多いですが、理論の整理としてまとめてみました。ルートクライミングを好む人などは、ステイホーム期間があけたらすぐに持久力トレーニングを行う人なども多いと思いますが、パワーを意識したトレーニング期間を設けることで更なる効果を得らえることもありますので参考にしてください。

参考文献

ライミングにおけるパワートレーニング例の紹介(Andersen Brothersのページ)。

www.google.com

 

Speed Pullsのプロトコル解説(Tyler Nelsonによる記事)。ビギナーとエキスパートに分けて、セット数、レップ数の推奨値も記載。

www.trainingbeta.com

 

スピード・ストレングスについての解説

sandcplanning.com

【ジャミングテクニック】リングロックの2つのやり方

書籍「CRACK CLIMBING」内のアンケート集計 - May the friction be with you!

で紹介した、Pete Whittakerの著書「Crack Climbing」を細々と読み進めています。本当に使う機会があるのかわからないマニアックなテクニックも紹介されてますが、基本的なジャミングテクニックについても今まで意識していなかった細かなコツが紹介されていて参考になります。

 

Crack Climbing: The Definitive Guide (Mountaineers Outdoor Expert)

Crack Climbing: The Definitive Guide (Mountaineers Outdoor Expert)

  • 作者:Whittaker, Pete
  • 発売日: 2020/01/01
  • メディア: ペーパーバック
 

 

今回はその中から、リングロックについて個人的に新たな知見があったので、自身の備忘も兼ねてまとめます。

 

リングロックとは

クラッククライミングは割れ目の幅のサイズに沿って、フィンガー、シンハンド、ハンドというように異なったジャミングテクニックを用います。リングロックは、フィンガーとシンハンドの間くらいのサイズで有効なテクニックなので、指の太さにもよりますが、キャメロットの紫くらいの割れ目で出番があるテクニックです。

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(左下から)エイリアン赤、キャメロット紫0.5、キャメロット緑0.75

通常のフィンガージャムは人差し指・中指・薬指をクラックに差し込んでから、ひねることでスタックさせますが、割れ目の幅が広くなると緩くてスタックしなくなるので、下から親指も差し込んでジャミングのサイズを広げることでスタックさせます。

 

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リングロックの原理

このサイズの広げ方について、今まで管理人が認識していた方法と、「Crack Climbing」で紹介されていた方法を2つ紹介します。

スライド式のリングロック

管理人が今まで認識していたリングロックのやり方は以下の通りです。

  1. 親指の腹をクラックの淵にあてがう
  2. できたV字の隙間に人差し指、中指、薬指を落とし込む
  3. 通常のフィンガージャムと同様に、小指方向へ手をひねってスタックさせる

 

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スライド式のリングロック

3の際に、親指は上方向へ、その他の指は下方向へ互い違いに滑らせるようにしてスタックを強く効かせるので、便宜的にスライド式のリングロックと呼ぶことにします。この時親指の第一関節はクラックの淵に当たらず浮いています。

今まで管理人が見てきた参考書やweb上の動画はこのやり方が多かったと思います。山渓登山技術全書のフリークライミングがそうですし、Peteと一緒にWIDE BOYZとして活動しているTom Randallも、ワイルドカントリー社のクラック講習動画でそのように解説しています。


Wild Country Crack School - Episode 7 - Advanced Fingers - with the Wide Boyz

エクスパンション式のリングロック

一方、「Crack Climbing」では以下のやり方を紹介しています。

  1. 親指の腹をクラックの淵にあてがう
  2. 親指の関節をクラックの逆の淵にあてがい、突っ張り棒のようにエクスパンションさせる(広げる)
  3. 親指の上に人差し指・中指・薬指を落とし込む
  4. 通常のフィンガージャムと同じ様に、小指方向へ手をひねってスタックさせる

 

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エクスパンション式のリングロック

この方式では、クラック内で親指が突っ張り棒のような支点となり、その上にフィンガージャムを決めるようになります。便宜的にエクスパンション式のリングロックと呼ぶことにします。

Twitterでジェリーさんがコツを解説してくれています。

親指を奥に入れ過ぎると、親指の第一関節を曲げる力が抜けてエクスパンションが効かなくなるので、浅目に決める方がよさそうです。

2方式の比較

支持力

自作のプチクラックボードに重りをぶら下げて、支持力を評価してみました。

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7秒保持できる限界の重さは、スライド式が15kg、エクスパンション式が17.5kgで、エクスパンション式の方が若干支持力があるという結果になりました。足ブラでは到底ぶら下がれませんが、しっかり足を踏んで荷重を分散できれば、若干傾斜があっても前進することができそうです。

参考までに、管理人の9.5cm幅ワイドピンチの保持力は16kgなので、ワイドピンチと同程度の支持力となります。

決めやすさ

エクスパンション式の方が、親指を突っ張る一手間が増えるので、ジャミングの決めやすさはスライド式に軍配が上がります。スピード重視でパッパッと手を出していくときはスライド式、確実にスタックさせて動きたいときはエクスパンション式なんていう使い分けもできそうです。

呼称(リングロックかサムスタックか)

スライド式とエクスパンション式のリングロックの違いは、クラッククライミングの本場アメリカでも話題になっていました。

www.mountainproject.com

リンクしたMountainProjectのフォーラムでは、親指の第一関節を曲げるエクスパンション式をリングロック、第一関節を曲げないスライド式をサムスタックと呼んで区別する意見が多かったですが、しっかりしたコンセンサスは無さそうでした。

まとめ

  • リングロックにはスライド式とエクスパンション式の2方式がある
  • 正しく決めることで、エクスパンション式もスライド式と同等かそれ以上の支持力を得られる
  • ジャミングを決めるスピードはスライド式の方が若干早区決めることが可能

呼称と定義は若干まちまちですが、スライド式とエクスパンション式という2つのリングロックがあることと、それぞれメリットデメリットがある事を知っておけば、意識して練習することができます。クラッククライミングを行う人は参考にしてみてください。

【アンケート番外】保持力とクライミンググレードの相関研究論文

前回まで3回にわたり、Beastmakerのぶら下がり時間や懸垂回数とクライミンググレードの関係について、アンケート結果をまとめました。新型コロナウイルスの拡大に伴ってBeastmakerのフィンガーボードを自宅に設置した人が増えたことを見込んでアンケートを行いましたが、実はこのような調査は、簡易な調査からシステマティックな研究まで過去に何度も行われています。今回のアンケート結果と見比べてみると面白いので、3つ紹介します。Latticeを除く2つは、web上で結果もすぐ見られるので、興味のある方はやってみてください。

Lattice Trainingによる研究

おそらく発表済みの研究で最新のものは、Lattice TrainingのOlie Torrが論文として発表したものになります。

www.researchgate.net

こちらの調査は、Lattice Trainingが販売しているハングボードを使用し、片手で5秒間保持できる限界重量を測定しています。重量は、自分の体重に重りを加えたり、プーリーで負荷を軽くしたりして調整します。

研究の本来の目的は、クライマーの保持力を測定するための測定方法として、この方式の信頼性を確認することとなっています。その中で付随的に、保持できる重量とクライミンググレードの関係性も確認しています。散布図や近似曲線はありませんが、相関係数は5.0以上で、それなりによい相関が確認できているという結果になっています。

Lattice Trainingは、データドリブンなクライミングレーニングとアセスメントの提供を強みとしており、上記のような論文の他にも自社のウェブサイトで様々なインサイトを紹介しています。以下の記事でまとめていますので参考までに。

takato77.hatenablog.com

 

 

redditで実施されているアンケート調査

https://toclimb8a.shinyapps.io/maxtograde/

こちらは非常にライトな調査で、18mm〜20mmのエッジであれば製品も問わず回答可能です。そして結果もすぐに確認することができます。

重りをハーネス等で体に装着して、18mm〜20mmのエッジに10秒ぶら下がります。Lattice Trainingの調査と同様に、装着できる重りの最大重量を回答します。すると即座に、過去に回答した2000人以上のデータと合わせて、保持重量とグレードの散布図が表示されます。

現時点で2000人以上が回答しています。投入誤りと思われる回答もそれなりにある(体重の5倍近くの重さを保持できるとか、V17登った人が10人近くいるなど)ものの、全体的な傾向がよく見える結果になってます。

傾向は管理人が実施したアンケートと同様です。全体的には保持力が上がるにつれてグレードが上がる傾向があるものの、同一グレードでも保持力のバラつきがかなりあるという結果です。

Climbing Strength Calculator

こちらは、体重を入力するだけで、あるグレードを登るために必要な保持力を推定して表示してくれるツールです。

beastfingersclimbing.com

コロラドのハングボードメーカーが、過去に自社のハングボードを使用して行った調査結果を元に推定しています。例えば体重66kgと入力すると、グレードと保持力の対応表が表示され、V7であれば片手で41kg保持できるといいよ、なんてことがわかります。注意点としては、こちらはフラットエッジではなく、15度にインカットした20mmエッジでの保持力となってます。

過去の調査結果は論文もPDFも公開されていますので参考に。

https://static1.squarespace.com/static/56830ef60ab377cb562da204/t/5d115bf55f2b9e0001a25faa/1561418760351/BF_strength_climbing_correlations-MAR282018_web.pdf

 

Beastmakerぶら下がり時間アンケート結果Part3

Part1、Part2からの続きです。今回は懸垂回数とグレードの関係を確認します。Part1、Part2を見ていない方は先にそちらを見ていただくと理解が早いと思います。

 

takato77.hatenablog.com

takato77.hatenablog.com

全体の傾向

Part2と同様に、まず限界RPグレードとの関係を例に確認していきます。

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緩やかな右肩上がりで、概ね14mmエッジと似たような傾向に見えます、同一回数の懸垂ができる人の間でも大きくグレードがバラつく結果になりました。そして、統計的な観点で言うと、P値が0.3で有意水準5%を満たしませんでした。つまりデータからは、懸垂回数とRP限界グレードの間の相関があるとは言い切れない結果となっています。

目立つ点としては、グラフの丸で囲んだあたりで、ハイグレードの人の懸垂回数は15〜20回くらいにあり、それ以上の30回くらい懸垂ができるグループでも、グレードには直結していないように見える点です。仮説として、懸垂のような垂直方向の引き付け力は、一定以上の力があれば、それ以上はグレードに寄与しない可能性がありそうです。

ライミング嗜好でグループ分け

Part2と同じく、ボルダリングしか行わないグループ(A:回答数30)とそれ以外のグループ(B:回答数19)で分けて分析します。

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(A)ボルダリングしか行わないグループ

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(B)それ以外のグループ



14mmエッジのぶら下がり時間よりさらに傾向は顕著で、Aグループでは相関がほぼ見られない結果になった一方、Bグループでは相関係数の5%水準を満たしており、相関がありそうという結果になっています。AグループとBグループを合わせた全体のデータにて相関が見られなかったのは、Aグループの結果に引きずられている可能性が高いです。

全体ではこれも仮説ですが、ルートクライミングでは、上方向に引きつける動作を延々と繰り返すことが多いため、より強く相関が出ている可能性が考えられます。

相関関係と因果関係

今回、懸垂回数とグレードの相関を確認してきましたが、因果関係までは言及できていない事は注意が必要です。懸垂回数が多いから高グレードが登れるのか、高グレードが登れる人は懸垂回数が多いのかは、データからだけでは判断できません。これはPart2の14mmエッジぶら下がり時間についても同様です。

とはいえ、フィンガーボードや懸垂は数十年にわたり過去のクライマーが行なってきた基礎トレーニングですし、クライミング動作に近しい動きのフィジカル数値なので、経験則としては一定の因果関係があると考えていいでしょう。

終わりに

アンケート結果の分析は以上です。データから読み取れたのは、経験的にわかっている内容の裏打ちが多かったですが、具体的な数値で確認できたのは面白かったです。ご協力いただいた方々、どうもありがとうございました!

アンケート集計のデータは、生データのみ、googleスプレッドシートで公開してみますので、興味のある人は是非いじってみてください。管理人のスキルではわからないことも、統計スキルのある人が見たらわかることがあると思います。

 

https://docs.google.com/spreadsheets/d/e/2PACX-1vQWxUXxRCtcP1miTYpQT5OBZDVjqNycoxMV0qtotmGzog25tXcCuZqbuuGy3SaI5Zlaxj4lFLbcFVoT/pub?output=xlsx

 

以上

 

参考資料

オンサイト等のグレードとの相関

今回も参考として、RP限界グレード以外のグレード申告との関係グラフを載せておきます。全体的な傾向と概ね同じようです。

1日トライしてできたRPグレード

 

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フラッシュできた最高グレード

 

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コンスタントにフラッシュできるグレード

 

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相関検定の諸数値

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Beastmakerぶら下がり時間アンケート結果Part2

前回に引き続き、Beastmakerのぶら下がり時間とクライミンググレードの関係を調査したアンケートの結果をまとめていきます。前回のブログはこちらです。

takato77.hatenablog.com

前回は、アンケートの各項目について、回答の分布をまとめました。今回からはその回答をもとに、Beastmakerにぶら下がれる時間や懸垂の回数と、クライミングのグレードに相関が見られるか確認してみます。今回Part2はBeastmakerにぶら下がれる時間を分析し、次回Part3で懸垂回数を分析します。

管理人は統計は素人なので、誤ってることを書いているかもしれません。気づいたらご指摘お願いします。また、統計的な用語をごちゃごちゃ書いてますが、興味のない方は、グラフで自分がどのあたりに当てはまるか眺めるだけでも面白いと思います

一部データの除外

分析に入る前に、明らかにおかしいと思われるデータについては、除外をしておきます。

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表1.除外データ

前回のブログを公開したところ、「複数日トライしてRPできた最高グレード」の回答において、34という回答があるという指摘がありました。この34はVグレードだとV18、YDSだと5.16aくらいに当たり、世界的に見ても達成者のいない領域ですので、流石に入力誤りかなと考えられます。表1の黄色網掛けの部分になりますが、同一のデータにおける「1日でトライしてRPできた最高グレード」は21であることから、おそらく「複数日トライしてRPできた最高グレード」は24と入力したかったところ、誤って34と入力してしまったと想定されます。

また、もう一つ特異なデータとして、オレンジ網掛けのデータがありました。Beastmakerの14㎜エッジにぶら下がれる時間は2秒、懸垂は0回である一方、「複数日トライしてRPできた最高グレード」の回答は28で、これは四段相当となります。これは可能性としてゼロではないと思いますが、考えにくいことです。もしかしたら、片腕でトライした数値を投入いただいたのかもしれません。

今回の分析においては上記2点のデータは除外させていただきました。もし申告値に誤りが無かったら、わざわざ回答いただいたにも拘らず申し訳ありません。

 Beastmakerぶら下がり時間とクライミンググレードの関係

(例)複数日トライしてRPできた最高グレード

具体的な分析に入っていきます。まず、Beastmaker14mmエッジにぶら下がれる時間とクライミンググレードの関係を確認していきます。グレードは、レッドポイント、オンサイトなどいくつか申告いただきましたが、まず、「複数日トライしてRPできた最高グレード」について散布図を書いてみます。

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上のグラフの見方を説明します。例えば横軸が15秒のところで縦に点が6個並んでますが、これは15秒ぶら下がれると申告された方が6人いて、各人のRP限界グレードが17~23までばらついているということです。

このグラフを見ると、全体的に少しだけ右肩上がりに見えますが、かなりデータはバラついているのがわかると思います。例えば、上にあげた15秒のところを段級グレードで見ると、17は3級、23は二段です。別のところでいうと、60秒付近で、21(初段)と29(四段)に点があったりもします。

回帰分析

このデータのばらつき具合について、回帰直線を引いて確認してみます。回帰直線は、2つの変量(今回は”ぶら下がり時間”と”RP限界グレード”)の間に直線的な関係があるとした場合、最も確からしい直線となります。

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右上に決定係数R2=0.134というのがあります。決定係数は1以下の値をとり、簡単に言うと、1に近いほど、回帰直線の予測はよい精度ということになります。0.134というのはそれほど高い数値ではありません。どういうことかというと、例えば「Beastmakerの14mmエッジに15秒ぶら下がれるならば、その人のRP最高グレードは、回帰直線の横軸15に対する縦軸値22くらいだろう」と予測するのは無理がある、ということです。実際に散布図のデータ分布をみても、15秒のあたりは、グレードは17~28までバラついているので、直感的なイメージとも合いますね。

相関検定

回帰直線の予測精度はよくないですが、だから即ち、この2変量の間に相関は無いというわけではありません。詳細は省きますが、相関検定のP値は0.01(相関が無いという仮説が成立する確率は1%程度)となりますので、おそらく相関はありそうだという結論になります。本記事の文末に参考資料として相関検定の諸数値表を記載しておきます。

まとめると、Beastmakerの14mmエッジにぶら下がれる時間が長いほど、RP最高グレードが大きくなる関係性がありそうだが、その関係式はよくわからない、という感じです。もう少し言うと、単純な保持力のぶら下がりが同じであっても、RP最高グレードが上下する別の要因がかなりありそうだというこです。その要因は、テクニック・回復力・身長・リーチなど、クライマーに起因する要素もあれば、ジム間・岩場間のグレードばらつきに起因するものもあるでしょう(文字にすると、なんか当たり前のことですが)。

自身の立ち位置の確認

グレードがクライミングの全てではないですが、できるだけチャレンジングなルート・課題にトライしたいと考えるのはクライマーとして自然なことだと思います。上に上げた散布図のどこに位置するかによって、クライマーとして実力を向上させるための伸びしろを考えるヒントが得られそうです。

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グラフ下部グループの伸びしろ

グラフの下方に位置する人は、保持力の強さに比べて、比較的登れるグレードが低いと言えそうです。その原因は、もしかしたら体格などの遺伝要因の可能性もありますが、テクニック・メンタルなどのトレーニング可能な要因である可能性も十分あり、伸びしろに満ちていると考えられます。

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グラフ上部グループの伸びしろ

一方、グラフの上方に位置する人は、限られた保持力に対して、テクニック・メンタル面で様々な工夫をすることによって高グレードを達成している可能性があります。その場合、グラフの真上方向への伸びしろは少なそうです。先の検定で保持力とグレードに相関はありそうなので、地道な保持力トレもしっかり行い、少しでも右上方向にシフトできるように努力するのがよいでしょう。

ライミング嗜好でグループ分け

今回のアンケートでは、クライミングの嗜好(よく行うクライミング)も申告いただきました。ボルダリングしか行わないグループ(A:回答数30)と、それ以外のグループ(B:回答数19)で差異があるのか比較してみます。今回、複数回答可にしたので、スポーツクライミング・トラッドクライミングボルダリングを両方行うと回答した方もいますが、そのような場合は(B)に分類しました。

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(A)ボルダリングしか行わないグループ

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(B)それ以外のグループ

これらを見ると、(B)それ以外のグループ の方がデータのばらつきが少ないです。(A)ボルダリングしか行わないグループ は、統計的に見ても、決定係数が0に近いのに加え、P値も0.24で有意水準5%を満たしません。かみ砕いて言うと、ボルダラーのみのグループに限ると、単純なデッドハングのぶら下がり時間が長くても、それがクライミンググレードに影響を与えているとは言い切れない結果となっています

 なぜ上記のような結果となるのかは、仮説的に考察するしかないですが、以下のような要因が考えられるように思います。これらを検証するには、更なる調査が必要になりますが、面白いテーマです。

  • ルートクライミングは前腕の持久力が限界となって落ちることが多いのに対し、ボルダリングは前腕に力が残っているのに別の要因でムーブができずに落ちることが多い
  • ボルダラーのみのグループは、ジムのみで登る人が多く、ジム間のグレードのばらつきの影響を大きく受けている

 

以上

 

参考資料

オンサイト等のグレードとの相関

複数日トライしてRPできた最高グレードのほかに、以下のグレードについても回答いただきました。

  • 1日でRPできた最高グレード
  • OSできた最高グレード
  • コンスタントにOSできるグレード

全体的な傾向はあまり変わらないので、それぞれの散布図だけ参考として貼っておきます。詳細の説明は割愛しますが、特筆しておくべきことは以下あたりです。その他気づいた点があれば是非ご指摘お願いします!

  • (A)ボルダリングしか行わないグループ では、全てにおいて相関検定が有意水準5%を満たさない
  •  (B)それ以外のグループ では、コンスタントにOSできるグレードのみ、相関検定が有意水準5%を満たさない
 1日トライしてRPできた最高グレード

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フラッシュできた最高グレード

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コンスタントにフラッシュできるグレード

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相関検定の諸数値

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Beastmakerぶら下がり時間アンケート結果Part1

前々回のブログ記事

beastmakerぶら下がり時間とクライミンググレードの調査アンケート - May the friction be with you!で、英国のクライミングアプリメーカーによるアンケートを紹介しました。その後、もう少しライトな形で日本語圏のアンケートを行ってみるのも面白いと思い、googleフォームで項目を絞ったアンケートを作成しました。ツイッターで協力を呼び掛けたところ、管理人を含め51名の回答を得ることができました。感謝!

 

フィジカル数値に合わせて、レッドポイントやフラッシュのグレードも申告いただいたので、それらの関係性も確認したいのですが、それはPart2にまわして、今回は単純にアンケート回答の分布を公開します。

アンケート内容

アンケートはgoogleフォームで実施しました(現在は回答は〆切済)

docs.google.com

アンケート項目は、性別・年齢・体重などの基礎的な項目に加えて、クライミングのグレード(自己申告)と、フィジカル数値を確認しました。

ライミングのグレードは、最近6か月における実績値として、4項目を申告してもらいました。

  • 複数日トライしてRPできた最高グレード
  • 1日トライしてRPできた最高グレード
  • フラッシュ(一撃)できた最高グレード
  • コンスタントにフラッシュ(一撃)できるグレード

本当はジムと岩場のグレード乖離問題や、ジム毎のグレード乖離問題を考慮した方が、より正確な結果になると思いますが、回答しやすさを優先して割愛しています。

フィジカル数値は、元のアンケートではフロントレバーやハンギングニーレイズの項目がありましたが、今回はシンプルに以下二点にしました。

  1. Beastmakerの14mmエッジに限界までぶら下がれる時間
  2. ガバホールドもしくはバーで懸垂できる回数

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Beastmakerの14㎜エッジ

Beastmakerは1000も2000も14㎜エッジを備えているので、14㎜エッジに限界までぶら下がれる秒数を質問しています。

性別、年齢、体重

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性別は男性の割合が多かったです。女性のクライミング人口は増えている印象ですが、自宅にBeastmakerがあるという条件だとこのくらいかな?

 

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年齢層は30代がボリュームゾーン。10代の回答はありませんでした。

 

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体重は男性割合が多いからか、60kg代前半がボリュームゾーン

ライミングの嗜好

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本項目は複数回答可能としました。やはりボルダラーが多いです。

グレード申告

グレードについては、IRCRAが公開している、各国のクライミンググレード体系を変換するスケールに沿って回答してもらいました。

 

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IRCRAスケール

以下にグラフを貼っていきます青網掛けの数字で回答してもらいましたが、段級グレードやYDSに変換してみると実感が湧きやすいです。全体的には、想定通り、しっかり登り込んでいる人が多い印象でした。

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複数日のトライでRPできた最高グレードのボリュームゾーンは21。ボルダーで言うと初段易しめくらい、ルートだと5.12dくらい。

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1日でRPできた最高グレードのボリュームゾーンは20。1級くらい。

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フラッシュ(一撃)できた最高グレードは17と20にピークあり。17は3級、20は1級くらい。

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コンスタントにフラッシュ(一撃)できるグレードだと17にピーク。最高グレードでは20と答えた人が多かったのは、ジムや岩場のグレードのばらつきが影響してるかもしれません。

フィジカル数値

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Beastmakerの14mmエッジにぶら下がれる時間は、全くぶら下がれない人から1分以上ぶら下がれる人まで。15秒と30秒にピークがありました。

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懸垂できる回数は、10回以上できる人が多かったです。

 

冒頭に記載したとおり、次回は、フィジカル数値とグレードに関係性が見られるか、分析してみたいと思います。

極めて軽量な携帯型ハングボードi-VOU

携帯可能な国産ハングボード、i-VOU。ずっと欲しかったんですが、在庫がついに出たので、矢も楯もたまらず購入しました。

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i-VOUの仕様や基本的な使い方は、公式のyoutubeチャンネルが一番わかりやすいので、そちらを見ていただきながら、本記事ではインプレッションや使い方のバリエーションを紹介します。

 


i -VOU

 

インプレッション

  • 重量

最初に郵便受けに届いた箱を持ち上げて、その軽さに衝撃を受けました。製品重量は300g程度で、クライミングシューズの片足分より少し重い程度です。

同じように携帯性に優れた製品としては、tension climbingのフラッシュボードがあります。フラッシュボードはホールドの種類が多いですが、重さが907g近いです。岩場へ持ち運ぶことを考えると、ペットボトル1本分以上軽いのはかなりのメリットです。

  • 保持感

材質は朴(ほうのき)という木で、滑らかに仕上げられていますが、チョークを乗せるとしっかりとフリクションを感じられます。

保持面には少しアールがついています。アールは、Beastmaker2000と比べて少しシャープで、マイクロスと同じくらいですが、ぶら下がって痛さや不快感を感じるかとはありません。

  • エッジサイズ

エッジサイズは9mm、12mm、15mm、18mm。一番大きいエッジサイズは18㎜ですが、ウォームアップではハードに感じる人もいると思います。その場合、上下の36㎜の面を、ガバではなくエッジとして使用し、ハーフクリンプでぶら下がるのもいいと思います。

使用目的

使用目的としては、大きくウォームアップとトレーニングに分かれます。

ウォームアップ

ウォームアップとしては岩場での利用が主になるでしょう。リードクライミングを例にすると、目的のルートより低いグレードのルートを2本くらい登ってアップとする人が多いと思います。しかし、目的のルートの核心で出てくるような細かいカチやポケットに対して本当に充分なウォームアップと考えると、それでは不充分です。核心で必要となる力の80〜90%くらいの出力をしておきたいですが、それに適したルートを岩場で頑張って探すより、i-VOUにぶら下がった方が早いでしょう。指皮の節約にも最適です。

レーニン

自宅でのトレーニング目的にももちろん使用できます。固定型のハングボードのようにぶら下がるのが基本となりますが、携帯型ハングボードの利点として、足にスリングをかけて引っ張る事でも、指にトレーニング負荷をかける事ができます。

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上の写真のように立って行ってもいいし、下のyoutube動画では座って行っています。


CSTV: At Home Using the Tension Flash Board

最初に見た時、この足にかけるやり方は十分に指に負荷をかけることができるのか少し疑問に思ったのですが、実際のところは自身の限界ぎりぎりの負荷をしっかりかけることができます。少し余談になりますが、以下に解説します。

オーバーカミングアイソメトリックとイールディングアイソメトリック

i-VOUのような携帯型ハングボードに対し、ぶら下がる動きも、足にかけて引っ張る動きも、腕から指にかけての動きは、筋肉を一定の収縮状態で固定して力をこめるアイソメトリック(等尺性)運動となります。しかし、その運動の強度を決定する要素という観点では、2つの運動は少し異なります。

i-VOUにぶら下がる運動は、自分の体が重力に引っ張られて地面に落ちそうになるのに抵抗して、肩・肘・指などの関節を動かないように固定するアイソメトリックです。このような運動をイールディングアイソメトリック(Yielding isometric)と言います。イールディングアイソメトリックにおいては、負荷量は動こうとする物体の力に依存します(ぶら下がりの例では体重)。

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図1. イールディングアイソメトリック

一方、i-VOUのスリングを足にかけて指で引っ張るような運動は、動かない足を支点にして思い切り引っ張る運動です。こちらも、肩・肘・指などの関節が動かないのは一緒ですが、元々動かない物体に対して力をかけるので、負荷量は引っ張る人がどれだけ力を入れるかによって変化します。このような運動をオーバーカミングアイソメトリック(Overcoming isometric)と言います。

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図2. オーバーカミングアイソメトリック

 

どっちの運動が強い負荷を発生させることができるかというと、実は原理的には後者のオーバーカミングアイソメトリックになります。あるエッジにぶら下がる際に、ゆっくりと指先に力を入れていくような動作を考えてみます。

最初のうちは体重よりも小さい力しか指先に発生していないので、体は動きません。この状態は動かない物体を引っ張っているのでオーバーカミングアイソメトリックです。体重より少し大きい力が発生すると体が浮き、イールディングアイソメトリックに移行します。実際には体重以上の力を発生させる余力があっても、体が浮いてしまった以降は、体重以上の負荷は指にかからなくなります。

例えば300kgの重りを体に装着しておけば、アダム・オンドラでも体は浮かないでしょう。そうすると運動はずっとオーバーカミングアイソメトリックとなり、肩・肘・指の関節を固定させる筋肉が限界ぎりぎりの筋力を発生させる必要がある負荷をかけることができるのです。

アイソメトリックに関する一般的な話は以下の記事にも書いたので参考までに。

takato77.hatenablog.com

 

最後はマニアックな話になってしまいましたが、早く岩場でi-VOUを使いながら登りたいです。それまではデッドハングやBFRレーニングに活用して持ち感に慣れておく事にします。